3話・二人の関係

 大阪市内のDWA本部近くにある、ハイクラスのホテルに到着した。


「今日から、ここで泊まって下さい。お二人のことは、しばらく秘密です」


 哀川さんが手配した部屋は、パノラマビューが楽しめて寝室が独立しているコーナースイートの部屋だった。VIP扱いだな……凄く高そうな部屋だよ。


「ねぇ、ミーチェ。さっきのクルマ? も面白かったけど、この塔のような建物が宿屋なのか。この世界の建物は、高くて面白いね」

「ジーク面白い? 部屋からの眺めが良いから、夜景が楽しみよ。ふふ」


 イケメンは、部屋の中を見回して窓からの景色を眺めている。本当に、この世界の人じゃないんだ。紫の瞳はカラコンじゃないのか……ミーチェも、スイートの部屋に泊まれてご機嫌のようだ。


「東山さん、明日、話を伺っても宜しいですか?」

「哀川さん、智明も東山なのでミーチェと呼んで下さい。それと、明日は市役所に行きたいので、その後なら良いですよ」


 ミーチェは、離婚届をもらって来るそうだ。


「ミーチェさん、明日、私が迎えに来ますので待っていて下さい。食事はホテルのレストランかルームサービスを利用すれば、支払いは部屋付けに出来るのでご自由に」

「哀川さん、気前が良いですね……」


 ミーチェの言う通りだね。まぁ、ダンジョンのことや『スキル書』のことを聞くだけでも、破格の情報料が出るのかもしれないけど。


「ダンジョンの情報を教えて貰えるなら、スィートルームでも良かったのですが、目立ってしまうかと思いまして、こちらの部屋にしました。まだ、マスコミには情報を漏らしたくないですから」


 あぁ、マスコミにバレると大騒動になるな。海外から横槍が入ったりしそうだ……


「ふふ。哀川さん、ステキな部屋を用意して頂いてありがとうございます。私達のことは、ずっと秘密で良いですよ」


 ミーチェは喜んでいるけど、イケメンは哀川さんを睨んでいる。殺気を感じるほどだ……哀川さんもそれを感じているみたいで、顔が少し引きつっている……やばい、ドキドキしてきた……何故、イケメンは怒っているんだ?


「ジーク、監禁されるんじゃないから威圧しないでね。哀川さんは、私達が自由に買い物や、美味しい物を好きなだけ食べられるようにしてくれたのよ。ジーク、プリンやケーキが食べ放題よ! ふふ」


 ミーチェがイケメンに、にっこりと説明する。向こうでの異世界人の扱いは、保護されるけど、軟禁されたりするそうだ。


「何だって、プリンとケーキが……そうか、僕はジーク。僕のミーチェに良くしてくれて、ありがとう」

「あぁ、いや、私は哀川と言います。このまま、お二人の担当になるので宜しく……」


 イケメン、殺気が消えて哀川さんにお礼を言ったけど……ミーチェの説明で納得した? 「僕のミーチェ」って……恥ずかしくないのか?


「私はこれで本部に戻りますが、ロビーで私服のDPが警備しています。外出する時は、警護に付きますので宜しく。それと、東山君、二人のことは機密扱いになるからね。」


 哀川さんは、僕に口止めして帰って行った。



 哀川さんに帰っても大丈夫だと言われたけど、僕は職場に連絡して2~3日休むことにした。


 まだ、半信半疑だけど、ミーチェを母さんだと思うことにした。だって、どう考えても辻褄が合うからだ。だから、僕もこのホテルに泊まって、ミーチェ達と行動を共にすることにした。放っておくと、後悔しそうな気がするから……


 さすが、ハイクラスのホテルだ。フロントに電話して1番安い部屋を頼んだけど、ビジネスホテルとは(値段が)違う……


「智明~、ジークのフォローをお願いね」

「ああ、分かった」


 えっと、ミーチェが母さんだとして、イケメンは母さんの彼氏?そこを聞いておかないとな。


「ミーチェ、僕は大丈夫だよ?」

「そうね。ジーク、きっとビックリすることがあると思うわ……この世界は、魔法が無い分ややこしいのよ、使い方が分からない物とかね。ジーク、私に聞けないことは智明に聞いてね」


