→【なんで……?】→まぁ、いいだろう。藪はつつかない。


→まぁ、いいだろう。藪はつつかない。




 不自然なところはたびたびあったが、とにかくクラスの様子も落ち着いたらしい。

 他の奴がまた絡みそうな空気はあったが、三人で固まっているという事と、クラスメイトもサポートしだしたのでトラブルが起きることはなかった。

 目が覚めた? みたいに協力的なクラスメイトに俺は強烈な違和感を覚えたが、別にそれで俺が困ることもないのだ。放置でいいだろう。大祐も芽依も気にしている様子はない事だし。


 三宮家の兄と父とも交流をとるようになった。

 こちらは森崎家とは違い、子供を大切にしているようだ。母親と妹は別だったようだが。

 その母親と妹はといえば、もう連絡もないらしいが……


「そういえば、聞きたいことがあるんだが」


 三人で家で遊んでいる時、大祐がそう切り出した。

 怪我というか病気というか、何かしら患っているからあまりでかけるのは避けさせたいらしいが、最近は親も三宮家と交流を持っていることもあり、心配かけずにいられる家と見てもらえたようでうちでも遊ぶようになった。三人で遊ぶときは大体うちで、男同士で遊ぶときは大祐の家でというパターンが多い。お兄さんともそれなりに仲良くなっているのではないかと思う。ただ将棋やらチェスやらでぼこぼこにされているだけだが。


「どうしたん?」

「したーん?」

「この辺で、『傷が治る』系の都市伝説みたいのがあったと思うんだが……知っているか?」


 ずきり、と頭が痛んだ気がした。

 頭どころじゃなくて、体中痛んだ気もしたが……なんだろうか。よくわからない。


「あぁ、山にまつわることだろ? 知ってるよ、なぁ」

「知ってる知ってる。有名なんだよ」

「そうか……ちょっと、気になってな」


 ちょっと、というにはやけに真剣な空気。

 大祐は勉強等できる割に演技とかは下手である。


「都市伝説でもワンチャンスあるかも! みたいな?」

「おい、芽依」

「いやかまわないよ。そうだしな」


 少しとげとげしい言い方をした芽依をスルーした。

 なんというか、ちょいちょい棘を放っている気がする。

 他の奴よりも受け入れていることは確かなのだが、気に入らない時もある、らしい。

 それを受け入れなければならないいわれはないが、大祐は気にならないのかよくスルーしている。それも気に入らない風なのだから、たまったものじゃないだろうが……性格脳筋になるのはともかく……いやそれもそれであれだけど……悪くなるのはなおさらやめてほしいものだ。

 注意すればすぐその場では改めるし、しばらくはおとなしくなるから今のところ経過を見ている。色々だいぶましにはなってるんだ、急いで台無しになるよりはいいだろう。それにしたって、大祐が怒っていないからこその対応ではある。


「山、かな。頂上あたりに、お社みたいなのがある――って近所のおばさんがいってたよ」

「近所のおばさんとも井戸端してんのか」

「じょうほーもーの威力を見よ!」


 頂上。

 頂上?

