第9話 ファーストコンタクトと俺

 タンッ


「お~!!シュヴァルツとクレイ映ってるなあ!!やっほ~。」


 パソコン画面には黒い頭が2つと灰色頭が1つ。画面の端にはいろいろな設定と、右下に配信終了っていうボタン。

 これを押したら録画終了なんだな。


「ヴァフ!!!クーン。」


 気は大きいが、初めてのものにはビビりを発動するシュヴァルツが情けない声をあげる。


「グルルルル。」


 クレイは画面の自分を警戒しているようだ。


「ぐひゃひゃひゃひゃ!!!そんなに怯えんでもなんもしてこないさ!!こんな体でかいのに、かわいいなあお前たち。」


 左右の住人の反応に俺は思わず笑ってしまった。

 イノシシにも、車にも怯えないのに、画面に映る自分に警戒しているだなんて・・・。


 笑う俺に、左右の家族は「お前も警戒しときなさい!!」とでもいうかのように、視線は画面に釘付けのまま、手を甘噛みして教えてくれる。

 未知のものに怯える彼らには悪いと思ったけど、その優しさが心地よくて。しばらく堪能してしまった俺を許して欲しい。



 俺に長々付き合ってくれたしなあ。そろそろ録画もやめにして、おやつ持ってくっかあ。

 録画開始してすぐだけど、彼らのストレスになってはいけない。おやつをあげて、今日はいったん山に帰ろう。

 でもこれからも録画はしなくちゃいけないから、慣れて欲しいというのが本音だ。



「シュヴァルツ、クレイ、おやつ取ってくっから、ちょっとそこで待っててくれ。」



 彼らのおやつを取りに台所に向かう。


 こないだじっちゃんが取ってきたイノシシの肋骨残ってたなあそういえば。


 と、台所への道のりを歩いている最中に思い出した。


 毛をぐしゃぐしゃにしたお詫びだ。今日はちょっと豪勢に行くかな!!

 そう思って冷凍庫からイノシシの肋骨をとり出す。


「(あ、録画画面つけっぱなしにしてきちゃった。)」


 そして、ジップロックを開けた瞬間、失態を思い出した。

 怯えていたのに、俺の方がおやつの事で頭いっぱいになってしまって、消すのを忘れうだなんて・・・。


「やべえ・・・けど、イノシシ・・・。」


 とり出したイノシシの肋骨入りの袋、部屋で待つ2人。冷凍庫。思考がぐるぐる巡回する。

 一回出したらしまうのってめんどくさいよな!!



 結局湯煎で解凍するために、骨を鍋に突っ込んで火にかけてから彼らの元に向かうことにした。


 タイマーは20分。



 *******



「わりい~わりい~。お前ら画面怖がってたのに、置いてっちゃってよお。大丈夫だったかあ~??」


「クーン。クーン。」「クーン。」


 ??珍しいな。クレイもそんな声出すなんて。


「どうしたんだ??なんかあったか???」


 俺が2人にそう声をかけると、怒られていると思っているか、両者は伏せの体制になった。耳も自信なさげにピコピコしている。


「????」


 俺のいない間に何かがあったのだとは思うが、何があったのか分からない。先ほども画面を見て自分の姿に怯えてはいたが、頭いいこいつらは、すぐに危害を与えることは無いと理解したことだろう。

 こんなに怯えるとは思えない。

 それに、この感じは何か悪いことをしてしまった時の反応と似ている。

 見た感じ、部屋を荒らした形跡もないし、ものも壊していない。心配することは無いぞと頭をなでておいた。


「さてと。録画を終わらせな・・・・ふむ??」


 イスに座り、パソコンの画面を確認したとき。先ほどと様子が違うことに気が付く。


 ピコン!!


 音が鳴った。


 <おおお!!飼い主居たのかあ。>

 <狼が人間のような生活を始めたことを全世界に放送し、侵略を始めてる説を推したかった・・・。>

 <ていうか、飼い主と比べてもでかくね??>

 <↑それな>


「なんだこれ???」


 画面の端にたくさんの文字がスライドしていく。なぜか飼い主だの狼だの言われているが。


「こいつらは俺の家族だけど?」


 <おおおお。>

 <愛を感じる。>

 <誰だよ狼だなんていったの!?!?ちゃんと家族だろ←!?!?>

 <ごめんなさいm(__)m>


 どうやら4人の同じ人たちがこのパソコンにメッセージを送っているらしい。


 俺は録画してただけなのに、なんでこいつらはこっちの様子が分かってるんだ??マジで意味わからん。

 あ、そういえば携帯のお店の定員さんが言ってたな。変なページ?を開くとウイルス?に感染して、他の人に携帯の中身が見られてしまうって。それを見て悪用する人が世の中にはいるのだと。

 でも、ちゃんとそういうのに感染しないように編集長が何かしてくれたんだけど・・・パソコンには通用しないのか???



