第9話 モード変更

 グルルルルル


「はっ!」


 獣の声に俺は飛び起きた。どうやら俺を狙って狼がやってきたようだ。食べられる前に気づいてよかった……


 って、まだ安堵している場合じゃない。この狼たちを倒す、いや倒さなくても良いから追い払って安全な寝床を確保する。それができるまではまだ安心できない。


 よし、頼むぞ武器生成……もう、すっかりこの世界で生きていくことと、戦闘することに慣れてきた気がする。これは良い傾向と言えるのだろうか。


「【ランダム武器生成】!」


『既に武器を生成している為、発動することができません』


 え、まじ?


 武器生成できないって本当? 右斜め下を向くとそこには見覚えしかない鉄パイプがあった。あーそういうことですか。つまり俺はこの武器だけでこの狼を打倒しなければならないということか……


 昨日から素振り始めたばっかりなんですけど。こういうのって、街に着く直前にあるものじゃない? 俺の鍛錬の成果をうけてみろ! 的なやつだ。


 それなのに、鍛錬もままならず、新しい武器すら手に入らないとか、正直やばい、ヤバすぎる。もし、ラン武器生成が更新型なら希望はあったのになー。


『ランダム武器生成の仕様を初志貫徹モードから、臨機応変タイプに変更しますか?』


 え、できんの!? じゃあ、やr……


 いや、待てよ。ここでもし仕様を変更して新しい武器を手に入れるとする。そしてそれが鉄パイプよりも良い可能性がどれくらいある? 正直まだこのスキルのことは全然知らないし、信用できていない。だから、ここは鉄パイプで行ったほうが無難じゃないか?


 それにこの戦いが終わった後にでもモードを変更すれば良いだけだ。今回は鉄パイプで行こう。


『モード変更は一度決定するともう、二度と変更することはできません。本当によろしいですか?』


 え、なにコイツ、なにこのスキル。絶対盗聴して俺を嫌がらせにきてるだろ。ってことはもしかして人格あるのか? もしそうなってくると、あのバケツとかはコイツが仕組んだってことか? え、俺嫌がらせ受けてるの?


 ごほんっ


 今考えることではないな。それより、俺が困惑している間にも狼はジリジリと俺との距離を詰めている。でも逆になんですぐに襲ってこないんだろう? 今すぐ襲いかかってきた方がこちらとしてはやりづらいんだけどな。


 もしかして何かを待っている?


 あうぉおおおおおおーーーん!


 あ、はいこれは詰みですね、増援がいらっしゃいました。増援は二体、同種の狼だ。


 鉄パイプを構えた俺の目の前には今、闇の中で浮いている六つの目が俺を食い殺そうと狙っている。

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