第34話 必勝法の欠点


「えっ、専属冒険者を断った!?」


 俺がギルドに戻って受付の人に事の顛末を報告すると思った以上に驚かれてしまった。


「あの方は、あのお方はフォビラス卿と言って、街で唯一薬草から上級回復薬を作れるお方なんですよ? そのため、若くして国から認められる今では爵位をもらうに至るほどです!」


 え、あの人そんなに凄い人だったの? だったら専属になってた方が良かったか?


 でも、それだと依頼三昧で俺の悠々自適ライフがなくなってしまうからな。俺の選択は間違ってなかった!


「専属になれば快適な居住地や三度のご飯も与えられるんですよ!?」


 え、そんなオプションが付いてくるの? それは聞いていなかったんだが?


 ……今からでも専属契約してこようかな。だってフカフカのベッドも絶対にあるってことだろ? 絶対に幸せだろうな、うん。


 まあ、いっか。


 仮に専属になったとして、そこでずっと薬草ばっか毟り取る生活続けててもいつかは飽きて退屈になるだろうかしな。その時にやめようとしてもその生活に慣れてたら辞められないかもだし。


 それに、もしそこでずっと働いてたら一生Aランクになれないかもしれない。俺は密かにAランクになったら現実世界に帰れるのではないかと淡い期待を抱いている。


 もしそうならなくてもAランクになれ、と神様から言われた以上、何かはあるはずなので、それに向かって頑張るのみだな。


 ん、そう考えるとやっぱり断って正解だったな。よし、こうなったら覚悟を決めて薬草毟り以外にできることがないか確認してみよう!


「というわけで、薬草採取以外に私にできそうなことはありますか?」


「ん!? ど、ど、ど、どういう流れでというわけで、なんですか? それに薬草採取やめちゃうんですか? あの依頼主のこともありますが、このギルドにあの高品質の薬草を供給してくれるの人はなかなかいませんから、ギルドとしてもそれはちょっと……」


 ん、俺が決意新たなした側から出鼻を挫いてくるとは、やめて欲しいな。せっかくのモチベが下がってしまうじゃないか。


「では分かりました、ギルドにもある程度の薬草は納品するようにしますから、他の依頼も何かありませんかね? 同じことばかりだと大変なので……」


 ふっ、これが銀行員として培ってきた交渉術だ。自分が譲歩すると見せかけておいて不確実なものを提示し、更に相手の同情を誘いつつ、結局不利になることを暗示する。こうすれば大抵の相手は……


「分かりました、では他の依頼も探してみますね!」


 簡単に篭絡する。


「ありがとうございます!!」


「えーっとでは、薬草の依頼が三つは確定で……」


 ん? 今ちょっと不穏なことが聞こえてきたんだが、気のせいか?


「あとは、適当にコメツキチョウの採取でもしときますか」


 おい、今適当にって言っただろ。おい、どういうことだ、適当にっておかしいだろ、ちゃんと業務を全うしてくれ!


「では、薬草採取の依頼三点と、コメツキチョウの採取依頼一点でよろしいですね?」


 そうだ、俺の必勝法は、不確実なものを提示するから、相手に自分の予想してなかった譲歩をさせられるという欠点があったんだった……

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