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 俺の記憶が確かであれば、この時期はもう芽依へのいじめが劇化しいっていて、たまたまだろうがそれに触発されるように他にあった芽も次に次にと花咲いていたはずである。現実、記憶の中の俺自身はぼぉーとしながら、関わらないように沈み込んで流されていたばかりだ。

 だから、詳しくは何がどう、というのは知らない。

 知らないが、今ほど静かでなかったということだけは確かである。


 なんか気取って考えてみたものの、単に普通から糞よりになった奴とかクズよりになったやつが流されて治安悪くなったよってだけの話。

 そんな中にいたのだから、恐らく三宮という少年も静かにはクラスにいれなかったことが想像できる。


 俺が暴れたり芽依が脳筋化したり、流されやすいという性質からなのか触発されたか、それとも何か無関係に違う流れでもあったのか。

 明らかに朧げな記憶よりも自分が関わりのない部分でも治安はよろしくなっている。脳筋が時に効果を発揮するといういい例ができたな。


 無論、それで平和になりましたあははうふふ――とはなっていない。

 元よりゴミみたいな人間が多い印象の地域である。大きくマイナスにふれるはずだったのがゼロに近くなったかな、くらいのマイナスになっただけだ。歩けばちらほら記憶とそうかわらないような人間を見かける事は難しくない。なんだこの学校。


 とはいえ。

 うちのクラスには余計なちょっかいを出す無意味な元気アピールをする奴はいないのだ。

 静かなものである。


 むしろ、触れまい、関わるまい、という空気すら。効きすぎてない? 一回ちょっとやっただけでここまでなる?

 静かなのは静かなので、ともすればそれはいじめと言われかねないが、直接的罵倒やらなにやらよりは余程いいはずだ。


「……」


 仲良くなれるかどうかを確認するにもきっかけがねぇ、と、本人をしばらく観察していたからわかるが、この状況に少なからずほっとしているのがわかる。

 そこから、前の場所では静かに暮らせなかったのではないかということが浮かび上がってくる皮肉。ぼっちすらできないのはそれは辛かろう。


 うーん。と唸りたくなる。

 この予測が当たっているのなら、やっぱり子供って碌でもない化しやすいのでは? 環境って大事だよな。

 無邪気が人の殺傷しない理由にはならないという事か。

 そもそも無邪気などというのが幻想という証左なのかもしれない。邪気ってのが時と場合で曖昧だもんな。






 三宮君が来てから一週間たった。ずっと、状況によれば気持ち悪いと言われかねないが、観察して……これたらまたチャンスがあったかもしれないが、俺は俺でというか、ちょっと目立ったせいなのか変なグループ勧誘が始まってそれに時間をとられてしまったりしている。

 他人でエンジョイストレス解消万歳! の自称カースト上位気取りのカスゴミ系グループとか、上級生が手下――というと笑ってしまいそうだが――にしにくるだとか。俺はいつの間に不良漫画の世界にきたのだという事態に巻き込まれかけていたのだ。

 やんちゃもあれからそんなにしてないはずなのに。ウザがらみムーブだとか、ロンリーだから与しやすいとみられたのかもしれない。


 てきとうに躱してはいるが、時間がとられるのは事実。鬱陶しい。

 愚痴り先が芽依しかないのが辛いところである。自分で距離開けようといいつつ便利使いしている開き直りであるが、芽依自身が最近鬱陶しさも抜けてきているし、それでまたべっとりするわけでもないから問題ないのだ。ストレスが凄かったから仕方ないのだ。


 まぁ、それはいい。

 なぜか、特別に解決しようともしていないのに最近減っている。

 ありがたいが、不思議なことだ。


 ともかく、三宮君である。

 動くのが趣味でないのか、それとも動きたくないのか。

 動くと痛かったりするのか警戒しているのか。


 教室で本を読んでいるというのが通常運転。

 正直、これで完全に他人を遮断してしまっているようなら、さすがに俺もやめておこうかという選択をとっただろう。

 臆病風に吹かれた、ということではなくて、そんなやつとわざわざ仲良くなる手間をかけたくないのだ。単に。


 当初の目的だった依存あれこれめんどくせぇというのは、なんか知らないが沈静化している――ただの気まぐれかもしれないと危惧していたが、そんなことを考え続けても仕方ない――っぽいから、男友達馬鹿出来るやつとか欲しいが急ぐ必要はなくなっている。無理に作っても楽しくはない。