 確かに、異世界人ならトイレの使い方も分からないだろうな。それと、『箱のワープもどき』エレベーターの使い方も教えないとね。


「そうなのか。トモアキ、僕はジーク。宜しく頼むよ」

「うん。何でも聞いて」


 イケメンは、哀川さんには警戒していたけど、僕には普通に接して来る。イイ奴かも……


「ねえ、ミーチェ。聞いておきたいことがあるんだけど……二人はどういう関係?」

「えっ! えっと……」


 ミーチェは、真っ赤な顔をして照れている。あぁ、分かったよ……


「フフ、トモアキ。僕たちはね、つがいだよ」

「えっ? つがい?」


 イケメン……嬉しそうに言うけど、つがいって動物に使う言葉だよ。


「あのね、智明。ジークは私のパートナーなの。向こうでは、つがいって特別な意味があるのよ……恥ずかしいから教えないけどね!」


 ミーチェが真っ赤な顔で答えた。そうか、向こうで母さんにも新しい相手が出来たのか……イケメンはジークって名前か。いや、母さんに見えないから……あ"ーもう! ややこしい!


 僕はイケメンにトイレの使い方とお風呂の使い方を教えた。ジークはビックリしていたけど、何とかなるだろう。そして、夜はミーチェ達の部屋で、ルームサービスを頼んで一緒に食べた。


◇◇

 翌朝は、ホテルのレストランに朝食を食べに行った。ミーチェが、ジークに簡単なマナーを説明しながら席に着いて食べ始めたけど、ジークの食べ方が凄く綺麗なのに驚いたよ……慣れているよね?


「ねぇ、ミーチェ。パンが、凄く美味しいね」

「うん。ジーク、美味しいね。ここみたいなホテルは、朝からパンを焼いて出すから美味しいのよ。ふふ」


 ジークの目がキラキラしている。ふふふ、美味しそうに食べるな。


 ミーチェが言うには、向こうのパンは堅くて美味しくないそうだ。良く言えば、素材の味が良く分かる素朴で堅いパン。なので、ミーチェは色々と工夫して食べるか、時間がある時に作っているらしい。


「ミーチェ、この甘いパンも美味しいよ。もぐもぐ……」

「ジーク、後でホテルのショップを見に行きましょう。美味しい物が売っていると思うの。ケーキとかプリンがあるかも」

「ケーキとプリン! ああ、それは見に行かないとね。ミーチェ、楽しみだよ。フフ」


 ジークは甘い物が好きなのか。ミーチェは美味しい物を、お土産に買って帰ると意気込んでいる。ふふ、来たばかりなのにね。



 哀川さんが迎えに来て、市役所へ離婚届を取りに行った。ミーチェは離婚届を書き終えると、僕を見て親父に連絡して欲しいと言う。


「こっちに来たから、ケジメをつけておきたいんだけど、きっと、私が行っても信じて貰えないでしょ?」


 ケジメかぁ……異世界に戻るなら、わざわざ離婚届を出さなくても、こっちのことなんて放置しても良いのにね。それに、今のミーチェが親父に会っても母さんだとは理解してもらえないと思うよ。


「ねぇ、智明、悪いけど渡して来てくれないかな~? もう会いたくないのよね。渡すだけで良いから、お願い!」

「えっ、僕が?」


 と言うことで、僕が離婚届を持って行くことになった。そして、僕が二人のことをうっかり話さないように、哀川さんが付いて来る……


 親父に、母さんのことで話があるからとメールをして、昼休憩、親父の職場近くにあるカフェで、会う約束をした。


「私はDWAの哀川と言います。今日は、立会人として東山君に付き添って来ました。私のことは気にせず、話をして下さい。」

「立会人ですか……」


 哀川さんは、親父に名刺を渡した後、座って静かに僕達の話を聞いていた。親父は、何故DWAの人が立ち会うのかと不思議がっていたけど、僕が、早く終わらせたいので話を進めた。


 僕は簡単に説明をする。母さんが見つかった……だけど、親父に愛人がいることを知っているから会いたくない、離婚したいと言っている。そして、離婚届にサインして欲しがっていると伝えた。


「智明、母さんには会えないのか?」

「今はそうだね。親父、離婚届を渡して帰ってもいいけど。サインしてくれたら、母さんに渡してくるよ」


 今のミーチェには会わせられないし、サインしたら親父も気が楽になるんじゃないのかな。ウインウインだよね。



※    ※    ※


「ねえ、ミーチェ。トモアキって、ミーチェの息子なの?」

「そうよ、ジークより年下の息子がいるって言ったでしょ? ふふ」

「似ていないね。ミーチェは、こんなに可愛いのに……フフフ」


 えっ、そう言えば……智明が小さい頃から似ているって、言われたことなかったかも……


「ジーク、親から見るとね。智明も可愛い顔に見えるのよ……」


 ジークみたいにイケメンじゃないけど……





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