第3話


 次の日その知人女性へ会いに行くと、

 Aと親しくしていた女性についてこう話してくれた。


 何となく違和感があって不気味な感じがしたと。



 偶然ランチで入った店に二人がいてAと話をしていると、お金だけ置いて気付いたらその女は居なくなっていたとゆう。


 確かに変と言われると変な話だ。

 話終わるのを待てばいいだけで帰る必要はない。

 まるで自分の存在を知られるのを避けているみたいに。

 一緒にいる所を見られると何か都合が悪かったのだろうか。


 怪しいその女は20代後半くらい、スラっとした体型に長めの髪を一つに結んでいたとの証言が得られた。


 やっと少しだけ掴んだ女の特徴は、どこにでもいそうな普通の女性だ。

 街を歩くと特徴の似た女性は沢山いて、すれ違う人が皆犯人に見えてくる。


 被害者二人に共通する怪しい女は、この事件とどうゆう関係があるのか。


 何一つ、痕跡を残さない犯人は一体何者で何が目的なのか、遺体に隠された不可解な傷には何の意味があるのか、何も分からないまま無情にも時間だけが流れた。



 一つ目の事件の発生から1ヶ月が過ぎようとしていたある日、いつものように捜査で街に出ていた僕は、後ろ姿がさくらによく似た女性を見つけた。


 声をかけようと近づくこうとした時、小さな女の子がその女性へと駆け寄っていった。

 さくらが子供と一緒にいるはずがないと思った僕は人違いだと気付きその場を去った。


 見た目、姿が似ている人はきっと沢山いるだろう。

 彼女ですら見間違えてしまうのに少ない特徴から犯人を割り出すなんて、気が遠くなるような事なのだと改めて感じた。


 何の進展もないまま、事件に関わる全ての捜査員が途方に暮れている中新たな犠牲者が出たとの一報を受け、鉛がついたように重い腰をあげ現場へと向かった。


 犯人へ近づけない自分たちのせいで、犠牲者が一人また一人と増え犯人の掌で転がされているような、腹立たしさに苛まれた。

 


 第3の被害者は6歳の女の子。

 川にうつ伏せの状態で沈んでいるのを通りかかった人が発見し通報。

 前2件同様の手口だ。


 生を受けわずか数年で犯人により命を奪われたのだ。

 何の痛みも感じず、ゲーム感覚で人の命を奪う犯人をこれ以上野放しにはできない。


 今まで以上に力を入れ休む間も無く捜査を続けた。

 この頃から、警察には罵声や抗議の電話が世間から寄せられるようになった。

 


 被害者C 斉藤花ちゃんは二日前に母親と公園で遊んでいた所、目を離したほんの一瞬の間に行方が分からなくなった。

 辺り一帯を探したが見つからず捜索願が出されたばかりだった。

 無事に生きて会えるのを心待ちにしていた、両親の願いも虚しく無言の再会となった。



 当時の花ちゃんの服装は、黄色の上着に黒いフリルのスカートそして赤い靴。


 僕の頭の中で何かが引っかかった。


 それはあの日、さくらだと勘違いして声をかけようとした女性と一緒にいた女の子の服装と似ていたのだ。

 


 捜査会議の終わりと同時に部屋を飛び出した僕は車へと急いだ。

 そして、その後ろを必死に追ってきた須藤が助手席に乗り込むのと同時に発進させた。


 「結城さん、いきなりどうしたんですか?追いかけるのに必死でしたよ。こんなに全力で走ったのいつ振りだろう。で、何か分かったんですか?」

 息を切らしながら揺れる車内でシートベルトを締める。

 

 「二日前、被害者の女の子を見たんだよ。捜査の途中で女性と一緒にいるところを。服装も背格好も被害者で間違いないと思う。一緒にいたのも母親ではなさそうだし、多分その女が犯人だ。思い返すと特徴が似てるんだよ、スラっとした体型に長い髪、それも結んでた。後ろに一つ。正面からは見てないけど後ろ姿はまんまだよ。何で気付かなかったんだ。」

 話しながらハンドルを握る手は震えていた。



 花ちゃんが姿を消したとされる公園からは、少し離れた場所ではあったが二人を見かけた現場へと向かった。


 周辺は人通りも多く大きなスーパーも立ち並ぶ。

 設置してあった防犯カメラを1台ずつ追っていくとそこには、まさに僕が見た二人が映っていた。


 犯人の女は後ろ姿しか映ってはいなかったが

 斉藤花ちゃんの母親に確認してもらうと

 「間違いありません。花です。」と今にも消えてしまいそうな細い声で言い泣き崩れた。


 自分がしっかり見ていたらこんな事にはならなかったのにと、自責の念に駆られていた。


 もしあの時、人違いだとしても声をかけていれば何かが少しずつ違っていたのかもしれないと思うと申し訳なく思うのと同時に悔しく怒りさえ込み上げてくる。


 悔しさのあまり声をあげ何度も何度も壁を殴る僕の右手は赤く血に染まっていた。


 「結城さんもういいです。やめましょうよ。」と須藤が僕の右手を掴んだ。

 こんな事をしても何も変わらない事は頭では分かる。

 でも悔しくて悔しくて、逃げ場のない怒りをただぶつけることしかできなかった。


 目の前にいたはずなのに、今まで追ってきた中で一番近くに犯人がいたのに見逃してしまった自分が許せない。

 あの時さくらだと思った女性こそが犯人であることに違いない。

 さくらだと思ってしまった事もさくらに申し訳ない。


 そんな気持ちを抱えながら、犯人が通ったと予測される道にある全ての防犯カメラを1台ずつ、一つの見逃しもないよう丁寧に慎重に見ていった。

 それは気の遠くなるような作業であった。



 犯人の女はカメラの位置を全て把握しているのではないかと思うほどに、正面からの姿を捉えた映像は一つもなかった。


 カメラに映る女の姿はこれまでの証言で得たイメージ通り。

 身長165センチ前後、髪は長く痩せ型、黒いワンピースを身に纏ったその姿からは、あの悍ましい事件を起こすようには到底思えなかった。

 

 

 人は皆、表の顔と裏の顔を持つ。

 きっと器用に使い分け裏の顔は見せないように上手く生きているのだろう。


 僕にも自分では気づかない一面があるのかもしれないと思うと少し怖くなった。


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