12

「らぁん……らんらぁ……らんらららぁん」


「らんらんらんらら……らんらららん」


「らんらららんらら……らららららん」


 クラン帝国とハインツの国境沿いの深い山々の中にある山道を歩く三つの影。他の二つの影に比べ一つはとても小さく、1103と対して変わらないほどの背丈である。


 その小さな影が楽しそうに何かの歌を口ずさみながら、二つの影に両手を握りしめられ歩いている。


「ご機嫌さんどすなぁ……」


「ほんまやなぁ……何処ぞかへ遠足でも行きますの?」


 二つの影が小さな影へと話し掛ける。その声は少女と呼べるくらいの声色であった。


 一人は前髪を眉の上で分厚くまっすぐに、そして、横の部分は顎のあたりで切りそろえられ、長い黒髪を頭の右側で纏めている。


 もう一人は同じ髪型ではあるが長い黒髪を左側で纏めている。


 そして、二人を見て真っ先に目がいくのが、二人とも両目を厚い布で覆っているのだ。右に髪を纏めた少女は白い布、左に纏めた少女は黒い布。


 それでもなんの淀みもなく流れる水のようにスムーズに小さな少女と手を繋ぎ歩いている。


 そして、小さな少女は二人と違い、髪は肩の辺りまでしか伸びおらず、前髪は右側だけ顔半分を隠すかのように伸ばしている。髪に隠されず見える左の瞳は、まるで燃える夕陽のように真っ赤な色をしている。


 風に揺られる右側の髪の下に見えたのは、右目を覆う黒の眼帯。


「そやで、遠足や。悪者退治の遠足やで、桔梗に牡丹」


 白い包帯の少女が桔梗ききょう、黒の包帯の少女が牡丹ぼたんの様である。


「悪者退治の遠足やて、また上手いことを仰りますなぁ……九尾きゅうび姫」


「ほんまやなぁ……ほほほ」


 空いている手で口元を押さえながら笑う牡丹と、九尾姫と呼ばれた少女の反対側の手を握り同じように笑う桔梗。


「ほんまに悪者退治やで。うちらのおとんとおかんの仇取りに行くんや」


「仰る通りやわぁ、九尾姫」


「我らの恨み、晴らさせてもらわなあきませんへ」


「先に行っとる椿姉さんも頑張っとるんやから、うちらも負けんとやらなあかんやろ?」


 桔梗と牡丹の顔を交互に見て無邪気な笑顔でそう言う九尾に二人が頷く。


 彼女たち三人もどうやら極東の島の残党であることは間違い無いようである。以前、椿達が山小屋で話していた帝が送った暗部の三人なのであろう。


「そや、準備運動せなあかんなぁ……」


 先程までの無邪気な笑顔から一転し、にたりとした見るものを凍てつかせるような残酷な光りを宿した笑みを浮かべる九尾。


「ほんまやなぁ……」


「準備運動になるやろか?」


 ちらりと辺りを見回す桔梗と牡丹。


 すると森の中から十五人程の下卑た笑みを浮かべる髭面の男達が姿を現したのである。この辺り一体で悪さを働いている山賊共であった。


 山賊共はそれぞれに、山刀や斧、旧式鉄砲等の武器を手に持っている。


「盲目の少女ガキが二人と、片目の童女チビ童女チビは殺して、盲目の少女ガキだけ生け捕りにしろや」


 一際体の大きく体中毛だらけの男が、周りにいる仲間達に声をかけると、にやにやと下卑た笑みを浮かべた山賊共が九尾達へと近寄っていく。


「なんやぁ……うち、殺されるんやて」


 桔梗と牡丹の顔を交互に見比べてそう言う九尾にくすくすと笑っている二人は、九尾から手を離すと、すっと刀に手をかけた。


「姉ちゃん達、抵抗せん方が良いぜぇ、傷物にしたら値段かちが下がるんで大人しくしとけや、な?」


 毛だらけの男はにやにやとしながらそう言い、一歩三人へ近づいた時である。空気を切り裂く音と共に、毛だらけの男の首がぽとりと地面へと落ちていった。


 頭のなくなった体は血柱を上げながらしばらく立ったままでいたが、ゆらゆらと揺れながら地面にうつ伏せに倒れていった。

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