第四十三揺 変節漢のお気に召すまま


 時と場は変わり、中央官制塔12階。

 スカイフロントに聳え立つ摩天楼を駆けているのは叛乱軍の一団だ。シュティーネを分隊長に据えた、電撃戦特化の第二部隊である。

 毒ガスにより若干2名がダウンしたが、その素早さは健在。傭兵団側がシュティーネ達に気づいて包囲を敷くより早く、シュティーネ達は迅速に12階の通路を走り抜けていた。先回りした敵のみを倒すことで、本来なら敵が跋扈しているはずの敵地をあり得ないほどの短時間で踏破している。


「はぁっ……はぁっ……アンドレ!」

「残り25分だ! ……お嬢っ! 大丈夫か!?」

「だいっ……じょうぶぅ!」


 先頭を走るシュティーネの状態を見て、アンドレは内心を焦らせる。

 シュティーネは実のところ、かなり消耗していた。続く連戦に加え、毒ガスの後遺症。11階の階段前フロアで第五部隊の衛生兵から投薬された解毒薬が効いてはいるが、それでも体調はすぐに回復させられない。その証拠として、四肢末端の痺れは未だに取れていなかった。

 その上で、高機動を基本とする戦闘スタイルを続けているのだ。いくらシュティーネとはいえ、疲労の色は隠せない。

 しかし、疲れたからと言って休める状況ではないのも事実だ。実際、残り時間は30分を切っている。一刻の猶予も無いのだ。それが分かっているからこそ、シュティーネは弱音を吐かない。


「まだ……まだ止まれない……!」


 シュティーネ達が電撃戦を行うのは、自分達だけが突出して行動することで傭兵団の動きを惑わせるため。傭兵団側に防衛ラインを作られてしまわないよう、シュティーネ達は相手を後手に回らせ続ける必要があった。

 故に、止まれない。止まれば、他の隊員に迷惑がかかるから。


「それに……私達が負けてしまったら、後を託してくれたマーカスとヴァスコに申し訳が立たない!」


 シュティーネを守る形で階段に突入し、毒ガスを吸って瀕死状態になってしまったマーカスとヴァスコ。彼らは虫の息となったまま、第五部隊の隊員に運ばれていった。負傷して作戦続行が困難になった隊員はロアナのいる情報室に搬送することになっているので、今頃は第五部隊の隊員が二人を情報室に運び込んで治療している段階だろうが。

 危険を検出するための盾となってくれた二人。金糸雀カナリアになってまでシュティーネを命を賭して守ってくれた二人に、シュティーネは報いなければならなかった。


「必ず勝つ。勝って……みんなで帰らないと……!」


 みんな、と言うが、既に命を散らした隊員もいる。第一部隊が襲撃を受けたのもシュティーネは聞き及んでいたし、だからこそ、自分達だけでも生きて帰らねばならないと強く思っていたのである。


「っ……あぁ! その通りだ、お嬢! 必ず、勝って帰るぞ!」


 シュティーネの思いに呼応するようにアンドレは声を上げ、並走するレイモンドも頷く。シュティーネの意はそこにいる全員が抱えているものであり、そこに疑う余地はない。


 だが、アンドレの心中には拭いきれない一抹の不安があった。


(あぁは言ってるが……お嬢の損耗が予想以上に激しい。このまま連戦を強いられれば、確実にどこかでボロが出るに違いねぇ)


 それに、とアンドレは自身が携える銃器にちらりと目を向ける。


(しかも、銃の残弾数がかなり怪しい。恐らく、次の一戦で使い切っちまう。お嬢が動けているうちはいいが、動けなくなったらそれこそジリ貧だかんな……弾が尽きる前に敵の銃でも奪わなけりゃ、撃ち合いでこっちが負ける)


 アンドレが抱えていたのは、深刻な弾不足。体に銃弾の束を巻きつけるなど事前に準備していたはずが、傭兵団の抵抗とシュティーネの機動力の減少があって、弾数がかなり心許ない状況になっていた。口にはしないが、レイモンドだって似たり寄ったりの残弾数の筈だ。

