第12話 二人だけの同窓会

チェックインが1時だったので、時間に合わせてホテルへ向かった。受付カウンターで菜々恵が「田村です」と言うと、カウンターの女性が部屋を確認している。「レークサイドのスイートですね」と聞こえた。


ロビーを見渡しても、まだ誰も到着していなかった。また、○○中学3年5組同窓会様といった案内板もなかった。やはり、ちょっと変だ。


「ロビーで皆を待っている? それとも先に部屋へ行く」


「その前にお話しておきたいことがあります」


菜々恵はロビーのソファーに腰かけた。僕はテーブルを挟んだその前の席に腰かけた。駅で待ち合わせたところからなんとなく感じていたこと、もしかしたら、僕たちだけか?


「今日は私たち二人だけの同窓会をしたいと思って計画しました。ごめんなさい」


「そうだったのか? 駅で待ち合わせをしたときから、少しおかしいなと感じてはいたけど、受付の様子ではっきり分かったところだった」


「分かりますよね」


「でも今の今まで気が付かなかった。僕らしいと思っているだろう」


「騙してしまうことになって、本当にごめんなさい」


「それなら二人で旅行がしたいと言ってくれればよかったのに」


「そう誘ったら一緒に来てくれました?」


「うーん、どう答えたか分からないというのが本当のところかもしれない」


「あなたは昔からそういうふうに態度がはっきりしなかったら、そう言ってもきっとそれとなく断られていたと思います。でも今回はどうしても二人だけで同窓会がしたかったの。これが最後になるかもしれないから」


「でも良く思いついたね。僕に断らせないで来させる方法を」


「私、お勉強は得意でなかったけど、こういう智恵はよく働くの」


「僕はかまわないから、二人で同窓会をしよう。朝からしてきたように」


「ありがとう。部屋へ行ってゆっくりします? 一番良い部屋をとりました。お風呂が付いたスイートルームです」


「へー、スイート、泊まったことないけど、ゆっくりできそうだね。じゃあ、行こうか?」


菜々恵がカウンターに声をかけるとボーイさんが荷物を持って部屋に案内してくれる。ボーイさんの後を二人で歩いている間、僕はある決心をしていた。


彼女を失望させてはいけない。絶対に彼女に恥を掻かせてはいけない。恥は僕が掻けばいい。


でも部屋に着いたらどうしよう。僕のことだから、部屋に入ってソファーに座って落ち着いたら何もできなくなってしまうのは目に見えている。


もう成り行きに任せて思うようにするだけだ。それが良い。歩きながらそういう考えに行きついた。部屋まで着くまでにとても長い時間がかかったように感じた。


ボーイさんが荷物を置いて部屋の説明をしてから帰っていった。菜々恵は入り口から少し入ったところで、部屋の中を眺めている。すかさず僕は彼女に近づいて、後ろから抱き締めた。彼女の髪の匂いが心地よい。


菜々恵は僕の行動に驚いたようだった。予想していなかった? 僕には背中が誘っているように見えた。彼女は身体を堅くしてじっとして動かない。


拒絶されなくて良かった。お互い黙ったままの時間が過ぎる。でもほんの短い時間だった気がする。


「僕は自分の気持ちに素直になることにした。君が好きだ。随分前に気が付いていた。だから今君を抱き締めたいし抱き締めている。そして僕のものにしたい」


菜々恵が頷いたのが分かった。そして、抱き締めている僕の手を掴んだ。彼女をこちらに向かせると抱きついてきた。頬を両手で挟んで唇を合わせる。柔らかい唇だ。これからどうしよう。ここはスイートルームだった。


菜々恵の身体を両手で抱え上げて、隣の寝室へ向かう。菜々恵もそれが分かったようで、すぐに身体の力を抜いた。


そっとベッドに横たえようとすると「めちゃくちゃにして」と言って力一杯抱きついてきた。僕はその力の強さに驚いた。こんなに力があるんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る