うちよそ2

日泣

レベッカと咬谷

まだ少し肌寒さが残る夜の繁華街を咬谷は歩いていた。夜の繁華街は賑やかで、浮かれた人々の笑い声が目立つ。そんな浮き足だった街はなかなか嫌いじゃない。

咬谷はしばらく歩くと一軒の見慣れた居酒屋に足を踏み入れた。すぐに元気な店員の声が響き、いつものように店の中央の席へ通される。今日は金曜日であるため店内もなかなか騒々しい。そんな店内と比例するように、咬谷の心も浮き足立っていた。今日は待ちに待った遠くから足を運ぶ友人との飲み会であるのだ。

しばらくメニューが記されているタブレットを指でつついていると、聞き慣れた心地良いハスキーな声が頭上から響いた。


「待たせたな。咬谷」


つややかな黒髪を肩で切りそろえた長身の彼女の名はレベッカ。日本から遠く離れた街、ヴァーグリードを護る専属騎士である。そんな騎士であるレベッカは、しなかやで細身な体躯を折り曲げ席につく。


「楽しみに待ってたぜ。レベッカちゃん」


咬谷はレベッカが席に着くなり、プレゼントを待ちきれなかった子供のようにレベッカの肩を強く叩きながらはしゃいだ。


「痛い痛い。それとちゃんづけはさすがにやめろ」

「なんだよ。照れてるのか?レベッカちゃん」

「…まだ酔ってないよな?」


咬谷は久しぶりに会えた友人を目の前にして、喜びがとまらないのだ。そんな彼女をレベッカは優しい眼差しで受け止める。


「仕事、忙しそうだな」


レベッカはメニュータブレットを操作しながら呟く。


「…それなりにだな。君も、今日が終わればなかなか会えないんだろ?」


咬谷は頬杖をつきながら寂しげに答える。開発職と、専属騎士。職業や国までも違う二人だが、働き盛りの女達の毎日はあわただしい。こうして終業後に二人で会うのも一苦労なのだ。


「明日からのことは、その時の自分がなんとかするさ。今度は昼から飲み歩こう。咬谷がニホンのこの街を案内してくれるんだろう?」


レベッカの、力強くも優しげな琥珀色の瞳が咬谷に問う。


「そうだったな」


咬谷も微笑んで答える。今日は待ちに待った金曜日。


「それでは始めようか」

「ああ」


店員がグラスジョッキに注がれたビールをこちらに運ぶ。二人はグラスの小気味いい音と共には声を揃えて囁く。


「「乾杯!」」

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