第13話 何にでもキッカケがあるって事








 「ーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」





マリアは声にならない声を上げて地面にへたり込んだ。目の前で自分の身代わりになって死んだ恐怖で目を見開いたままエドワードの血で濡れたミラは真っ青な顔で動けなくなっている。

エミリヤとアクスもそれまでどうにか助けようと攻撃していた手は止まり、目の前の惨状を理解できずにいた。



 「おっ♪しっかりエドワードくんを味わっている様だね?今のうちに狩るぞ!!」

 「任せろ、『闇突き』」

 「炎舞!!」

 「剛腕連打!!」



エドワードに意識が向いて隙だらけになった入洞蜘蛛の急所に攻撃が次々と当たっていく。マリア達の目に映るのは映像としてでしかない。今、自分達の身に降りかかっている事として認識できなくなっていた。

そしてしばらくして入洞蜘蛛は倒された。『暗黒竜に使えし四天王』の面々はエドワードに見向きもせず討伐証明部位を回収し、入洞蜘蛛の体内にある素材を回収していた。



 「うむ、これで私達もBランクに上がる事が出来るな!!」

 「我々の糧になれて雑魚エドワードもさぞかし喜んでいるだろう」


 「ふっふざけんなクソがっっっっ!!!」


ーーードォォォォォォォンッッ!!


アクスが怒りに我を忘れ魔弾を『暗黒竜に使えし四天王』に向かって撃ち放った。


しかし、レベル差がかなりありデランドによって防がれた。




 「いやぁー怖いですねぇ?いきなり私達を攻撃してくるなんて・・・。記録魔道具持ってきていて良かったですよ」



フィレックスは首に下がっているネックレスの水色の球を見せつけてきた。それは記録魔道具だった。それをデランドに渡した。



 「テメェら・・・わざと最初から・・・」


 「何の事ですか?全く躾のなっていない獣ですね貴方は」



アクスにフィレックスが近付いていき、耳元で囁く。



 「エドワードくんは恋人に告白する為に指輪を買ったと飲み屋で言っていたみたいなんだけど、昨日その彼女私が美味しく頂かせて貰ったよ。知らずに逝けて良かったと思わないかい?アクスくん、『フィレックス様が君の愛する彼女を愛人にしてくれたから何も心配はいらないよ』って彼に伝えてあげてくださいね?」


 「クソガァァァァァァーーーッッッッッッッッッ!!!」



アクスはフィレックスを押し倒して馬乗りになり、殴りかかろうと拳を上げるものの『暗黒竜に使えし四天王』の仮面のリンダと剛腕のモロブによって止められた。



 「ふう・・・全く困ったものだ。この事はギルドに報告させて貰いますね」


フィレックスはアクスから離れるとデランドからネックレスを受け取り、それに手をかざすと色が青に変わり記録を終了した。先程の事もしっかり撮っていたのだ。わざとアクスを煽り手を出すところを記録し、ギルドに心証を悪くさせるつもりなのは明白である。


そして用が済んだとばかりにさっさと『暗黒竜に使えし四天王』のメンバーらは転移ゲートにより振り返る事もなく去って行った。





エドワードの方を見ると、もうほとんど原形を留めていない彼の身体を泣きながらミラが回復魔法を使い続けている。その顔は真っ青で恐らくもう魔力が尽きかけているのだろう。

焦点の定まらない目のユリアナはぶつぶつ何かをずっと呟いている。近づいて聞いてみると「殺されるくらいなら殺せば良かった殺した後・・・」とユリアナはずっと殺人鬼の様な言葉を呪文の様に垂れ流していた。マリアは耳を押さえ身体を揺らしながら「あーーーー」と言い続けている。


アクスは『あぁ、もうこのパーティーは終わったのだな』と、この時感じた。





しかし、悲劇はこれだけで終わらなかった。





生き残ったメンバーをアクスが転移ゲートに無理やり押し込み地上に戻った。遺体が回収できなくてもせめてエドワードの遺品だけでもとアクスはかき集め持ち帰った。

なんとか思考を動かせているアクスが帰還報告と『暗黒竜に使えし四天王』とのいざこざ、エドワードの死亡報告を行いに地面に縫い付けられているかの様な泥に沈んだ気持ちのままギルドへ1人向かった。