 頂上だったろうか……

 何か、記憶に引っかかる、ような。


「頂上だよ」

「……森崎?」


 体がびっくりして、跳ねる。

 いきなり頂上ということを強調した芽依を、大祐がいぶかしげに見た。

 頭の奥の奥の……ずっとわからないくらい奥の方が少し、痛かった。


「……頂上で、いいのか?」

「いいと思うんだよ。私がいうのも、おかしいけどね」

「そうか」


 まるで、聞くことが正しい事のように大祐が芽依に聞いた。

 それは、確認を取るようだった。

 おかしな話なのに、俺はそれを見ても、特に何を言う事も出来なかった。


「――叶うと思うか?」

「私にはわからないけど、叶うといいなって思うよ。三宮君も頑張ってるもんね、少しくらい迷惑かけてもたたられたりしないんじゃないかな」


 その空気が何だか怖くなった。


「いやそんな怖い系の都市伝説だったっけ?」


 茶化すように、割り込むように言ったのは、だからだろう。


「啓くん、知ってるけど詳しくないもんね」

「あんまりそういうの、興味なかったからな」

「怖がるタイプでもないだろうしな」

「それな」


 雰囲気はすぐ、合わせるように戻った。

 何故だかわからないが、凄くほっとしている。普通に体調が悪いのかもしれない。


「都市伝説というか、代々この地域に伝わっている話らしいんだよ。

この町にはかつて神様がいて、それを祭っているお社がお山にあるよって。

実際にお社はあるって話だから、全くの嘘ってわけでもないの。

その神様が慈悲深いから、祈れば助けてくれる時がある――っていう、聞けばよくある話なんだよ」

「助けてくれる時もあるってのは中途半端だなぁ」

「逆に当たればご利益がありそうだろ?」

「そうかぁ……?」


 胡散臭いと思うが。


「まぁ……それで少しでも精神的にいいように作用するなら何でもいいけどさ。許可とったりついていったりとか、協力できそうならやってやってもいいし」

「お前は性格がたまによくなるな」

「たまには余計じゃね?」

「啓くんは良すぎないのがいいんだよ! 良すぎると悪い子は仲良くなれないけど、少し悪いとそうじゃないでしょ? 相手もそれに合わせて、少し悪くても都合が良ければ仲良くできるでしょ?」

「なんか、すげぇ語弊がうむこと言われてる気がする」





 本当に神様がいるとは思わない。

 思わないが、思いたくなる。神様じゃなくても、何か超常的な何かの存在を。


「急に治っていってんなぁ……いいことだけどさぁ、こええよさすがに……」


 ゲームの回復魔法じゃないんだからさぁ……いやこれゲームだった。

 でもなぁ……これ現実にもあるんだよな? マジで効力あるんだろうか、現実でも。


「時期が重なったのかもしれないな。そして、精神的に最近前向きになっているしな……おかげさまで」

「えぇ……」


 大祐は急激に回復に向かっていっている。

 あの話をして一週間くらいしかたっていないのに劇的だ。今まで、回復が見えな事のほうがおかしいといえばおかしいのか?


「なんか古代のナノマシン的な何かでも漂ってたんじゃねーの……? 大丈夫? 明日アンドロイドになっていた! とかならない?」

「それはそれで面白いと思うが……そもそもナノマシンでアンドロイドはちょっと飛び過ぎというか……」


 そんな話をしつつ、どんどんと回復していく。

 誰も文句を言う事じゃ無いし、喜ぶべきだ。

 そう思って、俺も変に見るのをやめていった。


「うーん、美男美女」


 ほぼほぼ治って見えた顔は、お兄さんに似てかっこいい感じだ。

 芽依と並ぶと俺がかすむ。さすがに自分がイケメンだとか思い上がれるほど図太くはないのだ。


「直ったことは嬉しいが、どうでもいいことだな」

「マァ! チョウシコイテル!」

「怖いんだが」

「ギイイイイイイイイ!!!!」

「怖いんだが」


 最近になって近寄りたそうになってきた男女を全てスルーして吐き捨てるように言う。

 それはまぁ、仕方ないだろう。

 今までそんなそぶりなかったのに手のひらを本人の前でくるくるしたらそうなるよ。顔で、っていう面で母と妹のことも思い出しちゃってなおさら癇に障るだろうしな。


「やーい! へいぼん!」

「やろうぶっ殺してやる!!!!」

「別にそこまで悪くもないと思うんだが」

「三宮君はダメな子だなぁ! 今のタイミングでそんなこといっても、それは女子が『可愛い子紹介して』っていわれて自分以下の子連れて行ってるやつみたいな風にとられんだよー。『可愛いね』っていわれてそんなことあると思ってるのに『そんなことないよほぉー!』って過剰に謙遜した振りする女子みたいな!」

「君は君で悪意溢れすぎて怖いんだが……」


 色々気になる所ばかり残ったが、それでも友達を作るという目的は達成できたのだ、それでいいだろう。

 何もかもをしらなければならないわけではないし、そんなことは不可能なのだから。


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