第27話 ジャワ沖、スラバヤ沖、バタビア沖海戦 後編

       これらの奇襲攻撃により、イギリス海軍駆逐艦ジュピター撃沈、

    同じくイギリス海軍重巡洋艦エクセターが推進不可能のため

    戦闘不能、アメリカ海軍重巡洋艦ヒューストンが主砲及び

    2砲門破壊され使用不能、駆逐艦ポープが大破、オランダ海軍

    軽巡洋艦ジャワが推進不可能のため、戦闘不能となった。

        

    重巡洋艦エクセターが出撃出来ず、駆逐艦ジュピターまで

    失ったイギリス艦隊は駆逐艦:エレクトラ、エンカウンター

    のみとなり、アメリカ艦隊に所属し、

    再編されることになった。

        

    そしてまんまとバリ島の上陸船団はバリ島に上陸し、島を占領し、

    なにより日本艦隊は、スラバヤ沖に連合軍艦隊を、

    くぎ付けすることに成功した。


    スラバヤ沖まで戻った連合軍は日本軍がまだきてないため港を

    占拠するために来るであろう、日本艦隊を迎え撃つよう、

    2月25日全艦隊をスラバヤ沖に展開した。

          

    しかし日本連合艦隊は現れず偵察隊を残し全艦隊帰投。


    26日27日と索敵活動を行ったが、日本連合艦隊発見は

    出来なかった。


    晃司の予測通り、連合軍は、連日の戦闘配置によって各乗員の

    睡眠不足や不安等、心身とも、疲労が高まっていた。

    このため、連合軍兵の士気は著しく下がっており、

    後の戦闘能力は大きく低下していたのであった。


    実はこれが、晃司の今回の一番の狙いであったのである。 


    その他、各国の出撃可能な艦艇や兵員を失った連合軍は大きな

    痛手を被り、いきなり不利な状況で戦うことを強いられた。


    それでも連合軍司令長官カレル・ドールマンはあきらめず、

    艦隊を展開し迎撃を主体に日本艦隊を迎え撃つために、

    戦闘可能な戦力を港から出撃させ、索敵を行い日本艦隊の

    攻勢を待ち構えて、艦隊を索敵情報により陣形を変えやすい

    ように特別な配列はせず、配備した。


    別動隊と合流をはたし再編をした日本艦隊は、戦力的には

    優位な状況であり、更に連合軍艦隊にこちらの攻撃機隊の空と、

    各艦隊の海の両方から相手をさせ、迎撃しにくくさせてから、

    後は確実に正攻法で正面から進行して戦術レベルで

    策を練り、徐々に敵を数の上で削り取る戦法にでた。  

   

    晃司は史実の内容を変えた後、ここからどれだけ史実どおりの

    結果になるのかと、実際の艦隊戦を学習するため、

    作戦をほぼ高橋伊望中将にゆだね、自らも第五艦隊旗艦の

    艦橋に残った。


    しかしその実、晃司は自分の犯した罪の意識に耐えかねていた

    のであった。 


    イギリス駆逐艦エンカウンターが、敵艦隊発見の報をとばした

    後、巡洋艦2隻と駆逐艦12隻の日本艦隊を発見した。


    戦いはスラバヤから北東約20マイル(32Km)の海域で始まった。


    日本艦隊は連合軍艦隊に対して右から左へ斜めに前を横切る

    T字戦法 を取ろうとしたが、これを嫌ったドールマン少将は

    艦隊針路をやや左に変針して、日本軍の後方を襲おうと縦に

    伸びたが結果的に、同航砲戦を取る形になった。


    重巡洋艦、那智(なち)、羽黒(はぐろ)は連合軍艦隊へ

    針路を並行とし、距離23kmで、砲撃を開始した。


    これに対して連合軍艦隊の巡洋艦部隊が反撃を開始した。

          