すぐに拠点に戻ってエドワードの事を悼もうと思っていたのだが、そうはいかなかった。


 「『無慈悲なる運命さだめ』のDランク冒険者アクス貴方とパーティーメンバーに出頭要請が出ておりますので自警団の方へ出頭してください。」

 「なっなんでだ!?」


受付のポニーテールの女性に言われ何が何だか分からないので何故か分からないアクスが問う。


 「お分かりにならないんですか?貴方には『暗黒竜に使えし四天王』のフィレックス様への暴行容疑が掛かっています。そして『無慈悲なる運命さだめ』のメンバー全員にエドワードさんの殺害容疑が掛かっています」


 「っっ!!それはっ・・・フィレックスの件は本当だがそれは、アイツらがミラを入洞蜘蛛の餌にしようとしたのをエドワードが庇って殺されたからじゃねーか!!!アイツらが10階層から転移魔法陣で30階に勝手に転移させて嵌めたのにアイツらじゃなくなんで俺らに殺害容疑が掛かってんだよっっ!!!おかしいじゃねーかっっ!!!」


 「あー、ここに居たのだね。帰還した報告があったから来てみれば・・・。言いたい事は取り調べ室で聞くから。ここに居て叫んでたら他の罪状が付くよ?」

 「くっくそが・・・」



アクスが出て行く時に見たギルドの受付・ギルド内に居た他の冒険者達の顔は含み笑いをしており、コイツらは領主の息子であるフィレックスの味方なのだと分かった。そしてタイミング良く現れた自警団ももちろんそっち側で今更自分達が何を言っても覆せない絶望感に身を引き裂かれた。


その後、他の抜け殻の様になっているメンバーも無理やり連れて来られて取り調べを受けた。フィレックスの記録した記録魔道具は良い様に繋がれ、フィレックス達の不利益の部分は全て消されていた。そして、遺品として持ち帰った大した価値のないエドワードの物を『仲間割れにより殺害した上、金目の物を盗んだ』とされた。

他のメンバーも仲間の死に何も考えることが出来る者がおらず、反論もままならなかった為どうしようも出来なかった。全てがグルで真実はどこにも存在しないまま有罪となった。


数日間牢に入れられていたが、何故か突如無罪になって出され遺品も返却された。


それでも心は晴れない。


 「あーくんエディはどこー?せっかくエディのために大好きなおやつ作ったのにいないの」

 「・・・エドワードは今実家に帰ってるって言っただろ」

 「そっかー!じゃあこれはあーくんにあげるね!!」

 

このマリアとのやりとりは牢を出てから毎日続いている。


 「ねぇアクス聞いてよ〜昨日飲み屋で絡んできた男と寝たんだけど、しょーもない男でさぁ」

 「また知らない男と寝たのかよ。お前自分の事大事にしろっつってんだろ」

 「別にどうだって良いじゃない」


ユリアナは男を手当たり次第引っ掛けては遊ぶ様になった。そして手ひどく振る事で自身が男より優位にいると感じたい様だ。



 「先輩聞いて聞いて!!お金だいぶん貯まったんですぅ!!昨日捨てられてた布拾ったんですけど、それが素材だったんです!!なんと銅貨1枚と交換出来たんですよ!!私運良くないですか!?」

 「それは良かったな」



ミラはあの時最高位の回復薬さえ有ればエドワードは助かった筈だと、貧乏な自分を呪い守銭奴になった。そしてミラは自分の身代わりでエドワードが亡くなった事もあり日に日にやつれていっている。


アクスは他人が信用出来なくなりパーティーが組めない状態の今、臨時パーティーを組んでダンジョンに挑めるがそれも出来なくなった。森に出て一人で魔法銃で狩りをしてその日の食べ物を調達しながら過ごしていた。


たまにギルドに行くとまだ疑われているのか白い目で見られ、人の目が気になり人との関わりは最低限になっていった。




そんな鬱々とした期間が4年も続いた。




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