サインポール

源義史

第1話 プロローグ 

 髪の毛は生きてるんじゃなかろうか。そう思うことが、よくある。


 人間がどんなに「伸びるな」と念じても、そんなことお構いなしと言わんばかりに、彼らは伸びる。人間の命令に忠実な手や足とは真逆だ。彼らは好き放題に伸び続け、しまいには、「伸び過ぎた。切れ」と逆に命令してくる。何様だ。


 だが、悔しいことに大概の人はその命令に従う。もしかしたら、この星の覇者と思われていた人類は、最初からその覇権を奪われていたのかもしれない。髪の毛という、寄生生物に。


 私は近所の商店街を歩いている。髪を切るためだ。つまり私も、彼らに心まで寄生された、哀れな「大概の人」のうちの一人ということになる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る