43.アイドルは妖精さんか何かではないのよ。
あの日。
「ねえ、
始業式も終わり、クラスも決まって、さあこれから高校生活が始まっていくぞというタイミングで、渡会は突然話しかけてきた。
四月一日は振り向いて、
「なに……なんですか?
渡会は聴こえるように舌打ちをして、
(こいつ今、ため口聞こうとしたわね……むかつく)
という独り言を、ぎりぎり四月一日に聞こえるくらいの音量でつぶやいたのち、
「う○こにまみれたミカンなんて、誰も食べたくないわよね」
突拍子もなければ、とんでも汚い内容について同意を求めてきた。なので、
「あの…………意味が分からないんですけど」
渡会は鼻で笑って、
「うん○は○んこよ。知らないの?まさかあなた、あれ?アイドルはトイレに行かないとかそういう類のことを本気で言っちゃう質?いやぁねえ気持ちが悪い。アイドルだって生き物なんだから排泄行為くらいするのよ?現実を見なさい?」
と、諭してきた。いや、そこが分からなかったわけではないのだが。
流石にそれは渡会も分かっていたようで、
「簡単よ。例えばネットで流行りのジャンルの作品が百個あったとするじゃない。そのうち九十九個はう○こだってことよ。残り一個は何とか読めるレベル。そんな分の悪い賭けをして、うん○を食べるくらいなら、端から手を出さないわねってそういうことよ。それくらい分かりなさい」
と、補足を付けた。ちなみにそんな話をするときの渡会は終始不機嫌で、言葉の内容よりもそっちの方が気になるくらいだった。明らかに説明不足だった部分の補足を求められて、どうしてこんなに不機嫌になれるんだろう。
ただ、言わんとするところは分からなくもないので、
「まあ、でも、昔から名物に美味いものなしとか言いますよね、確かに」
それを聞いた渡会はころりと機嫌を直し、
「あら、意外と分かってるのね。その辺のモブと変わらないかと思ってたけど感心したわ」
と超絶上から目線の感想を述べた上で、
「最初はびっくりしたわよ、ほんと。無理やり始業式なんて時間の無駄遣いでしかないところに連れて行こうとするし、こっちの話は一切聞かないし、暫くため口で口聞いてくるし。思わず蹴り上げてやろうかと思ったわよ」
「何をですか、何を」
「え?股間。効率的にダメージを与えるならそこしかないでしょう?頭大丈夫?」
おかしい。なんでそんなことを言われなければいけないんだ。流れで返しただけじゃないか。頭大丈夫はこちらの台詞である。
「っていうか、またなんでそんなこと言い出したんですか?」
「え?股間?」
「違いますよ。その前です、その前」
「序盤を読んだだけでブラウザバックする輩はクソだって話?」
「戻りすぎです。後それ、時系列的には前か怪しんでやめてください」
「いいじゃん、時をかけても!」
「そんなどこかの弁護士みたいなカジュアルな言い方しても駄目です。それじゃなくって、さっきのですよ。流行りものがどうとか、そういう話です」
渡会は「ああ」と思い至り、
「別に、特に理由は無いわよ。ただ、ちょっと思いついただけ」
「そう……なんですか?」
「そうよ。なに、疑ってるの?出るとこ出ましょうか?」
「なんでそうなるんですか……出ませんよ……」
結局この日、渡会が何故そんな話題を振って来たのかは分からずじまいだった。
が、彼女はこれを境に四月一日にちょっかいを出してくるようになり、さまざまな毒を、四月一日以外には一切聞こえないようなボリュームで吐きつづけるという、ありがたくもない日常が成立していったのだった。
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