第13話 先輩教員

「はぁ~……」


 俺は教員室の机に額を付けて、大きなため息をついた。

 するとそこへミイナがやって来て、声を掛けて来た。


「何朝から深いため息をついてるのよ」

「ん? あ~何だミイナ先輩か……おはようございま~す……はぁ~」


 俺はミイナの方を見た後、顔を戻し机に額を付けたまま挨拶をした。


「先輩じゃなくて、先生ね。後、そんな態度で挨拶しないでくれる?」

「すいません」


 俺はそこで机から顔を上げて、椅子にもたれ掛かった。

 するとミイナは俺が座る席と通路を挟んだ所の自席に座った。


「で、どうしたのよ。昨日の担当生徒との顔合わせで何かあったの?」

「っ……そうなんです~」


 ミイナの的確な言葉に、俺はその場で体から力だが抜ける様にうなだれて答えた。


「馬鹿にでもされた? いや、ハルト先生はそんなんじゃ気にしないわよね」

「思っていた以上に手が掛かりそうな生徒でしたけど、そこより昔の知り合いに拒絶された事が堪えて……」

「あ~知っている生徒が担当内にいるって言ってた子?」


 俺は頷いて答えると、ミイナは俺の方へと椅子を回して体を向けて来た。


「拒絶って相当よ。ハルト先生が、何かしたんじゃないの?」

「何かしたって、会うの10年振りですよ? 昔は普通だったし、嫌われた訳でもないですし」

「そんな前から知り合いなの?」

「はい。もしかして、女子って月日が経つと性格が変わったりするんですかね、ミイナ先輩?」


 と、俺がミイナに問いかけると、ミイナは小さく物音を立てて驚いた表情をしていた。


「どうしたんですか、そんな変に驚いて」

「そりゃ、驚くわよ。てっきり私は、男の子だと思ってたんだから。と言うか、ハルト先生が担当してる女子って言うとエリスさんじゃない。どう言う関係よ」

「どう言うって言われましても、偶然とう言うか、奇跡と言うか……」


 俺がエリスの問いかけに、上手く答えられずにいると1人の教員が話しに割り込んで来た。


「よぉハルト先生、大変そうな生徒を受け持ったな」

「げぇ、ヴィンジ先生……」


 俺は顔をそむけ、ボソッと呟いた。


「おはようございます、ヴィンジ先生」


 ミイナがそう訊くとヴィンジは、俺に向ける表情とは180度変わりきりっとした顔で答えた。

 ヴァンジは、俺より3つミイナの2つ上の6年目の先輩教員だ。

 既に担当生徒を受け持っており、優秀な生徒を既に卒業させて実績がある教員だ。

 だが、俺の事はかなり下に見ているのか、馬鹿にしたような発言や視線をよくしてくる。

 一方でミイナに対しては、デレデレと言うか片想いしているのがバレバレだ。

 だから、良く見せようとカッコをつける態度をよくとっていたりする。


「おはよう、ミイナ先生。今日はハルト先生を激励に来たんだよ。なんたって、異例の3年目で担当生徒を受け持つんだからね」

「なるほど……」

「まぁ、と言うのはおまけで、本当はミイナ先生を心配して来たんですよ。ミイナ先生も今年から担当生徒を受け持ちますよね?」

「はい。昨日の初顔合わせは不安でしたが、話もして良い関係を築けていけると思いましたよ」


 それにヴァンジは、大きく頷いて「それは良かった」と呟いた。

 そんな一瞬の間に、蔑んだ様な目で俺の方を見て来て「お前はどうせ上手く行っていないだろ」と目線で言われた。

 はいはい、どうせ俺は上手く行っていませんよ~だ。

 と、俺はヴァンジの視線を受けて、目線を逸らしてそんな事を心の中で言った。


「ミイナ先生、もし困った事や悩んでいる事があれば、俺が相談に乗りますよ。既に担当生徒も受け持っていますし、役に立てると思うんで」

「あ、はい。ありがとうございます、ヴァンジ先生。でも、私だけじゃなくて同じ様に今年から担当生徒を持つ、ハルト先生の事も助けてあげて下さい」


 ミイナの言葉にヴァンジは、俺の方に視線を向けて来た。


「あ~ハルト先生ね。もちろん、助けられる事があれば助けますよ。あれば、ですけど」

「あははは。ありがとうございます、ヴァンジ先生」


 俺は乾いた笑いをしながら、少し棒読みで返事をした。

 するとヴァンジは小さく鼻で笑った。

 あ~面倒くさ……

 俺はヴァンジにバレない様に、小さくため息をついた。


「あ~そう言えばミイナ先生は、担当生徒達の実力はもう見ましたか? もしまだでしたら、模擬戦はどうです?」

「それなら、今日生徒達に直接見せてもらう予定なので、大丈夫ですよ。それに、いきなり模擬戦だと担当生徒達も緊張してしまうと思いますので、気持ちだけ受け取ります」

「そうですか」


 そう残念そうに呟いたヴァンジは、再び俺の方をチラッと見たが直ぐに逸らした。

 おい、俺には言ってくれないのかよ。

 まぁ、言われてもアンタとはやらないけどな。

 その後、ヴァンジはミイナにいい顔してそのまま立ち去っていた。


「はぁ~やっと行ったか……」

「ハルト先生、ヴァンジ先生が苦手なのは分かるけど、あんまり態度に出さない方がいいよ」

「は~い。以後、気を付けま~すミイナ先生」


 ミイナは俺の反省していない態度を見て、呆れた様な表情をした。


「それで話は変わるけど、ハルト先生は担当生徒達の実力はどう見るか決めた?」

「一応は。ミイナ先輩は、どうやって見るんですか?」

「また先輩って……私は訓練場があるから、そこで今日見るつもり」


 リーベック魔法学院の訓練場には、様々な機材があるので生徒の力を見るにはうってつけの場所であり、基本的にはそこで生徒の力を確認したりする。


「で、ハルト先生は?」

「俺は、模擬戦で見る予定ですよ。しかも、3年生相手で」

「え……えっ!?」

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