豚伯爵は現世の地獄で独り啼く

肉巻きありそーす

豚は鳴く

第1話 豚伯爵は鳴く


「ぶひっひ、ぶへっへ」


 気味の悪い声の主はこの学園に通う者であるならば知らない者はいない。豚伯爵ことバンディーダ・シモンのものだ。彼は今日も菓子を頬張りながら、学園中を練り歩く。多くの取り巻きを従えながら。


 シモン家は伯爵家にして侯爵を凌ぎ、公爵にまで匹敵する財力を誇る。なぜ一介の伯爵家がここまで栄えているのか。それは、シモン家の領地はだからだ。十数年前からシモン領地には年に約50ものダンジョンが発生する。シモン家はそのダンジョンを管理、あるいは国やギルドに売りつけることによって莫大な資産を得た。一時、国はダンジョン税というものを導入してシモン家をけん制したが、シモン家よりも他の貴族たちへの負担が遥かに上回ったため、今は廃止された。結局、シモン家はその恵みを存分に享受している。


「シモン様ぁ、購買のパン買い占めましたぁ!」


 取り巻きの一人が大きく手を挙げて報告する。


「ぶほぉ、よくやった。褒美だ、ぶふぅ」


 バンディーダはポケットから金貨を数枚取り出して、その取り巻きに渡した。


「ありがとうございます!」



「またやってるよ。今日も俺らの分は無しか」


「それにしてもあいつらもよくやってるよ。いくら貧乏だからってあの豚に奉仕するなんて」


 二人の男子が遠目から集団の光景を見て、溜息を吐いた。バンディーダの取り巻きは主に貧乏学生である。平民はもちろん、貧乏貴族もいれば、中にはシモン家よりも階級上の侯爵家の子息もいる。


「ぶ」


 バンディーダはその二人を指差した。それを見て取り巻きたちは、一斉に二人に襲い掛かる。


「やべぇ!あの豚、聞こえてたのか!」


「逃げるぞ!あいつらのリンチを喰らったらもうこの学園で生きていけない!」


 二人と取り巻きたちは建物から消えた。その後、二人がどうなったかを知る者はいない。それほど、バンディーダの取り巻きたちは凶暴で質が悪い。主の悪口が聞こえればたちまち数の暴力でその者を痛めつける。そして、根も葉もない噂を流して、社会的に抹殺するのだ。それが、バンディーダが疎まれている原因の一つである。


「さあ、バン様。食堂へ向かいましょう」


 腰を屈めて先導するのはバンディーダの取り巻き筆頭、ナサナナン侯爵子息であるジジカ・ナサナナン。ジジカは侯爵家でありながらも伯爵家であるバンディーダの取り巻きをしている。理由は一つ、ナサナナン家よりもシモン家の方が金持ちだからである。


「ぶひい」


 バンディーダは満足げに地を揺らしながら、食堂へ向かうのであった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る