この物語の読者は桜の木の下にいる。

『短編集 桜語(さくらがたり)』は、桜の木の下に立ったときに起こる、美しさに見惚れるだけでなく、切ないような心もとないような、何か心を掻き立てられるような感覚を呼び起こす作品です。

物語の語りは告白のように美しく、まるで手招きされるようで、誘われるままに作品世界にふらふらと入り込んでしまいます。それは、私たちが桜を見た時に、その美しさに誘われて木の下へ歩いていくかのようです。
物語の内容は、よろこびや幸福、孤独や悲しみなど相反した感情が同居しており、心がざわめくような、切ない余韻が残ります。
繊細さの中に物語をとおし愛や優しさがあり、強さがあります。それは桜の美しさそのものだと思います。

読者の意識をここではないどこかへ連れていってくれる、素晴らしい作品だと思います。