6話・梅田ダンジョンA

 4人で夕方まで狩りをすることになった。梅田ダンジョンAは、1~20階まで岩壁の迷路になっている。ワープクリスタルは5階毎にあって、ボス戦は10階毎だ。


 僕が先頭で、並んで歩くジークとミーチェを挟んで、後ろに九条さん。


「ミーチェ、美味しそうな肉を落とす魔物はいるかい?」

「う~ん、感知魔法で広域捜査したけど、コカトリスぐらいかな」

「ハズレダンジョンか……」


 えっ、今なんて言った? 振り返ってミーチェを見たら、九条さんも何か言いたそうにしているから、僕が聞いてみた。


「ミーチェ、感知魔法で何の魔物がいるのか分かるの?」

「そうよ、分かるの。この魔法は便利よ~」


 見たことがある魔物なら名前まで分かるそうだ。そして、会ったことある人も、近くに来ると分かるらしい。それで私服のDPも……ミーチェ達を保護した人だったから分かったそうだ。


「「そんな魔法が……」便利だね」


 九条さんも驚いている。


 チート体質のミーチェが、自分で魔法を試行錯誤して育てたそうだ。向こうでは、自前のスキル『感知魔法』を持っている人がいるから、こっちでもいるんじゃないかと言う。『スキル書』は見たことがないそうだ。


「そう言えば、智明は自分の武器を持っていないの?」

「うん。いつもレンタル装備だよ、かさ張るし、武器なんて持ち歩けないしね」

「アイテムバッグに入れれば問題ないでしょう? 出さなければ良いだけよ」


 そうだね。そろそろ自分の武器を持っても良いかな。バッグも大きくしてもらったから、余裕で入るしね。馬車10台……ふふ。


 ミーチェに、鞘に入った片手剣を渡された。これも、僕へのお土産らしいけど、よく切れるから使わない時は鞘に入れておくように言われた。


「智明、使っている剣が折れたら困るでしょ? 予備の剣としてバッグに入れておいて」

「分かったよ。ミーチェ、ありがとう」


 ジークがこっそり教えてくれた。ミーチェが付加魔法を掛けた剣で、ジークはこれに勝る剣を見たことが無いそうだ。手入れしなくても大丈夫な剣なので、鍛冶職人には見せるなと言う。


「トモアキ、ろくなことにならないよ」

「分かったよ、ジーク」


 ミーチェは、自分の短剣とジークの片手剣、そして、僕にくれた片手剣の3本しか作っていないんだって。そうか、大事にするよ。


 低階層は、弱い魔物しか出て来ないからサクサク進み、夕方には10階のワープクリスタルに着いた。ボス戦は次回にしてダンジョンから出た。


 換金したお金で、食べに行くことになったけど、ジークが、僕のオススメの中華を食べたいと言うので、近くにある中華のチェーン店をスマホで検索した。


 九条さんは、ミーチェ達がホテルの部屋に戻るまで付き添うそうなので、一緒に中華の豪華バージョンを食べに行った。


「「「「乾杯!」」」」


 ミーチェは、ウーロン茶で乾杯。ミーチェは、お酒が入ると人が変わってしまうそうだ。そこも母さんと同じだね。ふふ。


 九条さんは、勤務時間を過ぎたからと一緒にビールを飲みながら、ジークに狩りに手間取る魔物、ゴーレムやラミアの倒し方を聞いている。


「……こっちにも、ラミアがいるの?」


 ミーチェが、ピクリと反応した。どうしたんだろう? 沖縄のダンジョンにいるそうだよと答えると、「そう……」とだけ答えた。


 ジークが、ゴーレムの倒し方を教えてくれる。普通は、前衛がタゲを取って魔法で倒すらしいが、魔法がない場合は関節を攻撃するんだって。だけど、時間が掛かるし剣がダメになるからお勧めしないと言う。


 そして、ラミアを倒す時は、『魅了』の視線を逸らすのが難しいから、魅了されたメンバーを殴る要員と闇魔法『スリープ』を使えるメンバーを入れて狩りをするのが通常らしい。近寄らないで、魔法で倒したりするパーティーもいるそうだ。


 ジークの場合は、武器が良いからゴーレムは普通に斬るらしい。そして、ラミアの『魅了』はレジストするから、こっちも普通に狩るそうだ。ジークもチートなのか? 強過ぎるだけ?


「ジークさん、ラミアの魅了をレジストするには、どれぐらいのステータスが必要ですか?」


 九条さんは、前のめりでジークに質問攻めだ。


「向こうでは、ラミアはランクBの魔物扱いだ。知力200で50%レジストすると言われている」

「知力200で50%ですか……」


 九条さんは項垂れている。攻略メンバーが、沖縄ダンジョンに魔物を間引きに行くと、必ず誰かが魅了されて怪我人が出るそうだ。そろそろ、間引かないといけないらしく、それで、良い方法を教えて欲しかったと言う。


 知力200を超えるのは難しいよね。僕の知力値が上がり始めたのは、魔法を覚えて使い始めてからだったな……知力200を超えたのは、この前、ミーチェにもらった『スキル書』を覚えた時だったよ。


