第5話 缶ジュース

 ムシャムシャムシャ


「うんまぁー!!」


 美味い。


 何故、俺が今こうして美味しいものにありつけているかというと、本当に偶然だ。もう、ダメだと思って再び地面に大の字に寝転んだ時にたまたま気になる果実を見つけたのだ。


 見つけた瞬間、俺はもうほぼ反射的に動いていたのだろう。今まででは考えられないスピードで木をよじ登り、こうして食べているというわけだ。


 あ、因みに火を起こすという戦闘は終了したからか、くまのぬいぐるみは気づいたら消えていた。マジでなんだったんだろうな、アレは本当にいらなかったな。まあ、とりあえずはこれで食料調達できたからよしとしよう。


 ところでこの後のことについて色々と考えてみたんだが、俺は街を探そうと思う。なんだよ当たり前かよ、と思う方も多くいるかもしれないが、実際異世界転生してみて街のありがたみを知った。正確には寝床があるってことのだな。


 だから俺は寝る場所を確保する為に街に行きたいのだ。そうすればありがちな冒険者をして生計を建てられるかもしれないしな。


 ってなわけで取り敢えず街に出よう!


 バサバサバサバサッ


「え?」


 いざ出陣しようとしたその時、聴き慣れない音が俺の耳に届いた。音の方を向いてみると、なんと鳥の大群がこちらに迫ってきていた。


「うわーー!」


 危うく木から落ちそうになったがなんとか堪えたが、そんな間にも鳥の群れは近づいてきている。一旦木から降りて様子を伺ってみる。うん、明らかにこちらを狙っているようだ。俺、何かしたか?


 そう思って両手を見てみると、手に割れた卵の殻と黄身が付着していた。


「あ、」


 どうやら俺はかなーりやらかしてしまったようだ。


「に、逃げろーー!」


 無理無理無理無理! あんな奴ら一体ならまだしもあんな大群に勝てるわけがない。どうしよどうしよどうしよ。俺はもう、動きたくないと叫んでいる両足に鞭を打って全力で駆け出していた。


 とりまアレを使ってみるしかねぇ!


「【ランダム武器生成】!」


『ランダム武器:缶ジュースを生成しました』


「っざっけんなよ!!」


『ランダム武器:缶ジュースを生成しました』


「っざっけんなよ!!」


 俺は只今絶賛鳥の群れに追われている最中だ。しかも、追われ始めた時には気がつかなかったが、だんだん距離が縮まってくると、かなり大きめの鳥だということが分かった。嘴も翼も大きくて凛々しく、気高き種族なんだろう、ということが伺うことができる。


 って、今そんなことを考えている場合じゃねー! 相手がどれくらい大きいかわかるくらいには近づかれてるってことなんだぞ? そしてその距離がゼロになった時に俺の命は終了する。どうにかして、この鳥たちを振り切らないと……


 手元にあるのは缶ジュース、ただそれだけだ。ラベルを見てみると、


『FUNTA』


 こう書いてあった。……ちっちゃい頃によく飲んだジュースだ。もちろん、グレープだよな。オレンジも双璧として存在するが、グレープの圧倒的人気には遠く及ばないだろう。でも、最近はロゴも変わって味も少し変わったように感じて、あんまり飲まなくなったんだよなー。


 って、まじでそろそろヤバイ、現実逃避することもできなくなるぞこれ、何かないか何か! もう俺の足もそろそろ限界なんだけど。とりあえず別のぐきが何か出ないか、スキルを使ってみよう、もしかしたらもしかするかもしれない。


「【ランダム武器生成】!」


『ランダム武器:缶ジュースを生成しました』


 やっぱダメかー、そう落胆しかけた俺の手には、先ほどとは別のジュースが握られていた。


「Koka-Kora!」


 やっぱ不動のナンバーワンはお前だよなー、ってそうじゃない! そうじゃないんだ、ずっと同じ物が出る訳じゃないが、別の種類のジュースは出るというわけか……で?


 で、どうすりゃいいんだよ、全く希望が見えないぞ?


 その後もスキルを発動し続け、缶ジュースを出しまくった。どうやらかぶりはないらしく、午前の紅茶や、綾鷲、他にも生前俺が好きだったモンスターブルやレッドエナジーなんかも出た。


 神様は最後にこれを飲んで、逝け、と言っているのだろうか。レッドエナジーなんかは、宣伝文句として、翼を授けるっていうのがあってよくネタにされてたな。俺も今本当に翼があればなー。


 ッダン!


 もう、足も動かなくなり、盛大にこけた俺はもう、いよいよ諦めた。俺の第二の人生、短かったけど思いの外楽しかったな。後はこれが夢であることを願うばかりだが、それこそ叶わぬ夢、というものだろう。では、


「グビッ」


 天に召される為に、翼を授かろうとレッドエナジーを飲んだその時、




 俺の翼にガチの翼が生えてしまった。


「え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る