捜査16日目

捜査16日目~意趣返し

 スザンネ達は船で北に向かおうとしていたが、昨日の火災で船は沈没した。それで、もし北に移動しようとするなら駅馬車だ。市民は勝手に移動ができないがスザンネ達なら大金を使って何とかすることができるかもしれない。


 マイヤー、タウゼントシュタイン、クラクスの三人は、まず、オストハーフェンシュタットの警察本部に向かい、捜査の協力を仰ぐことにした。

 警察本部の前に馬を繋ぎ、中に入る。入口すぐそばにいた警官に話しかける。

「我々は、ズーデハーフェンシュタットから来た傭兵部隊の者です。ヴェールテ家の件で捜査をしております。先日、こちらの隊長のユルゲン・クリーガーがどなたかと話をしていると思いますが、わかる方おられますか?」。

「ああ、クリーガーさんが関わっている件ですね。わかりました。少しお待ちください」。


 警官は建物の奥へ行く。しばらく待たされたあと、一人の男性が近づいていた。白髪混じりで背の高い、がっしりした体格の男性だ。

「私は警部のハンス・ノイマンと言います」。

 マイヤーたち三人は敬礼をする。

「私はズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊の副隊長でエーベル・マイヤー。こちらの二人は隊員のエーベル・マイヤー、ソフィア・タウゼントシュタイン、オットー・クラクスです」。

「ズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊ということは、来られた要件はヴェールテ一家の殺人の件ですね」。

「そうです」。

「クリーガーさんにはズーデハーフェンシュタットに帰ってほしくなかったんですがね。そちらの司令官の命令なら仕方ありませんが。彼は毒を扱っているということで、クリスティアーネの殺害の参考人だったのに」。

 ノイマンは不満をぶつけた。

「隊長は殺人なんかしません」。

「それはわかりませんよ。人は突然、魔が差したりします」。

「隊長に限ってそんなことはありません」。

 クラクスが声を上げた。マイヤーは手でクラクスを制した。

「隊長にはクリスティアーネを殺害する理由がありません。それより緊急の要件で、今はヴェールテ家の者達がズーデハーフェンシュタットから逃走し、我々はそれを追ってこちらに来ているのです。彼らが逃走しているところから犯人の可能性が高いと思っています」。

「なるほど」。

「今日は、その逃走中のスザンネ・ヴェールテと執事フリッツ・ベットリッヒを追っています」。

「この街にいるのは間違いないのですか?」

「昨日、彼らが乗って来た貨物船が火災で沈没したので、当初の予定だったダーガリンダ王国には行けなくなりました」。

「昨夜の火災ですね? 後処理は海軍がやっていたみたいですが、野次馬の整理に我々も駆り出されました、いい迷惑ですよ。事情は聴きましたが、船で火炎魔術を使うなんて、ナンセンスです」。

「あの時は、剣を持った男たちに襲われたので、やむなくです」。

 再びクラクスが声を上げた。

 ノイマンはそれを聞いて“やれやれ”というように首を振った。

「本当は火を放ったあなたにも警察として事情を聴きたいところですが、またここの司令官に止められそうですね」。そして、マイヤーに質問をした。「ところで、ヴェールテ家の者の目的地はダーガリンダ王国なのは間違いないのですか?」

「はい、貨物船はダーガリンダ王国の首都ジェーハールセリエまで行く予定でした。国外に逃げてしまえば、我々から完全に逃れることができます。船が無くなった今、北に向かうには駅馬車を使うと思っています。それ以外、街から出る方法はありませんから」。

 ノイマンは相槌を打ちながら聞いていたが、マイヤーが話し終わるとため息をついて尋ねた。

「それで、我々にどうしろと?」

「スザンネ達の捜索に協力していただけないかと」。

「今、人出が足りなくてね。協力は出来かねます」。

「なんですって?」

「突然やってきて、そんなことを言われても、こちらも困ります」。ノイマンはそういうと立ち去ろうとする。「忙しいので、これで」。

「待って下さい」。

 マイヤーは彼の背中に声を掛けたが、それを無視して去っていた。


「あの態度はなんでしょう?」

 タウゼントシュタインが不満そうに言う。

「おそらく、隊長を彼らの捜査の途中に帰らせたことに対する意趣返しだろう」。

 三人は警察本部を後にした。

「警察が協力してくれないというなら、ここの軍にお願いしようか」。

「その間にも、スザンネ達は街を離れて行っているかもしれませんよ」。

 クラクスが不安そうに言う。

「だったら、私は城に出向いてここの司令官にお願いしてみよう。君たちは駅馬車の待合所まで行ってみてくれないか。もし、スザンネ達が来ていたなら、見たものがいるだろう」。

「わかりました」。

 タウゼントシュタインとクラクスが答えた。

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