 それでもまだ諦めないように観察しているのは、どうにも完全に壁を作って人間不信化完了! しているわけではないように見える部分があったからだ。

 ちらり、と教室の様子だったり、会話をしているグループを見ている時がある。

 本を読んでいるようで、会話を聞いているふしもあった。


 それは、単に情報を得るためだったかもしれない。

 しかし、そこに寂しさのようなものがあった気がするのだ。エスパーじゃないから、願望かもしれないけど。


 じゃあ、嘘か真か確かめるためにも、最初に決めていた事でもあるんだし、一回くらい接触しても。

 となった。そのためチャンスをうかがっているが、いきなりドーン! といくのはさすがにきついだろうなぁ、という。

 俺としてはかなり気を使っているといっていい。三宮君としては『そんなこと言われても知らないが』というだろうが。


 一年前の俺なら無遠慮に『俺の名前は啓、俺の名前をいってみろ!』とでもいいながら相手を引かせることもあたったかもしれない。

 これが成長というものか、と呟いたら最近芽依に爆笑されたのは苦い思い出。






 とある日の昼休み。今日はめんどくさい勧誘等はない。クラスメイトも空気的に一応……みたいなノリでサッカーに誘ってきたがお断りしている。教室は静かなものだ。

 ふと、そんな中、転向してから昼休みはいつも教室に常駐してるはずの三宮君がいないことに気付く。


「ト、イ、レ、か、なー」


 残っている――とはいえ、三宮君を刺激したくないからか最近ほとんどのクラスメイトは昼休み外にいる――何人かがびくっと俺の声に反応したがしてないふりをしているのを視界に入れつつ、三宮君の席を見ると本が置いてある。


 私物を置いていくとは……油断したなぁ!


 別になにするわけでもないが悪い顔をしてみる。

 記憶の中のわるわる母校なら言われているところである。

 来てからこっち、触れもしてこないし何もしてこないことから油断がでてきたのだろう。本くらいいいか、程度には警官心が緩んでいるといってもいい。

 机まで近づいて、そういえばどんな本を読んでいるのだろうかとみてみれば、カバーもない日だった。結構な確率でカバーを付けて読んでいるのだが、たまに無い日がある。手袋などしていることから、どんな症状でそうなっているかは不明だが、汚れるなど不便があるのかもしれない。


「お? ふーん」


 そこにあるのは漫画ではなかった。

 かといって難しいような本でも勉強関係のものでもない。

 翻訳されている海外で発売されているシリーズものだ。こっちで結構本を読むのが趣味になったから、その流れで俺も読んでいるものの一つだった。

 何巻かあるうちのまだ前半あたり。

 本の趣味は会うのかもしれない。少なくとも、共通の話題はありそうだ。

 これで参考書とか勉強一直線みたいだと多分諦めていたかもしれない。


「……何、か用か……?」


 ちょっと躊躇いがちの声に振り向けば、そこには帰還したらしい三宮君がこちらを多分戸惑ったように見ていた。

 顔の包帯に、ちょっと何かしみのようなものができている。

 具合も、もしかしたらよくないのかもしれない。纏っているというか、漂っているというか。そういう、ずっとあった存在感のようなものを薄く感じる。警戒心が下がっていたというよりは、単にする余裕がなかったかな?


「いや声かっこいいなおい!」

「え? は? 何?」

「……っぐ……ぶふぅっ……!」


 そんなことより声かっこよかった。『え? そこ?』といいたいようなツッコミの空気を教室から感じる。

 三宮君自身もなんか絡まれてるのか褒められてるのかわからないで戸惑っている風の空気を感じる。

 今日は教室にいた芽依は我慢しようとして噴き出してしまったようだ。


 近くできいた三宮君の声は、なんともそういう趣味のお兄さんお姉さんに人気がでそうな綺麗な声をしていた。


 もしや、包帯の下はイケメンだった……?


 冗談めかして考えてみたが、実際ありうる。

 いや……それだと、逆に闇深くなる可能性あるのか、これ?

 いつ頃からこうなのか知らないが……途中からこうなったとしたら、元の顔が良ければいいほど包帯の下がどうなっているかによって、そのギャップで酷いことになりそう、と思うのはこの地域に毒され過ぎだろうか。


 でも、別にイケメンといえるレベルでないとしても、そうか。

 警戒心や暗さのようなものが産まれた理由が、そうなってから周りにいじられたとかじゃなくて……対応の差から産まれたというか、そういうものの可能性もあるのか。


 改めて嫌なことに気付いたな。

 気付いたというか考え無しというか、興味ある風でその辺興味なかったのか。

 知られればあわよくば友達になろうといいつつ薄情と思われそうだが、そんなものだろう。正直、アレコレ考えて友達になるやつなどどれほどいるのかというものだ。


 近くにいるから、その目も良く見える。

 三宮大祐、という名前だが、もしかしたら日本以外の血も入っているのだろうか? 少し青みがかっているように見える。更に闇が深い要素が増えていく気がするが、さすがに考え過ぎだろうか。


 環境で警戒心が産まれる対応をされたか見られたかしてきたというには、綺麗な目をしている。

 どろどろとした負の感情だけではないというか。

 こうして、対面して言葉をかわ……したとはいえないが、それでも完全なる拒否というよりは、少し期待が見える――というのは、これは都合のいい解釈か。


「俺も読んでるよ、この本」

「……そうなんだ」

「本を読むようには見えませんねぇ! この嘘つきがぁ! って目をしているなぁ……?」

「そこまでは思ってない!」


 それもこれも、話してみればわかることだろう。つっこみ側の存在みたいだし、遊べるだろう。

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