 弾を使い切るのが戦闘後ならいいが、戦闘中に弾を使い切ってしまったら致命的である。そんなことにはならないと良いのだが。


「アンドレ! あそこのフロアに入ればいいの?!」

「!」


 思考に耽っていたアンドレの意識をシュティーネが引き戻す。

 シュティーネが指差したのは、通路の先にある大きな電子式の開閉扉だ。一見すると施錠機能はついていないようで、近づけば自動で開く仕組みらしい。


「そうだ! そこを通ると14階までショートカットが出来るから、時間が大幅に短縮できるはずだぜ!」

「りょぉかい!」


 扉の両側に分かれて近づき、壁に背中を当てる三人。ショートカットであることは相手側にも知られているのだから、待ち伏せされている可能性が十二分にある。そう考え、シュティーネ達は突入に対して慎重に動いていた。

 アンドレのハンドサインを契機に、レイモンドとアンドレが腰を低くしたまま銃を構え、扉の方へと向き直る。シュイン、という機械音が鳴った後、侵入者を拒むことなく扉は開いた。

 彼らを迎え入れたのは、電気が点いておらず暗いままの空間。敵が待ち伏せしているかもしれないが、入ってみなければ敵影も確認できないほどの暗さだ。出来れば入りたくないが、このフロアを。背に腹は代えられないだろう。


「……警戒を怠るなよ。少しの油断で死ぬぞ」

「あぁ。分かってる」


 突入組のアンドレとレイモンドの間の空気はピンと張り詰めている。緊張感で大きく胸を打つ心臓を深呼吸で必死に抑えながら、アンドレは少し懸想した。


(これが第三部隊なら、臆せず進めるんだがなぁ……)


 蕪木憲嗣開発の超高性能アーマー〈TALOS〉を身につけた彼ら第三部隊、通称(というより憲嗣が勝手に名乗っているだけだが)―――『黒兜クロカブト』。アサルトライフルの銃弾をものともしない彼らの装備なら、特に警戒もせずに進めたのかもしれないが。


「残念ながら、こちとら銃弾一発でも致命傷になり得るんでね……」


 アンドレ達も装備をしているとはいえ、シュティーネのスピードについていけるよう装備はかなり軽量化してある。ガチガチの撃ち合いには向いていないし、相手の姿が確認できないとなると猶更だ。

 彼らと共に行動できていれば安心して突入できたのであろうが、重装備の黒兜クロカブトは移動速度がどうしても遅くなってしまうので、速攻を基軸にするシュティーネ達とは方向性が合わない。故に、12階に到着した時点では彼らと一緒に居た第二部隊も、こうして別行動をするしかなかった。

 こうして考えてみると、第二部隊の現状はだいぶ危機的だ。数々の苦難を乗り越えてきた経験があるアンドレをしても、この劣勢にはボヤいてしまいたくなる。


「銃弾不足に人手不足、トッピングで視界不良ってか」

「はっ……品揃え良すぎて最高にハッピーだな」

「へっ、言えてんな」


 皮肉たっぷりのレイモンドジョークに思わず苦笑するアンドレ。この限界状態で軽口を叩き合えるだけ、彼らもまたかなり肝っ玉が据わっていると言えるだろう。


(……とはいえ、流石にキツイ)


 相手がどこにいるかも分からない状況で進み続けるのは精神力をゴリゴリ削られる。もしかしたら、今もアンドレ達は敵に包囲されていて、いくつもの銃口が自分の頭部に向けられているかもしれないのだ。気が気でない、という言葉がしっくりくる。


(せめて、視界だけでも確保できれば―――)


 全方位に警戒を張りながら、ゆっくりと歩いていたアンドレとレイモンド。


 その頭上から、突如として光が降り注ぐ。

 攻撃ではない。おそらく、フロアの天井に取り付けられていた照明が点けられたのだ。


「ッッッ! 上だッ!」


 そう叫んだアンドレの声が届くより前に、レイモンドは上方へと銃口を向けていた。暗闇に順応しつつあった視界は、光を唐突に浴びることで真っ白に染まる。

 しかし、ここで目を逸らしてしまえば敵を視認できないままに上から好きなように撃たれてしまう。すぐに目を慣らさねばならない。なんとしても顔は上げなければ。


「……?」


 光の眩しさに耐えながら暫く上を向いて臨戦態勢に入っていたアンドレ達だったが、一向に攻撃の予兆がないことに疑問符を浮かべる。

 警戒を上に向けられていなかったアンドレ達は、上に陣取っている連中にとっては格好の的だろう。だというのに、攻撃が全く来ないというのは些か妙だ。


 そして明るさに目が順応し始めると、シュティーネ達はフロアの全貌を目の当たりにすることとなる。


「うわっ……広ぉ……」


 思わず驚愕の声を出してしまったのはシュティーネだ。だが、そう驚くのも無理もないと思えるほどの広さだった。

 フロアの高さだけでも30m以上ある、縦に広い吹き抜けの空間。横にも十分広く、大型トラックが何十台もすっぽり入ってしまうだろうと思えるだけのスペースが確保されていた。

