白髪狐の少女

大樹の図書館にて 狐少女と教育者

ある本はこう語る

『 白黒つかない物事、

喜怒哀楽で済ますことの出来ない感情、

獣だからと怒る差別問題に

犬も呆れる夫婦喧嘩まで

世界は混沌に包まれている

だからこそ、人という生き物は戦闘をする

そして、戦うからこそ「最強」であり「英雄」と呼ばれるものが出てくるのも当たり前だった


曰く男が持つ魔剣は決してぶれず

曰く男が放つ魔法は決して外れず

曰くー

その男はとてもとても 優しかった


戦争に参加すれば軍隊を単独で壊滅させ

街中を滅ぼしかけた龍を単独で絶命させ

血で血を洗う戦いをし続けて


それでもまったく終わりの見えない闇の中で生きるのが嫌気がさし


「………俺、引退するわ」


最後の戦場でそう言い残し

地に剣を突き刺し青年は

世界でただ一人の英雄は


姿を消した


脅威を振りまき

呆れ怒ったような顔で戦場去った

英雄の名は、弄月ろうげつ彩支さいし


英雄は優しいが故に困り果て、暗闇に迷い込んだ子供の前にだけ…姿を表すという

そんな物語を聞いて子供たちは夢を見る…が、だからこそ英雄…否、青年に出会えるはずもない


青年が助けるのは、星も見えない暗闇に迷い込み、頼る人をもいない世界で泣き続ける子供だけなのだからー』


本をパタンと閉じ、前を見る

王国の中心地「神楽道」の裏道

震えている女の子の肩に着ていた魔法士のローブを掛けて泥と血で汚れた腕を優しく掴み上を向かせる

「……?だ、れ…?」

ほとんど何も見えない暗闇の中で、薄汚れた白髪に狐の獣耳と尻尾がある少女の濃い桃色の瞳を覗き込む

「あーー、俺の名前は弄月彩支、「星」が照らす光は、要らないか?ご機嫌斜めで泣き虫なお嬢さん?」

「……?」

きょとんと不思議そうに首を傾げる少女の髪を少しだけ乱暴に撫で

「俺が「雷鳴翼らいめいよく」の名にかけて、教育者としてお前を大空へと連れ出してやる」

道化のように、笑いかけた


-----------


「俺が「雷鳴翼」の名にかけて、教育者としてお前を大空へと連れ出してやる」

不思議なことを言う男の人ーー弄月、彩支と名乗っていたっけーーの紅い瞳を見つめ返す

「……べつに、いらない、もん」

「こんなに汚れて、帰る家もないのに、か?」

「っ!!」

痛いところを突かれる。

私ーー雪月せつげつ花白かしろは獣人でしかも狐族、狐は古来から人を騙してきたとされ昔に人間が大量殺処分をして以来人の目を掻い潜って生きている。

(わたしは…おやとか、いないからちがうけど…)

ずっとずっと独りぼっちだった。のに…

「よっ…と、かっるいな、成長期なんだからちゃんと飯食えよ」

「たべれるなら、たべてる…っていうかおろして!」

油断してたせいもあって軽々と抱き上げられる

「降りれるなら降りていいぞ」

「むぅぅぅ!!」

じたばたと暴れてみるけど男はにやにや笑ってこっちを見てる。

……ムカついたので少ない魔力を練って氷属性初級魔法の「氷符凍羽ひょうふとうは」を静かに発動、この至近距離なら直撃するはず!

「おぉっと」

「ふぁっ!?」

そう思ったのに魔法式を手刀で斬って発動寸前だった魔法は消えていく

「ふむ、毎日練習してるのか?その歳でここまで静かに魔法が発動できるのはすごいな」

「あ、あなたに褒められても…うれしく、ない」

「……」

あ…悲しそうな目で私を見てくる、そ、その顔やめて…う…ぅぅ…!!小さく、小さく呟く

「……ほんの少ししか、うれしく…ない…」

「ふっ」

笑われたってことは…は、はめられた!?……頬が赤くなってるのを自覚して下を向く、でもーー

私のささくれた心は、穏やかになっていた


「ここって、大樹?」

「あぁ、この国の中心点にある魔法樹、相当古い木なんだってな」

不思議そうに俺の顔を見上げる瞳に暗さは薄らいでいる、1人でいるとどうしても人と接するのに警戒心があるけど、それさえ解いたら心の底から信用するようになるからな…後でちゃんと言っておかんとな

そう思いながら大樹にあるドアを開け見なれた本棚の森に踏み入れる

「ほん、が、いっぱい…!」

「?好きなのか?」

キラキラした瞳で辺りを見回してる少女に声をかける

「ん!魔法とか、書いてある本、ゴミ捨て場にたまにあるから…よく読んでた!」

「……今度から俺に読みたくなったら言え、用意してやるから」

「?うん」

こいつ、分かってないな……ったく

奥に足を勧め1つの本棚の前に立つ

「なんか読むのー?」

「いや?家に帰るんだよ」

「へ?」

間抜けな顔をしてる少女に笑いかけて上から4段目、右から3冊目「雷鳴翼」と背表紙に書かれた金色の装飾が施されている本を手に取る

「ほら開いた」

「!?!?!?」

文字通り本棚に穴が空き「扉が」開いた

「これ、空間魔法?でも、使い手が少なくてほとんど奇跡認定されてるんじゃ…」

「……奇跡、ねぇ、やろうともしないで諦める連中はよく言うよな」

「え?」

「お前なら、ちゃんと使えるようになる」

「で、でも…私、総魔力量少なくて…」

「あぁ、知ってる」

「!」

「そして、お前が強くなることも、俺は知ってるよ」

「そんなの、無理ーー」

「無理じゃないさ」

不安そうに揺れる瞳を見つめる


「俺にだって出来たんだ、出来ない道理がねぇよ」


だから、どうしようもなくダメな人間だった俺が…次は、お前らに教える番だ


「奇跡や不可能なんてもんはこの世に存在しないんだ、だからな?…俺と……「先生」と一緒に、進んでいこう。ゆっくりでいい、お前がなりたい者になるために、な」

……どう、だ?格好つけすぎたか?

「……ん!せんせ、い…よろしくお願いします」

よかった、ちゃんと伝わったみたいだ、それじゃ…

「名前、教えてくれるか?」

「!そうだった、私は雪月 花白です。」

雪月、花白…?なんかどっかで聞いたような…いや、見た目的にあったことは無いなどっかで聞きかじったか…?まぁ今はいい

「花白、まずは風呂入ってこい」

「はーい!」

何かあったら、教育者として俺が護ってやればいい、それぐらいならずっとやってきたことだからな

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