幕間 ギギナールの魔将達

魔将総長サーガと、黒騎魔将アワンは邪王に命じられ、ギギナールを攻略していたが……正直なところ、攻めあぐねていた。


 最初の方こそ奇襲によって有利な状況を作れたが、勢いに乗れず、今はギギナール側が体勢を立て直しつつある。邪王軍にて、直接戦闘能力にかけては一二を争うと言われている二人がこうも押し込まれているのは、一人の英雄のせいであった。


 エルヴィン・クドリチュカ――――――“破界の魔王”の名を返上し、“帰還せし勇者王”と呼ばれ、ギギナールの精神的支柱となっている男だ。二人は乱戦の最中彼と遭遇し、そして二人して痛手を負って敗走することになった。




「クソッ、あれが人間だと!?悪い冗談だ!飛行しているサーガに飛びかかってその首を落とし掛ける人間がどこにいる!」




 天幕の中で机を叩き、周囲の者を竦ませるのはアワンである。向かいに座ったサーガは、あくまでも落ち着いて彼女の言葉に返答した。




「あの場にいたのだろうよ。アワン、俺は既に一度、同じことをする者を見たことがある」




「ミストルティアのガキか。チッ……」




 アワンにユスティーツェの話をすると、彼女は途端に不機嫌になる。サーガはその理由にある程度の当たりはつけていたが、それで図星を突いて激昂されては敵わぬと、敢えて口に出さないでいた。




「人の中には、時に我らの常識を越える者がいる。俺も最近学んだことだが、覚えておいた方が良い」




「フン……まあいい。いずれ決着はつける。それでお前の方はどうなんだ。調査は進んでいるのか」




 サーガはギギナール攻略とは別に、とある任務を邪王より仰せつかっていた。というより、彼にとってはそちらの任務の方が重要なものだと言い含められている。




「正直、全く手がかりが掴めん。我らが王も不可思議なことを言う。『ライフォス胡弓の切れた弦』を探せ、などと……」




 あの神をも恐れぬ邪王が、何故そんな御伽噺の中の品物を警戒するのか、サーガには理解出来なかった。確かに今に伝えられる彼の神器の逸話は凄まじい。戦神ダルクレムでさえ、その平和をもたらす力には抗えなかったという。だが、神話の時代に失われたものである。




「互いに膠着状態というわけか。気に入らん。私は前線に出てくる」




 アワンは傍らに置いてあった黒金アダマンタイトの剣を手に取ると、天幕を後にした。

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