幕間 邪王軍会議 Ⅱ

 魔将総長サーガが、邪王の前に跪いていた。その表情は硬く、しかし浮かんでいる感情をうかがい知ることは出来ない。


「今日が期日だったはずだがな」


 邪王ヴォルディガが厳かに口を開く。他の魔将達も、彼らの会話の行く末を固唾をのんで見詰めている。


「奴らを侮っていました。真銀王の剣……あの剣は危険です」


 そう言って、サーガは腕を捲った。そこには真銀王の剣……ユスティーツェにつけられた傷痕が、まだ生々しく残っていた。あの、天下無双と名高い魔将総長の腕に傷が!玉座の間は、にわかに騒がしくなる。


「つまりこういうこと?我らが魔将総長殿は、邪王様との約束を破った挙げ句、人族のガキの剣にこ~んなちっちゃい傷をつけられてビビって逃げてきました~っていうのをわざわざ報告に来たわけ?」


 けらけらと笑いながら、仮にも自分の上司である男を侮辱するのは、魔神使いのサキュバス、妖艶魔将ミグドノレシアであった。邪王も他の魔将達も彼女の性格は理解しているため、咎める者はいない。実際、彼女がこのように言いたくなる気持ちはその場の誰もが理解していた。敗北した蛮族に価値は無い、というのは、彼らにとっての共通認識だ。


「サーガよ、お前に罰を与えようなどとは思っておらん。事実、あの剣が得体の知れない力を持っているのは余も理解している。はてさて、アレは本当に人がミスリルを打って作ったのか……」


 邪王は実に楽しそうに、かの真の銀の剣について語る。その態度に対して疑問を呈したのは、造物魔将バレトであった。


「邪王様、恐れながらお聞きしますが、あの王子達にばかり構っていては、ランドールの統一が遅れるのでは?」


 自らが作りだしたゴーレムの言葉に、邪王は冷めた表情で応えた。


「バレトよ、お前は優秀だが、如何せん融通が利かんのが難点だ。良いか、余はやろうと思えばいつだって周辺の国を滅ぼし、ランドールどころか、この世界を手に出来る。それをやらんのは過程を楽しみたいからだ。余が魔将総長と四魔将を編成し、あの王子達に構うのも、全ては戯れ、余興に過ぎん」


 あまりにも傲慢な物言い。だが、誰にも異を唱えさせぬ圧が、邪王の言葉にはあった。


「サーガよ、もう良い、下がれ。傷を癒したら、お前には他の命令を与える。これからも魔将総長として力を振るえ」


「はっ」


サーガは、背後から聞こえてくるミグドノレシアの笑い声を努めて気にしないようにしながら、玉座の間から退室した。


「そして、猛獣魔将グロティガ」


自分を呼ぶ声に、今まで沈黙を守っていたボルグの男が立ち上がった。


「なんでしょう」


「うむ。お前にはクレイモルの攻略を命じる。やり方は問わん。連中もそこに向かったようだからな」


「了解しました。では、いつも通りに……真銀王の剣、少しは楽しめそうか」

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