 シュティーネ達がいるのは12階のフロア。12階には培養液が詰め込まれたカプセルがずらりと並んでおり、あちこちからゴポゴポと水音が聞こえてくる。どうやら稼働状態には無いらしく、培養液を保存するポッドは停止中を意味する赤のランプを点灯させていた。見るところ、アーキタイプに接続するための機械の予備といったあたりだろうか。ポッドの天頂部には人の腕ほどの太さがある塩化ビニル製のパイプがついており、地面に取り付けられていた固定具付きの排水溝へと繋げられている。


 しかし、シュティーネ達の視線を奪ったのは培養ポッドでは無かった。彼女らの視線はその頭上、13階から14階にまたがる円筒状の切り立った空間に向けられているのだ。

 30mの高さを誇る縦長のフロアは、しかし予想に反して伽藍としていない。というのも、金属製の足場板が無数に張り巡らされているからだ。空中で作業するための設置されているのであろう、網目構造の踏板は天井が満足に見れないほどに置かれている。足場、といっても種類は様々で、吊るされているモノ、パイプで組んであるもの、キャスター付きで移動できるものなどが見受けられた。


 世にも珍しい奇怪な構造物。複雑に絡み合う足場板で構成されたその空間は、巨大な金属製の蜘蛛の巣を想起させるものだったのだ。


「こりゃすげぇな……」


 途轍もない規模の作業現場を見て唖然とするアンドレ。何のための空間なのか一瞬戸惑ったが、天井部に取り付けられている部品を見て、このフロアの存在意義を理解する。


「ありゃ貨物用クレーン……あぁなるほど、機材を上下に運搬するための施設か」


 中央管制塔の階段の作りは実に奇妙だ。10階から最上階まで一気に行ける階段が存在しておらず、一気に進めるのは2階分だけ。なので、複数階を跨いで移動する場合には、建物中央部にあるエレベーターを使う必要があった。そうすると、当たり前だがエレベーターが混雑する。移動するのは人だけではなく、荷物もそうだ。軽い荷物なら手で持ってでも運べるが、大型機械となると話は別。運搬に手間がかかるし、エレベーターのスペースだって無駄にとってしまう。

 だから、12階から14階の間だけでも大型荷物を運べるよう、縦長の空間が作られたのだろう。


「いや、それだけじゃない……12階、13階、14階を行き来するなら、エレベーター使うよりこっちを使う方が楽なこともありそうだ。まったく、不便な造りしてやがんぜ……もう少し働く側の労働環境を考えろよな」

「そうだな……ま、労働環境って意味なら叛乱軍だって大概だろ。機密保持的な問題で外出は基本禁止。気軽にショッピングにも行けねぇってきたもんだ」

「そりゃなぁ……活動内容が内容だし……」

「それに比べりゃ、ここで働く方が給料もいいし、外も出歩けるし、しかも公務員だから将来安定だぜ?…………おい、なんか目からしょっぱいもんが…………」

「……涙拭けって」


 口をへの字にして顔を皺くちゃにするレイモンド。流石に本気で政府側に与したいと思っているわけではないだろうが、叛乱軍の現状を考えれば少しやるせなくなってしまうのも、まぁ分からなくはない。


(悪夢ナイトメア症候群シンドロームの隠匿に手を貸すなんざ、俺はまっぴらごめんだがね)


