妹とギャル

「ねえ、徹兄さん」

「なんだい?」

「もっと、結愛さんのこと聞かせて欲しいわ」


 ボクは栄子と、マロを散歩させている。


 栄子は力が弱いので、自然とボクが手綱を握る形に。


「しっかりしていそうじゃない。わたしてっきり、『はろはろ~♪』とかって軽くあしらわれるのかと思っていたわ」

「妙にギャル口調がウマイね」


 ギャル語を話す妹なんて、新鮮だった。


「友だちに一人、そういう子がいるのよ。しょっちゅう『お茶しに行こ♪』とかうるさくて」


 お嬢様学校にも、ギャルはいるのか。


「ギャルはキライ?」

「いいえ。その子と遊びに行ったりはするわ。ネイルだって、その子に教わったのよ」


 左手の小指に、デコが施されている。栄子は超優等生だと思っていたから、意外だった。


「わたしだって、頭でっかちのまま過ごしたくないわ。そんな窮屈に生きていたって、楽しくないですもの」


 別にウチは、厳格ってワケじゃない。普通のサラリーマンの家だ。ただ、栄子が特別できた子だってだけで。


「その子のフリーダムさを見て、わたしは思い直したの。勉強はできるに越したことはないけれど、勉強だけが人生じゃないって」

「確かに、そうだね」

「兄さんも、その結愛さんと結ばれて、考え方に変化はあった?」

「えっと、人は見かけで判断しちゃダメってことかな」


 結愛さんの魅力は、ボクみたいな小さい存在でさえ、対等の立場になろうとする。相手を理解しようと努力する姿勢は見習いたい。 


「お互いに刺激し合える関係は、うらやましいわね。出会いは何だったの?」

「入学初日で、結愛さんは学校を休んだんだ。でも、次の日は古文で、小テストの鬼な教師だった。ボクは結愛さんが怒られないように、ノートを見せて範囲を教えたんだよ」


 何も、そのときから結愛さんを意識していたわけじゃない。単に、授業を進めたかったに過ぎないのだ。席も隣同士だったし、ちょうどよかっただけで。


「次の日学校が終わったら、結愛さんに呼び出されてさ。オシャレなカフェに連れて行かれた。その帰りに『自分と交際しろ』って」

「下の名前で呼び合ったのは?」

「そう呼べって言われて」


 カレシカノジョなのに、苗字呼びはよそよそしいと。


「あとは、ちょくちょく勉強を教えている感じかな。その度に、色々な所に連れて行ってくれる」

「兄さん、つかぬことを聞くけれど」


 やっぱり、こういう質問は来るよなぁ。


「キスはしたよ」

「……っ! そ、そう」


 栄子は、眼鏡の奥にある瞳を泳がせた。


「でもね、マロが結愛さんにキスしてきたからであって。結愛さんは、どうしてもファーストキスはボクとしたいって」

「あのね、兄さん。わたし『結愛さんの好物』を聞こうと思ったんだけれど……」

「そうなの!?」


 てっきり『どこまで進んだのか』を尋ねてきたとばかり。発言損じゃん!


「ちなみに、焼きソバが好きだよ。帰りはいつも屋台に寄るんだ」

「焼きそばか。お菓子なら作って渡せるけれど、難しいわね」

「そこまでしてあげようと思っていたの?」

「お近づきの印に」


 好奇心旺盛な妹に、ボクは脱帽した。





 翌日。


「おい徹、これは?」

「焼きそばパンです。妹の手作りですよ」

「うまい! ありがと。妹さんによろしく」

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