殺しべ長者

 朝。


 お父さんとお母さんの喧嘩によって、僕は起きた。


 まだ、5時。

 

 少年は、

 日が昇ってない冬の外と、家でこのまま寝れない状態で縮こまるのとを天秤にかける。



ーーー散歩。


 まだ7才の男の子が家の扉を開いて外に出ていった。


 両親は息子が外に出たのに気がつきはせず、お互いの勤務時間が近づいてくると、最後にひと揉めして出勤する。


………………

…………


ーーーどこに行こう?


 公園?

 そういえば、熊が出るって言ってた。


ーーーん~?


 少年が近くの公園に向かって何気なく歩いていると、向こうから何かが走ってくる。


 犬。秋田犬だ。


 口には、包丁を咥えている。

 刃には血が付いていて、今も滴り落ちていた。


 どうしたの、君?


『わん!わん!わぅっっー!』


 わっ!? 

 引っ張らないで!お気に入りなんだ!


 柴犬は咥えていた包丁を落とし、少年の服の端を引っ張って、何処かへ連れていこうとする。


 しょうがないなぁー。


 犬が目指している場所へ行くことにした。


ーーーあっ、これは、危ないから拾っておこっ!


………………

…………

……


『俺は、俺は、俺は、悪くない、悪くない、……』


 あのおじさん…ブツブツ言ってる…。怖いなぁ。


 連れてこられた場所は、総合公園の公共トイレの裏。 


 トイレの周りに木々が植えてあるので、人から隠れるのに適した場所だ。


 そこには壁に背を預けて、包丁を両手に握りながら、血の付いた刃を眺めている男がいた。


『グルルルッ!!』


 犬が、今も目の焦点が合わない男に全力で威嚇をするが、男は気がついていない。


ーーーあの子、死んでるのかな?


 傍らには、地面に肌をさらして倒れている女の子がいた。  


 少年より、少しだけ歳が上のような身体には、いくつもの包丁が刺さっている。


 それは少年が持っている包丁と同じ、市販で売られている物である。


 なんでお料理以外で使ってるんだろう?


 家で良く見る包丁が、いくつも刺さっていることが不思議でならない少年は、直接、男に尋ねることにした。


 お~じ~さん!おじさーん!


 少年が目の前にしゃがみこんで見ていても、男の目は虚ろになっている。


 全然、動かない…。


 まったく!

 包丁は刺すより、切るものだよ?


ーーーこんな風に。


 少年が、逆手に持った包丁を憔悴した男の喉を撫でるように、自分の身体ごと回って斬る。


『!!!、ガァッ!?

 だ、れだおま…うぼぇぁ!!』

『でめ゛ぇぇ!!ぶっ殺してやる!』


 持っていた包丁を男の足に刺し、掴もうとする腕を逃れて男から離れる!


『ぐっぅぅぅう!?』


 犬が着けていたリードをあらかじめ外し、男の首に通して離れたことできっちり締まる。


 男は喉の圧迫と呼吸困難で、その場で倒おれ、のたうち回る。




ーーーそして、死んだ。


 包丁は貰うね!


 少年は、死んでいる女の子の元へ行き、深々と刺さった包丁を1本ずつ抜いていった。

 

 誰か通らないかな~?

 あっ!あの人、良い人そう!


 少し離れた歩道でジョギングをしていたスポーツウェアを着た女性を呼び止めに行く。


ーーーあ、気づいてくれた♪


 急に呼び止められた女性が振り向くと、血飛沫で全身に血が付いた少年が立っている。

 

『ど、どどどうしたの!?』


 当然、驚く女性に涙を溜めながら向こうで恐ろしいことがあったと話す少年。


『な、泣かないで?』

『お姉さんに、教えてくれる?』


 同じ高さまでしゃがんでくれた女性に、少年は熊が出て、女の子を食っていたと話す。


 女性はそれを聞くと、顔を蒼白にしながらも、すぐに警察に電話をした。


 そして女性は、警察が来る前に少年から熊の出た場所を詳しく聞き、熊が近くにいる状況で1人は危ないからと、少年を連れて熊の出た場所の周辺まで歩く。

 場所に着くと、少年に防犯ブザーを渡して、少年が指を指した公共トイレの裏側へと向かう。


『熊は……いないわよね?』

『……よし』

 

 女性が危険が無いかを確認して

、踏み込む。


『ヒッ!?

 ーーーえ、え?これは…』


 この子は、もぅ……可哀想に…

 でも?熊に襲われたにしては、おかしな傷ね?


『!?、他にも人が!』

『あなた!大丈夫っ!?』


ーーーザシュッ!ザシュッ!


『ぎぃあ゛ぁ!?』


ザシュ…、ザシュ…、ザシュ…、ザシュ…、


『な゛!?なに゛するのっ!?』


 女性が壁の向こうの角に、倒れている男を確認する。その男に駆け寄って安否を確認するために地面に膝をつけた。

ーーーその女性の太ももを少年が、後ろから刺していた。


『や、やめて!!