 アンドレは肩をすくめ、再び上空へと目を向けた。

 蜘蛛の巣のように張り巡らされた足場板は、フロアの様々な場所と繋がっている。切り立った壁面、その各所にある金属製の扉をアンドレは一つ一つ見ていった。

 足場板で見えにくいとはいえ、基本的には吹き抜けのような構造になっているため、目を凝らせば扉も見えなくはない。目を細めて、ぐるりとフロア全体を軽く見渡し―――


「……変だ。待ち伏せがない」


 先程の隙を突くような射撃がなかった時点で予想はしていたが、やはり人の影がない。おかしい。

 叛乱軍がここを通りたがることは傭兵団にも知られていたはず。であれば、待ち伏せをしない理由がない。


「さっきと一緒だな。また毒ガスか?」


 レイモンドがアンドレに小さい声で聞くが、アンドレはふるふると首を横に振った。


「無くはない……が、この広さに毒ガスを致死量ぶん撒くとなるとなぁ」

「相当量が必要になるな。向こうだって文字通りガス欠になる、か」

「毒ガスじゃない……となると、他に何が?」

「……分からん。ともあれ、進む以外に選択肢はねぇだろ」

「……それもそうだ」


 不穏な影も感じながらも、アンドレはレイモンドの言葉に同意した。後方に控えたシュティーネをハンドサインで呼び寄せた。しかし、視線は上に向けたままだ。


「……あそこだな」

「あぁ。間違いねぇ。あれが、14階への扉だ」


 アンドレとレイモンドの視線の先、30m上にある金属扉。数ある扉の中でも、最も高い位置にあるものだ。黒塗りがされているその扉は他の扉より見るからに重厚で、作りもしっかりしていることが伺えた。


 そここそが、シュティーネ達がこのフロアに立ち寄った理由。

 そう。


 本来なら、13階から14階への移動には、12階から13階への階段とは別の場所に設置された階段を使わねばならない。なので、本来なら12階から14階への移動には時間がかかり過ぎてしまう。

 だが、このフロアを使うのなら話は別だ。12階から14階へ一気に行ける、中央管制塔で唯一のショートカット。ここを使えば、わざわざ階段を使う必要もない。故に、叛乱軍側としてこのフロアは是非とも使いたいところだった。

 じゃあ全部隊を向かわせろよという話なのだが、そこは戦力分散による陽動をしたいのもある。諸々を考慮した結果、速攻を意識する第二部隊のみがこのショートカットを使うことになったのだ。


「……行くぞ」


 レイモンドの言葉に二人は静かに頷き、上階への階段を目指すことにする。梯子も設置されているようだが、階段の方が上に登りやすいと考えてのことだ。

 人気ひとけがない閑静なフロアを三人は進んでいく。走るのと合わせて、靴が金属製の足場板とカチ合って甲高い音を立てているのが少々気に障るが、気を払うべき敵も見当たらない今は取り立てることでもないだろう。


「ていうかぁ……本当に広いねぇ、ここ」


 階段を2回ほど登り終えた後、シュティーネは腰に手を当てて周囲を見回し、小さく感嘆の息をついた。彼女に追随していたアンドレもウンウンと大仰に首を縦に振る。

 足場板の金網の隙間から下を覗くと、既に地面との距離は8m近くになっており、高所恐怖症でないシュティーネとはいえ足がすくんでしまった。強化外骨格を装着していても、この高さから落ちれば無事では済まないだろう。


「ひぇ……これを普段使いさせられる局員に同情しちゃう―――」


 それを感じ取ったのは、彼女に潜在的に存在する獣の勘であった。

 完全に存在を消していたに、シュティーネはバッと振り向いて声を張り上げる。


「誰ッ!!」

「「!」」


 シュティーネの警戒の言葉にアンドレとレイモンドが即応して銃を向ける。当のシュティーネは銃を持っていないため、腰に帯剣した刀へと手を伸ばしていた。


「……チッ。気づくのかよ。どんな嗅覚してんだ」


 そしてだだっ広いフロアに反響したのは、ややガラついた低音の男声。抑揚がなく、妙にゆったりとした話し方だが、穏やか、という雰囲気は微塵も存在しない。湧き上がる瞋恚しんいを理性で強引に抑えているかのような不穏さを、その場にいた全員が直感で感じていた。ゾッとするような底冷えした響きを以て、男の発言はシュティーネ達の耳朶を打っている。

 生唾をごく、と呑みながら、シュティーネは軽口で気丈を振舞う。


「生憎、勘の鋭さには定評があってねぇ。人一倍、悪意には敏感だったりするんだぁ」

「……クソが。血の猟犬ブラッドハウンドよりよっぽど獣してるじゃねぇか」

「お褒めにあずかり光栄だよぉ」

「……死ね」


 舌打ちと共に小さく罵倒の声が上がると、男が立ち上がる気配を感じた。機材の陰に潜んでいたためにシュティーネ達には見えていなかった男の全貌が、そうして明らかになる。

 のそり、と姿を現した男は、かなりの巨躯だった。

 身長は190cm近く、オズウェルには劣るが充分に大柄だ。全身をすっぽりと黒いローブで覆っているので体の起伏は分かりづらいが、その盛り上がり方からして細身でないことは容易に想像できる。