    両軍は命中しない砲撃と雷撃戦を展開しながら西方へ

    航行していた。


    両軍の砲弾は殆(ほとんど)どがはずれていたが、

    羽黒の砲弾がアメリカ重巡洋艦ヒューストンの機関部に命中して

    炸裂、速力が低下した。


    各国旗艦が次々とドールマン提督の意図せぬよう動いたため

    連合軍艦隊の艦列が混乱した。


    そこへ先ほど羽黒が放った魚雷8本が到達し、このうち1本が

    駆逐艦コルテノールに命中した。


    コルテノールはV字型に折れ撃沈した。


    この混乱を見たドールマン少将は一旦戦場を離脱し、

    体勢を立て直すことにした。


    連合軍艦隊の変針および混乱を見て、高木少将は直ちに

    [全軍突撃せよ]の令を下した。


    戦いを大きく決定づけたのが、連合軍艦隊に肉薄攻撃を

    仕掛けた第四水雷戦隊子隊であった。


    距離5kmに接近した佐藤大佐は[発射はじめ]の号令をかけ、

    駆逐艦:朝雲(あさぐも)、峯雲(みねぐも)は一斉に魚雷を

    発射した。


    この戦闘が行われている間にヒューストンをはじめ連合軍艦隊は

    全艦戦域を離脱した。


    日本軍が数々の戦果をあげ、連合軍艦隊は巡洋艦3隻

    (デ・ロイテル、パース、ヒューストン)だけとなってしまった。

         

    羽黒(はぐろ) 那智(なち)は魚雷を順次発射した。


    オランダ旗艦デ・ロイテルの後部に魚雷1本が

    命中して火薬庫に引火・炎上ドールマン提督は連合軍に

    バタビアに撤退命令を出した。


    やがてデ・ロイテルは撃沈しドールマン提督は戦士した。

          

    少し異なる箇所はあるが結果的には同じことになると

    晃司は確認した。

         

          

    スラバヤ沖の海戦での残存艦隊のうち、アメリカ海軍の重巡洋艦

    ヒューストンとオーストラリア海軍の軽巡洋艦パースは戦死した

    ドールマン少将の最期の命令によりヘクター・ウォーラーパース

    艦長の指揮下でジャワ島のバタビア(現ジャカルタ)に撤退し、

    2月28日朝、バタビアに到着した。


    だがバタビアは連合軍にとって安全な場所ではなく、

    戦力の再編成を行うためにスンダ海峡経由でジャワ島南岸の、

    チラチャップへ移動する命令が下された。

             

    連合軍巡洋艦隊(パース、ヒューストン)は、途中のジャワ島

    バンタム湾付近に差し掛かったとき、前方に日本軍の神州丸

    (しんしゅうまる)以下の輸送船団を発見した。


    付近に護衛艦艇を発見できなかったことから、両艦はこれを

    攻撃すべくバビ島の東側をまわってパース、ヒューストンは

    突撃を開始した。


    セントニコラス岬沖合いで哨戒(しょうかい)中だった

    原司令官座乗の軽巡名取(なとり)、第11駆逐隊(初雪(はつゆき)、

    白雪(しらゆき))は、これを発見した。

          

    更に、パンジャン島沖合いを哨戒中の駆逐艦春風(はるかぜ)も

    これを発見した。


    原司令官は麾下(きか)の駆逐隊に、[突撃せよ]と下令した。


    各駆逐艦の砲撃雷撃等により、連合軍巡洋艦2隻

    (パース、ヒューストン)は沈没した。


    両軍の被害は、日本側:駆逐艦朝雲1隻大破、

          連合軍側:重巡洋艦2隻撃沈、軽巡洋艦2隻撃沈、

                駆逐艦5隻撃沈、であった。 

   

