悪魔のたわし

悪魔は家にかえり考えた

なぜたわしを買ったのだろう

衝動買いもいいとこだ

もっと冷静に買い物をしなければ

世間でたわしがはやっているからといって

世の中の流れにのってしまっては

悪魔の名がすたる

もっと自分というものをしっかり持って

生きようと悪魔は誓った

悪魔はそっとたわしを手に取った

せっかく買ったたわしだ

有効に使わなければ

たわしがかわいそうだ

そう思い

たわしを手にお風呂場にむかう

ここじゃない お風呂はスポンジで十分だ

トイレにむかった

これだと手が汚れる

台所を探す

そうだ 魚焼きグリルだ

グリルをとりだし

洗剤をつけてこすった

きれいになったが

悪魔は満たされなかった

これだけじゃないはずだ

もっとなにかをこすりたい

たわしを手に

外にでた

空高く舞い上がり

なにかこするものを探した

建物が立ち並び

道路には車が走る

こするところはありそうだ

いったん家にもどり

バケツに水を汲んで

ふたたび外にでた

まず家の前からだ

そういって

たわしを水に浸し

家の前のアスファルトを

こすりはじめた

悪魔の力では

それほど広い範囲は

こすれなかったが

こすったところは

きれいになっている

悪魔がここをこすったことは

だれも気が付かないかもしれない

けれど

悪魔はしあわせだった

このことは

何の役にも立たないかもしれない

けれど

悪魔は満たされていた


悪魔は額の汗をぬぐいながら

かすかに笑っていた

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