 ゆっくりとした動作で男がフードをぞんざいに脱ぎ去ると、彼のトレードマークともいえる特徴的な髪型に目がいった。

 アシンメトリーのフェードカットをした頭髪。染められた銀髪が一方向に流されており、刈り上げた右側の側頭部が惜しみもなく晒されている。世紀末を描く漫画なんかに出てきそうなルックスだ。無論、それだけでもかなり目を引くのだが、それ以上に視線を吸い寄せる要因が一つ。


「……蜘蛛?」


 男の刈り上げられた側頭部、そこに大きな蜘蛛が這っているのだ。勿論、実物が這っているわけではない。その頭にへばりつくように蜘蛛が刺青で掘られている。叛乱軍のパイプが多岐にわたるのもあって、それなりに変人を見てきたつもりのシュティーネ達でも、そんなヘアスタイルは初見だった。

 見るものに不気味さを与える男だが、その不気味さに拍車をかけているのが男の立ち振る舞いだ。

 気怠そうにゆっくりとした動きをしているが、所作自体は精錬されている。重心移動や体軸のブレ、眼球の動きにすら無駄がない。遅いというだけで、隙といえるものは全く見当たらなかった。


「おいおい……とんだジョーカーが出てきやがったもんだぜ……!」


 アンドレが蟀谷こめかみに一筋の汗を流しながら、突如として立ち塞がった敵の強さを見定めようとする。

 佇まいからして歴戦の傭兵であることは確実。しかもこれだけ広い空間に一人で潜んでいたということは、傭兵団としても重要地点を任せるだけの信頼がおける駒なのだろう。ローブで装備が全く見えないため、どんな手を打ってくるか分からないのが一番の懸念材料だが―――


(不味い……射角が……!)


 男がいるのはアンドレ達の上方、距離にして20mほどだ。真上ではないにしろ、射角は50度近くになっている。下階にいるアンドレ達にとって銃撃戦が不利なのは言うまでもないし、足場板による遮蔽もあって、かなり男を狙いにくい状態だった。

 このフロアに来た時点で予測されていた事態だが、それでも避けたい戦闘ではあったのだ。


「……レイモンド」

「分かってる。3秒後に一斉射撃だ」

「ははっ、話が早くて助かるぜ」


 弾数が心許ないが、それでもやるしかあるまい。

 視線は外さずに小声で会話し、戦闘開始の合図を取り付けるレイモンドとアンドレ。先手必勝、何かされる前に男を殺してしまえば何の問題もない。


「―――おい、そこの二人」


 男の鋭い双眸に射抜かれ、一瞬で体中から冷や汗が湧き出るのを感じるアンドレ。

 レイモンドと示し合わせた瞬間これだ。不意打ちしようとしていたのがバレたのだろうか。

 ならば、3秒後を待つ必要はない。今すぐ攻撃せねば、後手に回ってしまう。

 一瞬でそう結論付けた二人は、銃の引き金に指をかけ―――


「チッ……逸るんじゃねぇよ。戦うとは一言も言ってねぇだろうが」

「……は?」


 そう言うと、男は両手を上げて天を仰いだ。



「―――邪魔立てするつもりはねぇよ。



 そう、堂々と裏切り発言をしてのけた男の名は―――ルスタン・ピヴォヴァロフ。

 ブラッドハウンド傭兵団、その実働部隊の隊長の任を背負っている男だった。






******

ちょっと(?)間が空きました。お久しぶりです、ぽんずでっせ。

新学年に入ると色々と生活が変わって大変だよね、という言い訳はさておき。今回はちょっと短めにしましたー。前回、「区切り悪かったから続きを付け足す形で更新する」と言いましたね。あれは嘘だ。

というのも、プロットを組みなおしてたんですが、「あれ、これ付け足し要らんくないか」と勝手に脳が結論付けまして、交渉パートはまた今度ー、となりました。しばらくは場面が変わりますので、交渉パートの続きはもうちょい後になりそうです。ようやくスカイフロント編も後半に入って、作者としても描きたいシーンが増えてきそうです。

それでは次回更新をお楽しみに! 次は大体1、2週間後ぐらいを予定してます!

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