第33話居酒屋で1

「おぉーい、西條くん。こっちこっち、こっちだよーっ」

騒がしい空間に足を踏み入れると、苗字を呼ばれ、呼ぶ声が聞こえた方向に視線を移す。

誘い出した人物が片手を大ぶりで振ってから手招きしていた。

手招きしている彼女に歩を進め、歩み寄る俺。

「すみません、待たせてしまって。話があるってことでしたけど、例の……?」

カウンター席に腰を下ろした羽風の隣の椅子に腰を下ろしながら一言謝り、おずおずと訊く俺。

「約束よりも早く来ちまう性分だから良いって、謝んなくて。そんな怖い顔しなくっても、あの娘の話題ことじゃないからさぁ……肩の力抜けって」

羽風は気にするなといったふうに右手を顔の前で振ってからぽんぽん、と肩を叩いてきた。

「は、はぁ……そう、ですか。でしたら、どういった用件で……?」

「まだかったいなぁ〜表情かおがさぁ〜。あの頃の印象が抜けきってない感じだなぁ……緊張しなさんな。ウチが海音に一度でも手ェあげたことあったかい?ないだろうよ、海音ぉ〜」

「ええ、まあ……そうですね。そ、それで、用件は——?」

「希咲っちと話すみたいに砕けようぜぇ〜海音ぅ〜。たわいない雑談といこうぜっつぅのよ。今はあの娘の保護者って立場で会ってるんじゃねぇんだからさぁ、楽しく楽しく飲もうって」

「は、はぁ。さすがに希咲先輩みたいには……えっと、羽風先輩はあの方々とはどうしてますか?」

「ノリ悪りぃなぁ〜海音はぁ。希咲っちらか……希咲っちとは大学んときもつるんでたよ、ののちぃは高校卒業してから大学んときは逢えなくて大学を卒業してから二度くらい逢ったくらいだな。阿嘉坂とは、まあ……」

彼女は阿嘉坂先輩のことを発して顔に陰りを浮かせ、言い淀んだまま俯き、お冷やを喉に流した。

「えっと……その、阿嘉坂先輩がどうか、されたんですか……?」

「あ、ああ……いや、なんでも。海音こそ高校卒業してからどうしてたよ。いつこっちに移ったんよ?聞かせろよ、海音」

「……えっと、大学の入学を機にって感じで——」



居酒屋での羽風との付き合いは続くのだった。

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