自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。

克全

第一章

第1話:婚約破棄追放

 バッチーン


 いきなり何の予告もなく頬を張られました。

 張られたというのは表現が生易し過ぎますね。

 あまりの力に四メートルほど吹き飛ばされてしまいました。

 その破壊力の強さは、脳震盪を起こしてしばらく立てなかったほどです。

 左の奥歯もほとんど折れてしまっているのが分かります。

 それどころか張られた左側の頬が私の歯で裂けてしまっています。


「よくも俺を裏切って不貞を働いたな、絶対に許さんぞ。

 本来ならばこの場で八つ裂きにしてやるところだが、聖女のコリンヌが止めるからその顔を立てて殺さずにいてやる。

 だがお前のような尻軽とは絶対に結婚などできん。

 婚約はこの場で破棄してやる。

 破棄だ破棄、解消ではなく破棄だぞ。

 それとお前もブートル伯爵家も追放だ。

 お前だけではなくウィリアムもルイーズもヘンリーも一緒に王国追放だ」


 不意討ちに張り飛ばされたせいで、最初は何を言っているのか全く理解できませんでしたが、徐々に事の真相が分かってきました。

 私を張り飛ばした婚約者のルドルフ第三王子の後ろに、ニマニマと厭らしく嘲笑う自称聖女の従姉、コリンヌがいたからです。


 自分から聖女だと平気で偽るほど嘘つきで虚栄心が強いコリンヌです。

 父に男子が誕生したのが我慢できなかったのでしょう。

 このままなら弟のヘンリーが、コリンヌ達を押しのけてウィルブラハム公爵家を継承することになるのですから。


 さて、ちょっと油断し過ぎていましたね。

 王宮の中こそ戦場と心得て細心の注意を払っておくべきでした。

 いえ、前世の常在戦場という言葉を常に心に止めておかなければいけませんね。

 本来ならここでコリンヌ家族の嘘八百を暴いて、伯父家族を皆殺しにすべきなのかもしれませんが、それでは私が本当に望むモノが手に入りません。


 この世界この国の常識に従って色々と我慢してきましたが、こんな事をされてまで我慢しようとは思えません。

 そもそも筋肉バカのルドルフの事など小指の先ほども愛していませんし、本来私は他人と係わるのが大嫌いなのです。

 前世の私は人間不信で孤独を愛して生きてきたのですから。


 ただ、孤児だった私にとって、無償の愛を惜しみなく注いでくれるこの世界の両親と、天使のようにかわいい弟だけは別格です。

 この三人の為なら何だってできますし、どれほどの我慢だってできます。

 そうでなければ、とっととこんな国から出て行って自由に生きています。


 第三王子ごときに王家が決めた婚約を勝手に破棄などできない、追放刑も王がお決めになる事だとタンカを切る事も、激怒して襲い掛かってくるルドルフを返り討ちにする事も簡単ですが、家族三人にどうしたいかを聞いてから決めないといけません。

 こんなバカと根性悪は無視してお家に帰りましょう。






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