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 ここ一ヶ月の間、今まで頻繁に行われていたハインツとクラン帝国の国境線での小競り合いは無く、お互いに睨み合う状態であった。


 ハインツは変わりない国内情勢であり、何時でも出征可能な臨戦状態を維持している。しかし、クラン帝国が動かないのである。あれだけ頻繁に仕掛けて来ていたクラン帝国がである。


 クラン帝国に何があったのか。


 各地に散らばっている特務部隊からの報告では、最小限の兵だけを残し、ハインツとの国境線に配置されている兵を引き揚げている。


 いよいよ、ベルツ連邦やラルクラ王国らの周辺諸国との戦争が本格的に勃発したのか?


 しかし、その様な情報は一向に入ってこない事を考えると、別な何かがクラン帝国で起こっているとしか考えられない。


 別の何かとは?


 やはりあの駐屯地で会った極東の島の残党が関係あるのだろうか、そう思えて仕方ないイヴァンナであったが、確かな情報が全くない中では動きようがないのも事実である。


 そして、今イヴァンナの元には戦線に復帰出来る程度に傷の癒えた963もいる。963の監察官であるユリアはまだ戦線復帰するのに時間が掛かりそうだからだ。


 やはり、能力者である963と常人であるユリアとの回復能力の差は大きい様である。


「963の事は頼んだぞ」


 少し前に療養施設のベッドで身体中を包帯で巻かれたユリアは、身体を起こすことが出来ない為、イヴァンナへと手を伸ばしながら伝えてきた。


 その手をしっかりと握りしめ頷いたイヴァンナは、ユリアが復帰してくるその日に963を無事に合わせれる様にしようと心に誓った。




 そしてその頃、ハインツやその他の周辺諸国へ驚くべき情報が飛び込んで来たのだった。


 クラン帝国の第三皇太子がひと月程に病で急死していたとの情報である。ちょうど、クラン帝国が慌ただしく兵を引き揚げ、小競り合いが無くなってきた頃の事だ。


 本来であれば、第三皇太子が病死したならば、国を上げての葬儀が執り行われるのが当然であり、周辺諸国の主要人物達も国賓として参列するはず。


 しかし、それをクラン帝国はひと月もの間、隠し通していたのである。


 しかも、今頃になってそれが露見している。


 いくら隠し通そうとしても、そこら辺の人間が死んだ訳では無い。やはり人の口に戸は建てられぬ。どこからか漏れてしまったのだろう。


 捕虜収容所に慌ただしく特務部隊らの人間が出入りしている。クラン帝国の戦場監察官であるルイーサに話しを聞くためであろう。


 病死するほどの病を第三皇太子が患っていたのか。それとも、元々身体が弱かったのかなどなど……


 しかし、ルイーサからの答えは全てノーであった。第三皇太子の身体は至って頑強であり体調管理も国を上げてされてあり、流行病が流行っていたという事もなかった。


 健康的には問題もなく、クラン帝国に流行病もなかった。しかも、これだけひた隠しにしてあったことも勘案すると、考えられる事は一つ……やはり暗殺である。


 しかもタイミング良く、その当時クラン帝国周辺に極東の島の残党の目撃情報が複数あっているのだ。


 だからこそ国境線の兵を引き揚げ、主要都市などへの配備を強化する必要があったのだろう。皇帝や他の皇太子を守る為にも。

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