第41話 終末の願い


 真っ暗な世界だった。


 肉体から魂が抜け出る感覚に、アルカナは自分の魂の形を視た気がしたが、それも定かではなかった。


 何も見えない。

 世界は、深い闇に包まれている。


『長い間、本当にご苦労さまでした、終末ノ巫女アルカナ』


 神凪かんなぎ・ルシアの声がした。


『……終わったのですね?』


『ええ、間もなく……あなたの命は尽きます』


 ルシアの穏やかな声がアルカナの死を告げている。

 目立った感情はなにも起こらなかった。ルシアも淡々と、アルカナの死を受け容れている。


『……サキガミ・キサラは?』


『もう幾ばくの余命もありません。愚かにも、鬼に自らの命を喰わせたのです』


 静かな声がキサラの最期を予言している。


『……愚かでしょうか……』


『ええ、とても――』


 ルシアは毅然とした口調で呟き、深く溜息を吐いた。


『さて、アルカナ。あなたの消滅の前に、ひとつ願いを叶えましょう』


『……ルシア……?』


 思いもしなかったルシアの言葉に、アルカナの声は震えた。


『勘違いのないように。これは創世の女神アウローラ様からの最期の慈悲です』


『……有り難く受け取らせて頂きます』


 アルカナは意識の中で、女神の慈悲に跪き、深く頭を垂れた。


 負の連鎖を終わらせるのは、死ではない。


 己の死と引き換えに、そのことを、アルカナは悟った。


『サキガミ・キサラが生み出す新たな命に、星の加護のあらんことを』


 それ故に、アルカナは新たな誕生を祈った。


『……それがあなたの願いですか?』


 ルシアが訝しげな声で問いかけたが、アルカナの答えは変わらなかった。


『負の連鎖は、私が断ち切らなくては。愚かな人間を生み出さないためにも』


『……ええ。だからこそ、私たち神人が必要なのです』


 納得したようなルシアの声から、女神がその願いを承諾したのだとアルカナは解釈した。


『……おやすみなさい。アルカナ』


 ルシアが永遠の眠りを告げる。


 アルカナの最期の言葉は、闇に消えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る