「おい。今俺が見えてるやつら、勝手に見てるんだろう??」


 <そうだな。>

 <ライブ配信だしね>

 <急にどうした??>


「おお・・結構理性的なんだな。」


 悪いことする奴が冷静に話し合いをしようとするとは。


「俺、パソコンとか初心者でさあ。スマホ?もこないだ初めて買ったのね??」


 <ふむ。>

 <???こいつが何の話をしているのか全っ然わかんないぞ??>

 <理性的???>

 <ていうか、飼い主さんめっちゃ美人じゃなかった??今は髪の毛しか見えないけど。>


「そういう初心者を狙って悪いことするのはよくないんじゃない???」


 <よ・・・よくないこととは????>

 <????>

 <↑さっきの狼の件では??>

 <ねねね。もう一回顔見せて~!!>


「??自分で自覚ないのか・・・やばいなお前ら。」


 <・・・・この人なんか配信の意味分かってなくないか??>

 <ついでに言うとカメラの位置もわかってないね。>

 <ぎぶみー顔!!!はよはよ!!>

 <↑おめえうるせえ。>

 <はあ?見せろ見せろ見せろ>


 4人から少し増えて6人。少し言葉が乱雑になっている人が出てくる。そしてメッセージの出す人が増えたため、音のスピードも上がる。


 ピコン!・・・ピコン!ピコン!


 ああ、これが原因か。さっき2人が反省した様子だったのは。

 きっとこの音で、きっと自分たちが何かやってしまったと思ったんだな。何も悪い事をしてないのに。早く帰ってきてやれば、こいつらをこんな目に合わせる事はなかったかもしれない。


 めんどくさいという利己的な理由で判断を誤った自分を少しぶん殴りたくなる。



「ん?何?配信??俺はただ録画してただけなんだが。」


 画面には録画ちゃうで!?!?の文字が流れる。


「・・・??録画が違う??だが今実際に俺と、シュヴァルツとクレイの様子が録画できてるだろう??」


 <確定だな。>

 <間違えてると思います。>

 <顔見せてって言ってんじゃん!!>

 <これはライブ配信ですよ!!>

 <シュヴァルツ!!クレイ!!名前かっこいいですね!!>


「???俺お前が何言ってんのか分かんねーわ。後シュヴァルツは雄でクレイが雌な。」


 <俺はお前が何したいのか分かんねーよ!?!?>

 <録画と間違えている模様??多分。>

 <おお!どちらがクレイなのでしょうか!?>


「ふーん。じゃあ、どうしたら録画できるのか教えてくれよ。」


 しっかり俺の言葉に返答してくれている。

 悪い奴らなのに親切だな。

 店員も悪いことする奴もいるって言ってたからな。きっとしないやつもいるということも事実なんだろう。


「俺、誰かに教えてもらおうと思ってたんだ。教えてくれ。」


 <????>

 <シュヴァルツとクレイさんを見たいです!!!>

 <どうゆうことだろうか。>

 <顔顔うるせえ奴しばいたったわ。>

 <↑GJ>


「えーと。俺的にはゲーム実況の動画を録画したいんだけど。パソコンのゲームってどうやるの???」


 <あれ?ちょっとよくわからなくなってきた。>

 <え?録画の話では??>

 <録画はパソコンのソフトウェアでできますよ~。>

 <あ、尻尾ちょっと見えた!!>


「ソフトウェアって何?俺横文字苦手。」


 <何こいつ?なんでよくわかんねーこと配信で言ってんの??>

 <↑最初から見てたけどわからん。>

 <とりあえず一回配信を終了して、調べ直した方がよいと思いますよ??>


「あ、よくわかんねーこと言ってんの??って言ってるやついるけどよ、勝手に俺の動画見てるやつにそんなこと言われたくねえんだけど??」



 ******



 俺と10人くらいの人たちで話し合いを行った結果、ある程度俺の過失が見受けられた。

 結構熱の入った話し合いだったと思う。


 どうやら、ライブ配信というものが録画とは違うものらしい。つまり、スマホに何かを感染させて見ていたわけではないんだとか。

 また、スマホで動画を投稿する時は、スマホの中のカメラで一旦動画を録画してから、YouTubeに投稿するんだそうだ。

「サイトの説明には無かったけどな。」と言ったら常識だ、と取り付く島もなかった。


 で、お互いの誤解が解けたところからはただの雑談会。

 今は都会の話を聞いている。




 ※サムネは仁がクシャミをして下を向いた時にパシャったので、仁の黒髪と、シュヴァルツとクレイが鼻を机の上にのっけてる様子になっています。

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