第31話 新居での二人の暮らし

会社では結婚式の直前になってから、松本部長に紹介された中学の同窓生と急遽結婚することになったと今の山本部長に報告した。それで家族だけの内輪の結婚式にすることも話した。だからお祝いなどのお気遣いも不要だとも伝えた。


それもあって月曜に出勤すると周りがどうだったと聞いて来た。それで結婚式と会食と旅行先などを簡単に話した。皆もっと詳細に知りたかったようだったが、それ以上は聞いてこなかった。


仕事は定時で切り上げて早めに帰宅することにした。家にいる菜々恵のことが気になった。駅前通りをマンションの方へ歩いて行く。道路から3階の僕の部屋を見ると明かりがついている。いつもは真っ暗だから不思議な気持ちになる。


会社を出るときにメールを入れておいた。鍵を開けて、ドアを開けると菜々恵が迎えに出てきた。


「おかえりなさい」


ニコニコした菜々恵の顔を見るとホッとする。


「すぐにごはんにします? それともお風呂に入りますか?」


聞いてくれた。これを期待していた。でも「それとも、?」ともう一言加えてくれたらもっと良かったのにと思って顔がゆるんでしまった。


「何か可笑しいことでもある?」


そう言う菜々恵を軽くハグして言った。


「いや、ご飯を先にする。お腹が空いた」


寝室で部屋着に着替えて座卓に座るともう料理が並んでいた。和食のフルコースだ。


「今日は最初の夕食だから、張り切って作りました。でも毎回こんなに豪華だと食費がかかり過ぎるから、明日からはほどほどにします」


「週に一度くらいはこうしてくれるといいな」


「そうですね」


菜々恵は栄養士と調理師の両方の資格を持っている。どうして両方を取ったのか聞いたら、栄養的に十分でも美味しいとは限らないから、調理を学びたいと思ったと言っていた。どれも味は抜群だ。どこかの小料理屋で食べているのと同じだ。


全部平らげたので菜々恵は喜んでくれた。後片付けを手伝おうとしたが、不要と言われた。それで洗い物が終わるころを見計らってコーヒーを2人分入れた。


「ありがとう、おいしかった」


「結婚っていいもんだな。待っていてくれる人がいる」


「待っているのも心配なものですよ。顔を見るとホッとします」


「僕も同じだ。顔を見てホッとした」


菜々恵の肩を抱いて抱き寄せる。


「早めに寝ようか? 昨日は二人とも寝落ちしたから」


今朝、目覚ましが鳴った時、僕は身体を丸くした菜々恵を後から抱いて寝ていた。


僕が先にお風呂に入って寝室で待っていると、お風呂から上がった菜々恵が入ってきた。あの長めのTシャツ1枚着ているだけだった。僕の横に寝転がって抱きついてくる。


「さっき、玄関でなぜ笑ったと思う」


「大体想像がつくわ。あのタイミングだと。こうも言ってほしかったんでしょ。それとも、?」


「ええ、なんで分かったの?」


「言おうかなと思っていたから」


「じゃあ、なぜ、言ってくれなかったの?」


「もし、言ったらどう答えた?」


「もちろん、


「そう答えると思ったの。そうしたらせっかくの料理が冷えてしまうし、だからもうちょっとで口に出そうだったけど、やめておいたの」


「そうなの。考えていることは同じだったんだ」


「今度は気分次第でそう聞くね」


「楽しみにしているから」


「じゃあ、このまま眠る? それとも、?」


「もちろん、


そう言って、菜々恵の口を僕の口でふさいだ。ゆっくりキスから始める。それから僕の唇は下へとゆっくり降りて行き、そして、あの傷跡にたどり着く。


そして、丁寧に、優しく、何度も何度もその傷を癒すように舐め続ける。菜々恵は悲しいのか嬉しいのか分からないか細い声を上げ始める。


◆ ◆ ◆

菜々恵が快感を覚えることが身体に一番良いと実感している。セックスは免疫能を上げると信じたい。


一緒に住むようになってから、生理中を除いて毎晩、菜々恵を可愛がっている。菜々恵が上り詰めるのを確認してから、体位を変える。そしてまた上り詰めるのを確認して、次々と試みている。5回以上は毎晩上り詰めていると確信している。それを菜々恵がぐったりするまで続ける。


それを見届けると僕も心地よい疲労の中で眠りに落ちる。ここのところ、朝、菜々恵が僕に覆いかぶさってくることがなくなった。満足している証拠だと思っている。


でも菜々恵は寝起きがとても良い。あれだけぐったりしていたのが、朝は至って元気だ。僕より早く起きて身繕いをして朝食の準備をしてくれる。朝食ではつらつとしている菜々恵を見ると安心する。

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