第9話 色雨(しきさめ)

 風は吹いていなかった。

ぬるい空気がそこに止まっていて、それをかき分けて進む私は、どんな顔をしていただろう。

 街中を探し回ったが、坊やの姿はどこにも見当たらなかった。

 本当に、どこへ行ってしまったというのだ。神隠しにでもあったかのように、忽然こつぜんと姿と気配を消した、最愛の坊や。


 箒を使って空を飛ぶことも、多少体力を使う。疲れたら地上に降りて休み、また空へ戻る。

 そんなことを繰り返しているうちに、空が白んできてしまった。


「坊や、どうか無事でいておくれ……。無事でいてくれたなら、私のことなんか嫌いになっても構わないから」


年齢も影響し、さすがに疲れきってしまったので、少し休もうと思って家に戻ってきた。

 坊やのことが頭から離れない。眠れるわけなどなかったが、横になって身体を休めるけでも少しは回復するだろう。


 箒から降りて玄関に立てかけようとしたその時。乗っていた箒が少し、湿っているような気がした。雨も降っていないのに、どうしたのだろう。

 自然の光を駆使してよくよく見ると、箒の柄の部分から緑と紫の液体が滲み出ているのが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る