第7話 家族と俺

 軽トラで自宅に帰還したのは昨日の話。

 家に帰ったころにはもう夜も遅く、20時になっていた。ばっちゃんが運転しながら教えてくれたんだけど、たくさんの箱が届いたんだってさ。

 多分、ピッグカメラで買ったやつだな。


「よくわかんなかったから、納屋に全部放り込んであるよ」って。


 機械って砂とかダメなんじゃないか?俺よく知らないけど、水に弱いので気を付けてくださいねって言われたのは覚えてる。



 夜遅くに家に到着したものの、まず向かうのは庭。


「シュヴァルツ~!!クレイ~!!虎徹う~!!!会いたかったぞお~!!!」

「ヴォフ!!」「グル」「ワン!!!」


 彼らは頭がいいから、トラックの音で俺が帰ってきたのが分かったらしい。

 こちらを見つめて尻尾を振っていた。

 荷物をほっぽりだし、両手を広げて、彼らに向かってダッシュする。


「フハハハハハ!!!元気だったかあ!!!」

「あ!!こら!!お前はでかいんだから飛びついてきたら危ないだろ!!!」


 俺がダッシュし始めると同時に立ち上がり、舌をだらーんとさせる3匹。

 飛びつくシュヴァルツ、きりっとした表情で仁の前にお座りをする虎徹。頬をこすりつけ、手を甘噛みするクレイ。


 俺たちはしばらく離れていた寂しさを分かち合った。




 とまあ、昨日の話は置いといて、一晩寝て疲れが癒えた俺は、早速機材一式を組み立ててみることにした。段ボールが5つ分。どれもそこそこに大きい。

 あ、でも1つはテレビだってじっちゃん言ってたから正確には4つか。


「まずは1つ開けてみっかあ。」


 納屋から段ボールを一つとり出して運ぶ。


 俺の部屋は、畳だ。なので正直、こういう重たいものを長期的に置くのは好ましくない。

 運び先は、囲炉裏のある部屋の隣の部屋だな。

 今は物が散らかってるけど、母さんの部屋だった場所だ。

 この家には珍しく、フローリングになっている。

 母さんが、自分の部屋が畳は嫌だ!!ってごねて街の大工さんに張り替えてもらったらしい。


「はあどっこいしょお!!」


 ドスン!!


 どんだけ重たいんだよ・・・。20キロはあるな・・・。


 段ボールを置いた振動で、床がきしむ音がした。

 ハサミでテープを破り、段ボールの中身を確認する。


「え~と。これは・・・・。なんだ??」


 四角くて、黒色の・・・なんか穴があるな。何に使うか全然わからん。

 あ、これが説明書か。俺炊飯器の説明書読んだことあるから、多分大丈・・夫・・・????

 じゃ、ないなあ・・・。横文字多すぎで全っ然理解できない。


「おおお、高校2年生の頭脳を持つ俺が分からないなんて・・・・。なかなかやるじゃねえか。」


 説明書を持つ手が震える。


「ふう。とりあえず次の箱をもってこよう。」


 出ていないおでこの汗を、俺はぬぐった。



 ***



「はあ~。初っ端から、出鼻をくじかれたぜ~。あんな横文字。俺ができると思うか??誰か助けてくんねえかな・・・。」


 一旦部屋を出た俺はもう一度納屋に向かう。

 ペタペタとする床がいい感じだ。


「ヴォフッ!!ヴォフ!!」


 シュヴァルツが、縁側にあごをのっけて、悩んで腕を組みながら移動する俺を見ていた。

 尻尾は少し垂れていて、耳も伏せられていた。


「お~。シュヴァルツ。どうしたんだ~?どうせまた、クレイにちょっかいだして叱られたんだろ~??」

「くーん。」

「全く懲りねえんだから・・・。ちょっと待ってろ。今足拭いてやっから。」


 シュヴァルツは海外から輸入された狼犬だ。クレイもそうだけど、とても頭がいい。両者共々ハイコンテンツ。75~99%狼のDNAが入っている。(ちゃんとした伝手から譲って貰い、県の申請も通っている設定です。血統書付き。)

 危険は危険だが、幼いころから俺とともに生活していることもあって、もう家族同然の存在だな。


 とはいうものの、シュヴァルツは少しやんちゃな個体らしく、こっちに来た当初から暴れまくっていた。クレイにも虎徹にもちょっかいを出して、すぐに優位に立とうとする。でも大体シバかれて終わり。

 こっちに来た当初も暴れまくるもんだから、じっちゃんが首根っこ持ってめちゃ怒ってた。隣には大体俺がいたけどな!!!


