第5話 冒険者になる
「よし、いくぞ!」
朝になってティーシアの体調が良くなったようで、俺たちを先導しようとする。だがディーシアが元気に進もうとしている方向は、ヴィルノードの王都とは反対方向だ。
「ティーシア、王都ならこっちだよ」
「むむっ、そうか。ベルは小さいのにしっかりしてるな」
「伊達に7000年も生きてないからね」
「ははは、長生きだな。それはすごい」
(これは信じていなさそうだ。まあどっちでもいいけど)
しばらく森の中を歩き、偶にはぐれのゴブリンと遭遇してはティーシアが倒していると、やがて王都が見えてきた。
王都は白くぼんやりと光る結界で覆われており、それによって外敵から街を守っていた。
(ほう、この規模の結界を維持するか。なかなかやるじゃないか)
いざ入ろうとしたところで、俺たちは王都の入り口で門番に止められてしまう。俺が身分証を何も持っていなかったからだ。
「この子はこの王都警備部第13分隊隊長のティーシア・カティオスが保証する。何かあった時は全て私が責任を取る。通してやってくれ」
ティーシアがそう言ってくれおかげで、俺は無事にヴィルノード王国の王都、アイヴィルへと入れた。
街の中には多くの人がいた。リンゴのような果物を手に持って、いかにそれが美味いか声高に叫んで売る青果店の人。長い槍を背負って、どこかに向けて歩く冒険者のような人。肌の露出が多い下着のような服を着た、猫耳の生えた獣人の女性。様々な人がいた。それを見た俺は居心地の悪さを覚える。
(自分の思い通りに動かない生命体がこれだけ近くに沢山いるなんて、人間社会というのは不安定なシステムだな)
(いつこいつらが俺に襲いかかってきてもおかしくない)
(まあ、その気になったら街ごと滅ぼせる。我慢するか)
アイヴィルに入るとすぐに、ティーシアが俺に話しかけた。
「ベル、助けてくれた礼をさせて欲しい。何がいい?」
「うーん。特に何もいらないかな。ティーシアのおかげでこの街にも入れたし、もう十分だよ」
「そういう訳にはいかない。それでは命を救ってくれた礼として安すぎる」
(もう本当に十分なんだけどなあ)
そう思っていると、ノートが横から口を入れた。
「マスター、街を案内してもらうのはどうでしょうか。あとマスターお金持ってないです。宿屋にも泊まれないですよ」
「あぁ、そうだ。お金……お金か。人間生活にはお金が必要なんだった。面倒だな。まあ、森の中で寝るよ」
「ベル、何を言っているんだ! 恩人にそんな危ない目には合わせられない」
そう言いながらティーシアはポケットから金貨を2枚出して俺に渡す。むしろ森の中の方が安心して眠れそうだったが、俺はその金貨を受け取った。
「本当は私の家に泊めてやりたいが、騎士街区の寄宿舎だから騎士団以外は入れないんだ。これで宿に泊まってくれ。街の案内は、私でよければ喜んでするよ。明日でもいいか? 私はこれから騎士団に報告に行かないといけない」
そうして俺は明日ティーシアと街を巡る約束をして別れた。ティーシアは去り際に、
「あ、あと冒険者登録をしておくといい。一応の身分証明になる。魔法が使えるベルなら簡単に冒険者になれるだろう。場所は分かるか? あそこに教会の鐘が見えるだろう。その近くに冒険者ギルドがある。時間が空いた時にでも行ってみてくれ」
と助言をくれた。
ノートに助けられつつ、ティーシアからもらったお金で宿を取ると、俺はナンバー4722の昆虫型ゴーレムを〈
「ノート、こいつらと〈
「はい」
そうして俺は、街に大量のムカデやバッタ、ゴキブリといった昆虫型ゴーレムを放った。
「さて、冒険者登録か……やっといた方がいいかな?」
「そりゃあそうでしょう。今後街に入る度に止められるのは面倒ですよ」
「街なんて入らなくてもこんな感じで虫でも放って肋骨人形を探せるだろ。必要なら街に忍び込めばいい」
「マスター、ダメですよ。人の社会には人の社会のルールがあります。極力それを守らなくては、排除されますよ」
「はぁ、面倒臭いな」
俺は渋々冒険者ギルドへ向かう。
ティーシアの言っていた教会の鐘を目印に冒険者ギルドを探し出し、中に入った俺は荒くれ者たちの視線を一気に浴びる。
(なんだ? 人間じゃないことがバレたか?)
『何言ってるんですか、マスターは人間ですよ。多分、子供が珍しいのだと思います』
〈
(ノートが珍しいんじゃないか? ティーシアも
『それもありえますね』
男達の好奇の視線を無視して俺は受付の女性に話しかける。
「冒険者登録をしたい」
「はい、冒険者登録ですね……まあ、可愛い子ね。もしかして、ベルという方かしら? つい先程騎士団の分隊長さんから話がありました。素性の怪しい方の冒険者登録はお断りする場合もありますが、騎士団の方の推薦なら大丈夫でしょう」
(おぉ、ティーシアが話を通しておいてくれたのか)
『さっき別れたばかりなのに早いですね。私たちと別れたその足でここに話をしに来てくれていたのでしょう。マスター、明日ちゃんとお礼を言うんですよ』
(分かったよ)
ギルドのお姉さんは引き出しから紙とペンを取り出し、俺に差し出して言う。
「この紙に名前と職業を書いてください。職業ごとに試験を行います」
「試験って何やるの?」
「そうですね、例えば剣士なら試験官を務める冒険者の方と軽く手合わせしてもらって、魔法使いや治癒士なら魔法を実演してもらいます」
「なるほど」
「最低限の能力があるか評価するためですね。剣士なら今なら演習場に行けばすぐ試験を受けられます。魔法使いは……今ちょっと試験官がいないので、明日になります」
「そうか」
(明日はティーシアと街を巡る約束をしているし、何度もここにくるのは面倒だな)
(剣士でいいだろう)
『マスター、剣なんて振ったことないじゃないですか』
(そうだけど、魔力で身体能力は上げられる。最低限度の能力を示すだけなら多分いけるだろ)
脳内でノートとそんな会話をしながら、俺はギルドの職員からもらった紙に「ベル 剣士」と書いて渡した。
「それでは、このギルドの裏にある演習場に行ってください。頑張ってくださいね」
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