第二章 出会い

第7話 少女と猫

「なんやぁ、佳代ちゃん。もう寂しゅうなって泣き入っとるんかいな?」


 何とか座れた椅子に小さな身体を押し込め座る佳代の肩の上でぴいちくと喧しく喋りだす火矢。


「ちょっと、他の人に喋っちょるのを見られたらどげんすっとねやん……」


「心配せんでん大丈夫や。うちの声は佳代ちゃんにしか聞こえへんねんから。それにな、佳代ちゃんこそ、うちに喋りかける時には、心の中で話しかけるんや。せやないと、独り言の多い痛い子やって思われんで。しししっ」


「……」


 嫌ぁな笑い方をしながら火矢はそう言うと、がたんごとんと揺れる汽車の律動が心地よく眠気を誘われたのか、うとうとと眠たそうになっている。


『案内役が居眠りしようとしとるやん……』


 ちょんっと雀の小さな頭を突っつくと、慌てて目を開く火矢の姿が可愛く、ふふふっと笑ってしまう佳代であった。


 しばらく火矢と他愛のない会話をしたり、車窓からの風景に見蕩れながらして汽車に揺られ続けていた。


 すると木々の間を抜けると車窓の景色が一変した。


 きらきらと陽の光を反射し眩しくてまともに見れない海。


 しかし、佳代は生まれて初めて見る海に目を細めながらも、その景色を瞼に焼き付けるように眺めている。


 するととある海沿いの駅でゆっくりと汽車が停車した。


 この駅で多くの人が降り、代わりに僅かな客が乗り込んでくる。


 その中の一人、年の頃は佳代と同じくらいと思われる女の子が佳代たちの目の前の椅子へと腰掛けた。


 肩程までの髪、前髪は眉の上で綺麗に切りそろえられている。切れ長の目の奥に何か強い意思の様なものがある、とても綺麗な少女であった。


 そして目を惹くのは、その美しい容姿だけではなく、大切に握られている鬼切安綱よりも少し短い二尺四寸程の刀。


「佳代ちゃん、あれな、あの子が持っとんのな沖田総司が使っとた菊一文字則宗やで」


 その刀を見た火矢はひそひそと佳代の耳元で囁いた。


 だからなんなんだろう?火矢の言っている意図が分からない佳代は「?」という表情を見せている。


「あのなぁ……このご時世に日本刀、しかも由緒ある業物持ち歩く少女がおるかいな。佳代ちゃんと同じ人種やっちゅう事や」


「……えぇっ」


 佳代は自分が刀を帯刀している事から、すっかり感覚が麻痺していたのか、そんな事すら思い浮かばなかった様子である。


「なにしとんねん、竹子が見とったらほんまに泣くで」


「ごめんやん……そげん言わんでん良かろうもん……」


 しゅんとなる佳代へさらに追い打ちをかけようとする意地悪雀。


 しししっと笑いながら、次の言葉を口にしようとした時である。


「五月蝿い雀っ子、黙らんと頭から喰らおうか?」


 少女の足元からぬらりと姿を現す一匹の三毛猫。よく見ると尻尾が根元より二つに分かれている。


 所謂、猫又である。


 猫又はぴょこんと少女の膝の上に乗ると、大きな口を開けて欠伸をした。

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