第2話 素材買取所

黄昏たそがれの空の下、町に戻った俺は顔馴染みの人たちと挨拶を交わしながらギルドに向かった。

とはいっても、町の門からそれほど離れてはいない。


ギルドの建物に近づくにつれ、中の喧騒が外にまで聞こえてくるが、いつものことだ。依頼を終えた連中が、飲んで盛り上がっているんだろう。


裏口へまわり奥の素材買取所へ向かう。

ここでは採取したものや、狩った獲物の査定や解体をしてくれる。まあ解体料は買取金額から差し引かれるが。


「よう、ヴェルデ。今日は遅かったな。」


カウンター越しに、黒い短髪で目元に傷のある厳ついオヤジ、アルサドが声をかけてきた。

俺は腕輪バングルに触れ、薬草の入った皮袋を四つ出した後、カウンターにある読取魔具ボード腕輪バングルをかざした。


俺が着けている腕輪バングルはギルド登録時に支給されたもので、特殊な水晶オーブが嵌め込まれている。

この水晶オーブに個人の血と魔力を記憶させる事で本人である証明ができ、収納物は基本本人にしか取り出せなくなる。そのうえギルドに登録した情報や、討伐対象等が記録される冒険者証にもなっている。

読取魔具ボード水晶オーブの情報を表示させたり、新たに記録するための魔具だ。


「ああ、採取の依頼に行ってたんだが、森を出ようとしたところでボアに出くわした。」


「ほう、ダミ草に瘡王クオウ草、疼取タドリ草に黄烏瓜キカラスの実か。相変わらず状態がいいな。それにしてもボアと遭遇なんて、そいつは災難だったって言うとこだが……お前以外のランクのやつならな。」


薬草を確認しながらアルサドが面白いことを聞いたという声音で言う。


冒険者のランクは未成年みならいのFを除いて、E新人、D一人前、C中堅、Bベテラン、A一流といった具合に、実力に応じてランク分けされている。

さらにこの世界に数人しかいない、人外や英雄なんて呼ばれる超一流ランクオーバーがいるらしいが、生憎とお目にかかった事はない。


そして俺の冒険者ランクはC。

世間では中堅と言われるランクだが、周囲の上級者ランカーからはB級ランクアップも見えてるんじゃないかと言われてる。

要するに、ボア程度は俺の技量なら余裕と判断されてる訳だ。


「まあね、おかげで予定外の収入に感謝だよ。かなりの大物だ。」


そう返しながら、査定が終わったところで再び読取魔具ボード腕輪バングルをかざし査定結果を記録すると、改めてカウンター横の素材置き場に大猪ボアの巨体を取り出した。


「こいつぁ、でかいな。三百トラムはあるんじゃないか? お前、いくら腕があるって言っても、あんまり奥まで独りで行くなよ。」


アルサドが驚いた後カウンターから出てきて、先程と変わって注意してくる。

それと言うのもガルブの森は広大で、奥へ行くほど強い魔物に遭遇しやすくなる。

森の外縁そとで遭遇するボアの大きさは精々酒樽一つ分程だ。荷車これ程の大物を目にすることは滅多にない。

なのでアルサドは俺がいつもの外縁ばしょより奥へ入っていたと思ったのだ。


「いや、奥には行ってないよ。いつもどおり外縁そとで採取してたら大猪こいつが突っ込んできた。」

「…そうか。これ程の大物だったとは。遭遇したのがお前で良かったと言うべきか。それで大猪こいつはどうする?」


アルサドは俺の話に何か思うところがあったようだが、すぐに表情を緩めそう言った。


「いつも通り、魔石いし以外は買い取りで。受け取りは明日以降で頼むよ。もう、腹減っちゃってさ。」


任せとけ、というアルサドの返事をもらい俺は受付へ向かった。





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