第22話:移民受け入れと神種

「何時も負担をかけてすまないな、セシリア。

 また宝石を創りだしてもらわなければいけなくなってしまった。

 市場と闘技場と歌劇場の税収でうるおっていたのだがなぁ」


「仕方ありませんわ、父上。

 ウィルブラハム公爵家やジェイムズ王国からだけの難民ならともなく、大陸中から多くの民が救いを求めてやってきたのですもの。

 食糧が足らなくなるのは仕方がない事ですわ」


「これは私の慈母聖女という噂のせいかもしれません。

 ごめんなさいね、セシリア」


「いえ、母上に慈母聖女の役割を押し付けたのは私です。

 私こそ母上に大きな負担をおかけしてすみません」


「いえ、そんなことはいいのよ。

 母親が娘の盾になるのは普通の事です。

 セシリアが気にするようなことではありませんよ」


「ありがとうございます、母上」


「それでだ、セシリア。

 食糧を宝石で購入するのはいいのだが、このままでは大陸中の食糧が値上がりしてしまって、もっと多くの民がこの地にやってきてしまうだろう。

 ある程度食糧を購入するのは仕方がないが、できるだけ自給自足できるようにならなければいけないと思うのだが、どう思う」


「はい、父上の申されると通りだと思います。

 今は牧草地で家畜を飼い、乳やチーズを食料にしています。

 ですが今家畜を放牧している場所を来年は畑にします。

 大陸中の商人や旅人が多くの種を持ってきてくれましたから、この地にあう成長が早く収穫量の多い穀物があるでしょう」


 本当はヘルメスの尻を蹴って神界の種を持ってこさせたのですけどね。

 雄弁と計略の神だというのなら、神々を説得して持って来いと怒鳴ってやりましたし、盗人の神だというのなら、神界から種を盗むくらいの覚悟をしろと面罵してもやりましたから、必死だったのでしょうね。


「そうか、セシリアがそういうのならこの一年の我慢だな」


「はい、ですが最初の収穫はもう直ぐだと思います。

 まだ土地が痩せているので並の収穫量しかありませんが、人や家畜の糞尿を撒いて豊かになった土地なら、普通の五倍は収穫できます」


「五倍は凄いな、最初の収穫はほとんど全部新たな畑の種にしなければいけないだろうが、それだけの収穫が見込めるとなると、値段を釣り上げるために買い占めている商人も、損をしないように早めに穀物を売りに出すだろう」


 確かに普通なら父上の申される通りなのですが、売り惜しみや値段の釣り上げをしている商人は、ヘルメスが悪夢を見せて殺してしまっていますから、普段のような暴騰はしていないのですよね。


 それにしても、恐怖のあまり死んでしまうような悪夢とは、いったいどのような夢なのでしょうね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る