    ここにこの海域の戦闘は日本側の一方的な勝利となり幕を閉じた。



高橋伊望「やったな我々の完全勝利だ。君のおかげだ、岡本中尉」


岡本晃司「ありがとうございます。でもわたしは途中から、高橋長官に

     全指揮を、委(ゆだ)ねさせて頂きました」


高橋「それでもだよ。ん、どうしたね、元気ないな。初陣を見事、

   完全勝利で飾ったんだぞ」


晃司「はい、光栄です」


    晃司の声が覇気に欠けていた。晃司は胸が痛くて

    たまらなかった。


高橋「君の策で、これだけの完全勝利になったことを、文面にして山本長官、

   永野総長宛てに報告しておく。

   岡本中尉。戦果の報告は別の者にもしてもらう、

   全艦隊の連携のためにも」


晃司「ありがとうございます」


高橋「ひょっとして素直に喜べないのか?」


晃司「そんな・・」


高橋「我々は軍人なのだ」


晃司「恐れ入ります」


    晃司の心にどこか、未来に帰りたい、帰れる、という

    気持ちがあったということを自覚した。


高橋「君は未来では何だったんだ?」


晃司「学生です、高橋長官」


高橋「学生か、君は軍人を志していなかったのか?」


晃司「私たちの日本では軍隊はありませんでした」


高橋「それは山本長官の書面には書いていなかったが

   ほんとかね?」


晃司「はい、代わりに国家を防衛する自衛隊という組織がありました。

   私はその養成学校の防衛大という大学校の学生だったんです」

  

高橋「そうか自衛隊か、防衛大ねえ。しかし君はもう軍人なんだ。

   後戻りはできないのだ」


晃司「肝に銘じておきます」

 

高橋「とにかく報告書は文面にまとめておく。はやめに山本長官のもとに

   戻りなさい、そのほうがいい」


晃司「ご配慮感謝致します、高橋長官」


高橋「うむ、まあ疲れただろ、今日くらいはこちらで休んでいきなさい」


晃司「はい、そうさせて頂きます」


    晃司はその晩、眠れなかった。

    そして朝を迎えた。


高橋「おはよう岡本中尉、疲れは取れたかかね?」


晃司「おはようございます、高橋長官、ええまあ」


高橋「どうやら昨晩は寝れなかった様だな。そういうことだね」


晃司「お恥ずかしい話ですが」


高橋「君はその防衛大学というところで自衛隊という組織の、将校の養成を

   受けていたんではないのかね?」


晃司「はい。ただ自衛隊というのは、この時代の軍隊と違って、日本国憲法上、

   防衛にのみあたり、更には専守防衛というのがあります」


高橋「専守防衛?どういうものかね?」


晃司「それは、防衛上の必要があっても相手国に先制攻撃を行わず、侵攻してきて

   攻撃してきた敵を自国の領域において防衛力を以って撃退するという方針が、

   自衛隊の基本戦略、戦術思想の根幹を成しているのです。

   そのため結果的に私のいた当時まで、自衛隊は、多民族といえど、ほとんど

   人を殺傷したことがありませんでした。私もそれが当たり前のことの様に

   思っていたんです」


高橋「なるほどそういうことか。しかし先ほども言ったように君はもう

   軍人なんだ。しかも将校だ。

   あまつさえ、山本長官の腹心と来ている。しっかり考えを持って

   もらわねば困るんだ」


晃司「はい長官、尽力致します」


高橋「うむ。しかし君はやはりその意味でも早く、山本長官のもとに

   帰ったほうがいい。

   今から出立しなさい。先の文面のみに関しては、やはり君

   自身に預ける。必ず届けるのだぞ、それが君の任務でもある」


晃司「はい高橋長官、色々勉強させて頂きました。

   ありがとうございました」


高橋「うむ。君にとっては辛いのかもしれんが、この戦闘の

   経験をしっかり土台にするのだぞ」


晃司「はいわかりました、高橋長官」


高橋「宜しい。行きたまえ。ここでお別れだ」


晃司「色々お世話になりました。また機会があれば宜しく

   お願い致します。ではここで失礼致します」


    晃司は来た順の逆ルートをたどって、大和艦橋へ戻った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る