6-4

 勢いよく振り返り、空を見上げる。


 いくつか並んだ星。全部を確認できないような数じゃない。


「ねー、もう飽きちゃったよー」


 ヒイの声。そうだよね、時間かかるよね。


 降参ということで、二人でセイを呼んでみる。しかし、なかなか返事がない。


 少し心配になり、声を大きくし呼び続ける。


 近くに、さっき飛んで行ったウサギのロケットが、音を立てず、カラフルな光を上げながら降りてきた。


 扉が開き、二足歩行のウサギが出てくる。一人、二人、そして最後に、なぜかセイが出てきた。


「また、見つけられない、なんて、だらしないなあ」


 得意げに言うセイ。


 いや、乗物に乗って移動するのは反則なんじゃないかなあ……。とは、どうにも大人げなくて言えない。


 ヒイも何も言わないので、黙っておくことにした。


「じゃあ、次はセイがオニねっ」


 とヒイは自信満々に言う。しかしセイは、


「ぼくはね、追うより、追われるタイプ、なんだ」


 要するに、オニ役をやりたくないらしい。


 それを聞いたヒイは頬を膨らませ抗議しようとしている。


「あ、あのさっ、わたし疲れちゃったから、休憩にしない?」


 そう言うと、二人は同時に「仕方ないなあ」と言った。


 セイがそれを言うのか……。


 右からセイ、ヒイ、わたしの順で地面に寝転がりながら星を見る。


 何か忘れているような?


 ……ああ、そうだ。高校の宿題があった。たしか……将来の夢。高校生にもなって自分の将来の夢なんて書かせるのってどうなんだか。


「ねえ、おねえちゃん」


 目を閉じてみる。視界から星の輝きが消えた。


 将来の夢、かあ……かわいいお嫁さんになりたいですっ! とか書いたら怒られるんだろうなあ。


「おねえ、ちゃん?」


 昔はなんて言ってたかな。芸能人? そんなのじゃなかった。もっとマイナーな感じ。…………そうだ、絵本が描きたかったんだ。いつだったか、芸術の授業で隣の席になった子の絵がすごく上手で、自分の絵がひどく下手に見えて、それ以来、絵本を描きたいって言うのがすごく恥ずかしくなったんだっけ。


 なまじ自分の絵に自信を持ってたせいかな、絵を描くのも嫌になっちゃった。


「寝ちゃった~?」


 夢を見失ったわたしは、将来の夢と聞かれるたびに、いや、現在の目標を尋ねられるだけでも、目標を見つけることが目標ですっ。なんて、何もしてないのを、わざわざもっともらしい言い訳をして、体よく逃げてた。


 今回もそう書くのかな。


 そう書くんだろうな。


「落書き、しても良い、かな?」


 一人分の足音が近づいてくる。


「寝てないし、落書きされるのはヤダ」


 目を開くと、わたしの顔を覗き込んでいたセイは「なんだ」と残念そうに言いながら、ヒイとは反対側に倒れるように寝転がった。


「二人は、将来の夢って考えた事ある?」

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