拘り症候群

※注意※ 『最悪-絶望・恐怖短篇集』の作品類の中でも群を抜いて残虐描写が激しい為、短編集のレベルに合わせて修正しました。それでも連想される表現には難がある為、R-15とさせて頂きました。




 じっとしていられない性分なのであろう、色々なモノに囲まれた女の部屋、とも言うべきそのワンルーム。

 実際のところ、整頓されている。

 少しのズレも許さない程、きっちり直角に置かれているが、部屋にいる女、栞は囲んでいるモノの位置全てにどうにも納得出来ていない。

 すぐ目につくと色んな角度に於きなおしては、その場で納得してても、ものの五分後にはまたやり直そうと弄繰り回す。


「ホンットにいい位置になってくれないわね!」


 実にヒステリックに、それだけでなく栞の指先全て、爪が異様な尖り方をしている。おそらく部屋の理想的位置に満足がいかず噛んでいるのだろう。

 端正な顔立ち、髪は上品に伸ばしていて、肌は程よく白、男ならだれでも振り向きそうな佇まいなのに、その爪だけが彼女のマイナスポイントたりえる絶対的な欠点になっている。

 しかし、栞にとっての重要問題は、爪よりもモノの配置のようである。

 友人の茜はすごく洋服に凝っていて、住んでいる部屋が二部屋もある大き目のマンションなのに服がとにかく多い。

 買って何年も経つ服が少し黄ばんでいても放置している。

 ものがいっぱいあるなら何故整頓しないのか栞は茜の不精さに苛立ちを隠せずにいる。


 しかしそんな事はどうでもよい。

 茜は茜なのだから。

 私の部屋の中のモノの理想的配置さえ見つかって、実現出来れば良いのだから。


 そこに、栞のスマートフォンの通知音が可愛く鳴動する。

 苛立ちを加速させるには充分ではあったが、画面をオンにしてメッセージアプリを開くと、その苛立ちはすぐに消え失せ、苛立ちに歪んでいた顔がニンマリとした微笑みに変わる。

 違う意味で歪むぐらいに。


「あ、広則くんじゃないの!」


 苛立ちを解消した原因は、メッセージの主。

 職場にて営業成績も良く、意外と固く真面目なのか社内では浮いた話は全く聞こえてこない。

 そんな人間性からか広則は社内でトップクラスに異性社員からモテている。

 栞もそんな彼に惹かれて、会社の親睦会や打ち上げなど、広則と接触出来る機会は全て逃さず、付き合う目前にまで持って来る事が出来た。


 そんな彼からの連絡内容は、「今日こそ伝えたい事がある。大事な話なんだ」と。

 今時の男性としてはクサすぎる台詞と揶揄されそうだが、憧れの男性から言われて喜ばないのは余程男性に興味がないくらいであろう。

 しかし彼女のつい出た独り言は少し違っていた。


「これで揃う・・・!」


 女の喜びと言うより、欲が叶う事に対する充足感のある顔、と言った表情。

 たまらず栞は通話ボタンを押した。


「広則くん?仕事お疲れ様!」


 先程のくぐもった苛立ちの顔はど何処へやら、快活に、しかしどこか甘えるような声色で栞は通話を始めた。

 

「え、体調はどうか、って?

 そっか、私入社してから一度も欠勤した事なかったから心配かけちゃったかな・・・?ありがと!

 ・・・これから、だよね?

 うん!もうすっかり元気だから。

 ・・・で、私も大事なお話があるから、ぜひ私の家に来て欲しいな?」


 声色はそのままに、しかし栞の顔が例の歪んだ微笑みに変わり始める。


「うん、これから!ぜひ見せたいモノがあるし、広則くんにもぜひ見て欲しくて!

 今日から広則くんも入ると思うと・・・、嬉しいな!」


 栞は先程まで位置に困っていた滑らかなモノを、角度すらも全く気にせずに撫でていた。

 栞の表情は最早、若くて可愛らしい女性らしきの雰囲気はカケラもなく、歪み切っていた。




 少し窓が開いていて、部屋の中の空気につられたのか、カラスが五羽程、そこまで広くないベランダに押しかけ、必死の形相で我先にと入ろうとしてた。








 現在公開未定ですが、無修正版を『最悪-絶望・恐怖短篇集』とは別の作品として公開する予定となります。こちらは問答無用のR-18になります。

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