第5章 氾濫する記憶 2

 スズラカミは家に帰ると、予め設定していた自動料理機で人工食物を食べ、ガン✖︎ナイトのバーチャル空間に入った。 


 仲間が徐々にに集まってくる。

「さあ、今日も元気にやっていくか」

ジャガーがみんなに声をかける。

「ああ」

「よっしゃ」そう言ってマッチングに向かおうとしていた仲間達をスズラカミ(ゲーム内での名前ではガク)が止めた。

「待て、その前に聞きたいことがある」

「なんだよガク」ジャガーは聞いた。

「まぁ、座れよお前ら」そう言ってスズラカミは全員を自分に注目させていった。

「俺は今日の昼の仕事でダークエクスの利用者にあった」

「おいおい、まじかよ」とシャチ

「案外いるもんだな」とネム

「っておい、ガクそれは俺の役目なんじゃ…」ガッカリして首を垂れるジャガー。

他の仲間はこの話を避けたいのかあまり関わって来なかった。


 スズラカミは構わず話を続けた。「といっても、その男もあまり信用できなくてな。そこで以前言っていたように情報を交換したいと思っている。特にジャガー。あんたはダークエクスと関わりのある仕事をしていると言っていたな。何か進展はあったか」


「おいおい、マジになってんじゃなねぇか。ガク。お前もダークエクスについて興味が出てきたのかよ」とジャガー。


「ああ、というか前から興味があった」

「マジかよ、ちなみに俺様は今どこで売ってるかも調査済みだ。ガクも知りたいか?」

「頼む、教えてくれ」

「第8地区のレオール商店街の裏側、9985ビルの一階。そこにある壁の右から3番目、縦は下から12段目のレンガの模様を押す。そうすると中に入れてもらえる筈だ。後はID10564、パスワードは¥45〆々*7€だ。」

「本当かよ。随分あっさり答えたな」

「なんだよ疑ってんのか?」

「俺は基本的に誰も信用していない」

 ジャガーはその言葉を聞いてやれやれといった感じで両手のひらを上に向けた後、続けていった。

「まぁ、ガクらしいな。だがこのことは警察にはいうなよ」

「俺が言うと思うかジャガー。むしろ逆だ。俺は警察などという国の犬になりたくない」

「ふっ。そこまで言うなら大丈夫だな。てっきり俺のことを疑ってんのかと思ってな」

「勿論そんな心配はするな。後、疑ってもない」


 スズラカミは内心かなり喜んでいた。今まで自分はこういう悪いことをする時の運が悪かった。だがここに来て初めて運が回って来たと思った。なぜならジャガーが言っていた第8地区とは、今日の昼間にバズとかいうダークエクス利用者が言っていた場所と同じだったからだ。ダークエクスに関するハッタリで偶然同じ場所が出る確率はいくらだろうか。偶然とは考えにくい。いや、たとえ偶然だとしてもこの場所を信じるしかない。


「なんだよお前ら意気投合しやがって。気色悪いぜ」シャチがいった。

「ダークエクスをやるのは勝手だけども、少なくとも僕を巻き込むのはやめてくださいね」とワタリが少し引き気味にいった。

「俺もワタリと同感だ。悪いがダークエクスとばかりには付き合ってられねぇ」とレイ。

「すまないな俺はもし、ダークエクスを手に入れたら、もうこのゲームから消える。俺が消えたらログアウトしたらそうだと思ってくれていい。みんなに迷惑かけたくない」

「こいつ、覚悟も座ってやがるのか」シャチがそう言ってそっぽ向いた。

「そうか…、だがダークエクスがそこにあるって決まっているわけじゃないだろ。もし、ダークエクスが見つからなかったら、また一緒に遊べるのか?」ネムをが寂しそうにいった。

「勿論、そのつもりだ。だが、俺は本当の自分を見つけに行く」

「まぁ、みんなそう落ち込むなよ。男には旅をして生を実感したい時もあるだろ? ガクにはその時が来たんだよ」とジャガーがいった。

「ああ、すまないな。皆、ありがとう」

 そういってスズラカミはゲームから静かに消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る