 食事が終わって、僕は明日から仕事なので寮に帰る。九条さんと連絡先を交換して、何かあったら連絡を下さいと伝えた。


「智明、土曜日は温泉よ。遅刻しないでね~、おやすみ」

「うん。おやすみ」


 3人と別れて寮へ戻った。


◇◇

 翌日の職場で、佐藤部長に報告しに行った。DWAに呼び出された内容は、機密扱いだと言われたと……


「佐藤部長、すみません。DWAから許可が下りたら報告します」

「そうか、DWAから箝口令が出たのならしかたないな」


 昼休み、田中主任(先輩)と太田さんにも同じように伝えた。


「東山~。お前、また何か振り回されているよなぁ~」

「田中主任、東山君らしいですよ。ふふ」

「うぅ、すみません……」


 言えるものなら話したい。信じてもらえるかは別として……


「まぁ~、何かあったら相談しろよ~」

「田中主任、ありがとうございます」


 きっと言ったら、会わせろとか騒ぐだろうな……


 仕事を終えて寮に戻り、一泊二日で行く温泉旅行の準備をする。と言っても、アイテムバッグに荷物を入れるだけなので楽だ。


◇◇

 早朝、ホテルへ向かった。ホテルのロビーには、既にミーチェ達と九条さんがいた。3人の和やかな雰囲気を見てホッとした。昨日、揉め事はなかったようだね。


「皆さん、おはようございます」

「「おはよう」智明」

「東山君、おはよう。ジークさんとミーチェさんは凄いよ! 昨日何故、仕事なんかに行ったんだい。一緒にダンジョンに入れば良かったのに……貴重な体験が出来たよ!」


 えっ、何があったんだろう? 昨日3人は、梅田ダンジョンに入ったそうだ。九条さんは、見聞きしたことに関して箝口令が出ているからと教えられないと言う。そんな……それなら、何があったのか聞きたくなるようなことを言わないで欲しいよ。


 哀川さんも来て、揃ったので出発。電車で行くのかと思っていたら、哀川さんがマイクロバスを手配していた。このメンバーで電車移動は、目立つか……


 それに、哀川さんが付き添うのに九条さんも行くんだ? 九条さんに聞くと、自分も希望して自費で参加したらしい。あぁ、温泉だからのんびり出来るしね。


 バスの中で、昨日は何をしたのかミーチェとジークに聞いた。九条さんが教えてくれないのなら二人に聞けばいいよね。ジークはクスクス笑いながら、


「トモアキ、ダンジョンに入ってボス戦をしただけだよ。フフ」

「特別なことはないけど、ステータスの実が出たから登録カードのチャージが増えただけよ。ねぇ、ジーク」


 昨日は、3人で梅田ダンジョンを攻略したそうだ。10階のボス戦がまだだったので、10階へワープして、10階から30階までのボス戦を終わらせたそうだ。そうか、ステータスの実が出たのはラッキーだよね。しかし、一気に30階まで進むのは流石だな。


「はぁ~、そうですか……お二人にしたら普通なんですね。ジークさん、今度、戦い方を指導してください」

「フフ、僕は指導とか出来ないから、勝手に見て覚えて」

「むむ、私も見たかったな……」


 と、哀川さんが言う。僕もジークの戦い方を見たかったな。


 バスに揺られて、白浜で有名な観光市場でお昼にした。その後、動物園へ行ってパンダを見る。お決まりのコースだね。


「ミーチェ、あれは……クマなのか?」

「ジーク、そうよ。白黒で可愛いでしょ? ふふ」


 ジークが、ここの動物は食べる為に繁殖させているのか? と聞くので、希少動物を増やしたり、見せたりしているだけだと説明した。


「そうか、食べないのに……見せるだけでお金を取るのか」


 そうなんだけど……ミーチェ、後の説明を頼むね。


 海沿いにある豪華なホテルに着いた。ミーチェは、露天風呂付き客室を予約していた。僕たちは3人で一部屋にしたけど、ここのホテルの部屋は広くて、男3人でも広々と使える。


 温泉なんて久しぶりだなぁ、部屋について直ぐに露天風呂の温泉に入りに行った。


 はぁ~、温泉は良いね~。後で、また入ろう。


 夕食は、個室で和食会席を食べた。ミーチェが、盛り付けがステキで美味しいと喜んでいる。ジークは、箸に挑戦していたけど諦めてフォークで食べているよ。ふふ。うん、美味しいけど、この前ミーチェが作ってくれた料理の方が旨いかな。


 食事が落ち着いてきた頃、哀川さんと九条さんがランクA以上の魔物について質問を始めた。向こうのダンジョンにいる魔物なら、こっちにもいるかもしれないしね。


「そういうことは、ジークの方が詳しいわ」

「フフ、ミーチェがそう言うなら、知っていることを話すよ」


 食事も終わり、哀川さん達は、まだ話を聞きたそうだったけど、ミーチェ達は部屋に戻ると言う。


「おやすみなさい。又、明日ね」


 ミーチェは、にっこりと可愛く言う。のんびりしに来たんだから、それで良いと思うよ。僕も、また温泉に入りに行こう。

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