「はい。上がっていいぞ。」

「ヴォフッ!!」


 返事をしたシュヴァルツは安全地帯に来たからか、尻尾をフリフリ、上機嫌に伸びをしていた。


「じゃ、俺は納屋に行くから。」


 問題の種が解決したからか、もうこっち興味ない。用済みだと言わんばかりに、自分の時間を堪能し始めたシュヴァルツに別れを告げた。


 俺は足を拭いたタオルを持ったまま納屋に向かう。


 納屋は結構暗いから危ないんだよなあ。刃物とかも置いてあるし。

 正直こんなところに置くように言ったばっちゃんには、もう少し別の場所があったろう!?と言いたい。


「はあ、どっこいしょおおお!!!」


 2つ目の段ボールを持ち上げる。


 今回のはさっきのよりかは軽いな。


 しかし、場所が悪い。段ボールを挟むようにして棚が置かれているため、一度、後ろが見えない状態で下がらなくてはならない。


「ゆっくり・・・ゆっくり・・。」


 ぽふっ。


「おん??」


 下がろうとしたら何か柔らかいものに足が触れた。

 さっきまでは何もなかったと思ったんだけどな・・・。

 思考もほどほどに、そのぶつかった何かは、もぞもぞ動いて足と足の間に挟まろうとしてきた。

 この感じはあれだな。


「クレイ??ちょっとそこ危ねえからどいといて~。」

「グルル・・・」


 恐らく灰色のあいつだろう。シュヴァルツの相手をするのに疲れてこっちまで来たって感じか。

 ってなると虎徹は・・・。


「虎徹~??」

「ワン!」


 クレイを心配して付いてきてるよなあ。本当にうちの子いい子。

 とりあえず股に鼻突っ込むのはやめようなと言ってクレイに下がらせ、よく見守ってたなと虎徹褒めた。

 のしのし、2人を引き連れて、俺は先ほどの部屋に向かうのだった。



 *****



 じっちゃんとばっちゃんは今日、畑の作物の確認に、朝から出かけてる。俺は今日疲れが出たのか、珍しく日の出とともに目覚めなかった。

 じっちゃんとばっちゃんは日の出の前に目が覚めてるんだけどね。


「うがああああああ!!!」

「「「うおーーーーん!!」」」


 機材を組み立てようと決心してからおよそ3時間。何とか説明書を読んでいろんな線をくっつけたりすることができた。

 が、そこからは何もわからない。

 自分の頭をぐしゃぐしゃにした後、モフモフの毛皮もぐしゃぐしゃにしてストレスを発散する。

 俺と3匹の遠吠えが、虚しく響いた。


 店頭でいろいろ説明してもらったスマホで検索とやらもしてみたが、いまいちピンとこなかったし、他にも俺にできることはすべてやった。

 これ以上は俺の手だけでできるとは思えない。何となく頭の使い過ぎで頭が痛くなってきた気がする。


 ああ。もう駄目だと。俺はうだうだ寝転んだ。そして天井のシミをぼーっと見つめる。


 誰かあああ!!!ヘルプ!!!


 そんなことを心で叫んだ時、まるで天啓を授かったかのように頭にある人物が浮上した。


「あ、編集長さん!」



 *****



「え?やだ、あなたそれじゃ全然できないわよ~??ルーターってやつ取り付けて、LANケーブル接続してみなさい?それでパソコンでもインターネットが繋がるようになるわよ??」


 るーたー??らんけーぶる??

 横文字俺苦手。


 その後も説明を聞いてみたんだけど、全然理解できなくて、しょうがないから、お互いの顔が見えるような機能を使って会話を行うことにした。


「あ、ほら!あの壁にコンセントみたいなやつあるでしょ?丸いけど。あら?ONUとルーターは繋がってるのね?じゃあ、あとはLANケーブルとパソコンを繋ぐだけ。」

「え~っと・・・。あ、あれかあ・・・。」


 編集長は基本的な配線も軽くなら分かるらしい。おーえぬゆー?とか全然知らなかったけど、言われたとおりにやったら、パソコンの電源もついたし、インターネットも使えるようになってた。

 あと、スマホのWi-Fi登録?っていうのもしないといけなかったらしい。登録をしないと、家の中でも、外でスマホを使うと同じように何かが減っていくんだって。


 何だよそれ。怖っ。後でじっちゃんにも教えてあげないと・・・。


「あ、あと、YouTubeってどこにあんの??全然見つからないんだけど??」

「それは、ネットで検索して・・・・・


 俺の、YouTubeへの道のりはまだまだかかりそうだ。




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