第1話 小山斗真

 聞き慣れたメロディが、旧型のスマホに着信があったことを知らせた。


 小山斗真こやまとうまは大学に通う19歳だ。

 通うといっても、斗真が生まれてから学校と名のつくものの主流はリモート講義で、大学というネット上のアドレスにログインすることが通学を意味する。


「表参道か……」


 スマホには地図が表示され、表参道の十字路付近にポイントされている。


 斗真は日課のワークアウトを終え、シャワーに向かう。7時に起床し、講義のない日はまずは筋トレが朝のルーティンになっている。

 武道を嗜む父親のもと、幼い頃から体を鍛えることが習慣になっているため、細身ながらも瞬発力に優れた筋肉が発達していることを、斗真は密かに自慢に思っている。

 

 さっとシャワーから出ると、アンダーウエアの上にサイクルジャージを着て、いつもの装備を身につけていく。ジュートと牛皮を縫い合わせたネックガードは支給されたものだ。肘まであるグローブも一緒に渡されたが、クロスバイクのハンドルを握りにくいので腰のベルトに挟んでいる。


 ベルトにはグローブの他に高輝度ライト、そして銃。

 銃といってもエアガンである。斗真はマガジンに十分な弾が入っていることを確認して、一度ぎゅっとグリップの感触を確かめる。いずれも凶暴な動物に出くわした時に、逃げる隙をつくるための道具だ。強烈な光や音は、ゾンビ化した動物とはいえ有効である。

 

 ゴーグルと、マスク代わりのネックウォーマーをきつめに装着して、使い古した大型バックを背負う。指示のあった表参道のポイントへはクロスバイクで30分だ。斗真は昨日のニュースで野鳥のクラスターを特集していたことを思い出す。場所は代々木公園だった。


「ダッシュ、表参道まで代々木公園を迂回する経路」


 斗真は自身のスマホに昔飼っていた犬の名前を付けている。

 ダッシュは経路を検索し飼い主に道順を示した。


「怠いな、あのへん仕事多いし近場に引っ越すか……」

 ダッシュが検索した道順と付近の地図を見ながらぼやき、玄関を出た。


 外はまだ肌寒い。

 人のいない街並みに吹き込む風が余計に春を遠くに感じさせた。

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