１９９６年晩秋の冷たい靄が地に低く淀んで、空は紺青に澄んだ美しい宵。

薄暗い不気味な一室で…………。

｛誰からも愛される事無く厄介者扱いされ続けて来たこの俺だが、今までもイヤこれからもこれ以上愛せる女性は絶対に現れないだろう弥生を作り出す事こそ俺の最大の夢。

俺を心から愛して永遠にひとつになれる弥生を作り出す事こそが俺の最大の喜び｝

弥生のコピ－、クロ―ン人間を作り出すというとんでもない夢に着手し出した達也の容態はすこぶる良くなって来ています。

やはり現実には愛し合う事が出来なかった弥生の完全コピ－、クロ―ン人間を作る事は達也にとっては何物にも代えがたい喜び、宝物。

｛現実の弥生は俺の意に反する事をヘッチャラで仕出かす冷たい女だが、クロ―ン人間の弥生は俺に絶対服従の俺好みの女に育て上げて見せる。絶対に！そして真実の愛をこの手に！｝

医師としての任務も立派に勤め上げられる程に回復しています。

人間と言う者、夢に向かって突き進むという事がいかに大切な事か！つくづく思い知らされる今日この頃。

ましてやもう直ぐ待望の我が子が誕生します。

この時期が達也にとっての最も幸せな時期だったと言っても過言ではありません。

周りの陰謀も全く目に入りません。

ですが？達也の気持ちとは裏腹に徐々に陰謀の波に飲み込まれることになるのです。

実は貴理子の実家は非配偶者間人工授精（ＡＩＤ）を実施している病院。

他人の精子を使った人工授精を手掛ける産婦人科だったのです。

子供の授からない人々を何とか救いたい一心なのです。

優秀な陽介は精子ドナ－としては打って付けです。

そこで考えたのが造精機能障害の達也の代わりに陽介の精子で人工授精させるという事です。

何故、そのような考えにまで及んだのかと申しますと「弥生が妊娠できないのは貴理子お前のせいだ！このヤブ医者何やってるんだ！」

達也がしびれを切らして、度々恐喝まがいなことを言って暴れ込んで来るものですから已む負えず行った行為なのです。

「もう無理です！」などと言おうものなら、それこそ大変！半分きちがいのような達也に半殺しの目に合います。

そこで最終手段、他人の精子を使った人工授精なのです。

こんな達也ですので、貴理子も木村も達也にはホトホト嫌気がさしているのです。

また木村は自分の能力は度外視して非常にプライドと権力欲の強い男。

｛あんな役立たず、躁うつ病という事は患者さんには秘密だが、病気が悪化して一刻も早く自殺でもして死んで欲しい！そしてこの病院を我が手に！ましてや陽介が優秀だからと言っても今は独り身！こっちには万能な貴理子と、この家の唯一の孫遥斗が居るではないか！｝この病院を我が物にと願って止まないのです。

一方の貴理子も｛この家の長男だという事を笠に着て、ろくに仕事らしい仕事もせずに当たり散らす達也、実質この産婦人科を取り仕切っているのは他ならぬ私なのに給料だってはした金、自分はろくに働きもしないで私の倍以上貰って許せない！いっその事死んでくれたら！｝

じゃ～！あのDNA鑑定結果はどういう事？？？

そこには恐ろしい事実が隠されているのです。

益々泥沼にはまって行くこの4人一体どうなるのでしょうか？？？

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