 刺さないでっア゛ア゛ア゛!?』


 僕、隠れるのが得意なんだ♪


『こ、このガキっ!!』


 女性が服のポケットに手を入れて、何かを取り出した!

 それは、防犯用の小型スタンガンだった!


 それを少年の肩に当てるが、慌てていたために、安全装置を外すのを忘れる。


 少年は、スタンガンで肩を押されて尻餅をつくだけだった。


『え……、どう…して?動かないの?』


 彼女は混乱していて、安全装置のことを忘れていた。


 何それ?

 これと交換するの?…はい♪


 起き上がると同時に包丁は差し出された腕を貫く!


 スタンガンが落ちた。


『~~~っ!』

『痛い!痛い!痛い!抜けない!?』


 刺してから捻ることで、細い腕を貫いた包丁は、かえしのようになって抜けない。


 スタンガンを拾い、お姉さんの額に当てる。

 

『やめて、やめて……お願い…』


 どうやって動かすんだろぅ?


ーーーこれかな?当たった♪


………………

…………

……


 あっちからお巡りさんが来た!


『あれ?女性の通報だったんだけどな?』


 僕、見たよ~


『え?』

『ぼく?熊が出たのは、どこか分かるかな?』


 2人の警察官の若い方の男が、優しく質問する。


『お前は、この子を保護だ』


 もう片方の警察官が、少年が指を指した方向の先、公共トイレへ向かう。


『じゃあ、お兄さんと車に行こうか!』


 怖かった…。


 少年が恐怖で足が震えている演技をすると、


『おんぶしてあげるよ!』


っと言って、背を向ける。


 バリバリ~~~♪


『ぐっ!?がっ!?う……』


 とどめに包丁を刺す。

 

 ふぅ…。


ーーーあのおじさんは、どうしよう?


 少年は公共トイレへ振り返る。

 

パンッ!!


 ん?

 まだ、生きてる。


『今の、発砲で、先輩が来る、はず……』


ーーーそして、力尽きる。


『松岡!!

 どうし……誰にやられた!?』


 僕がやった♪


パンッ!


『ーーーうっ!?』


パンッ!パンッ!パンッ!


 これ、暴れる~、いらない…。


『君…、君が、やったの、か?』


ーーーパンッ!


 少年は銃の中に入っていた弾を全部使い切るまで警察官の2人を撃ちまくった。


………………

…………

……


キーンコ~ン♪キーンコ~ン♪


『いらっしゃいませ~』


 少年はコンビニに入って、商品を買わずにレジに向かった。


 ここが、【コンビニ】かぁ…。


 「こわいひとに おかねを もらえって」っと書かれた紙をレジに置き、店員のおばさんを涙目で見つめる。


『……。

 大丈夫、大丈夫だよ、ぼうや』


 おばさんは震える手を握って安心させる。


 その腕を掴む。


『大丈ーーー』


パンッ!


 もう1人の警察官から奪った拳銃の弾が、おばさんの胸を貫いた。


 お金は、あの箱から…だよね!


『ーーー田辺さん?どうしました?』


 奥の扉から、アルバイトのJKが現れる。


『……田辺さん?

 た、田辺さん!!』


 お金ちょうだい!


『ヒッ!?』


 少年はレジの裏に回り、メモの「おかね」の部分に指差して、銃口を女性に向けた。




ーーー女性にお金をスーパー袋に入れて貰い、回りの食品も次々に入れていく。


 袋が5つ出来た。


『た、助けて…、

 ね…?撃たないよね?』


パンッ!


ズルッ……ドサッ…


………………

…………

……


『坊主、ここでいいかい?』


 ありがと~、おじちゃん!


 少年は店員を脅して、あらかじめ呼んでいたタクシーに袋を1つずつ運んで、家まで送って貰っていた。


 はい、お金♪


 少年はコンビニで手に入れたお金を手に握って、運転手に渡す。


『ははは!

 そんなにいらないよ~、これだけで充分だ!』

『袋、運ぶな?』


 ありがと~


 運転手に袋を運んで貰い、鍵のスペアの隠し場所から鍵を取って、扉を開ける。


 ただいま…。


ーーーお父さんとお母さんが言っていた、【食べ物】と【お金】を持ってきたよ。


 家の中に人はいないので、静な空間が広がっている。


ぐぎゅるぅぅ~


 お腹空いたな…、朝ごはんは…


 ……。


 袋の中に入れていた、テレビでしか見たことがないスナック菓子の袋を開いて食べることにした。


 美味しい。


………………

…………

……


『それにしても…、

 おつかいの量じゃないだろ…あれ』


 タクシーの運転手は次の客を拾うために車を走らせながら、ポツリと呟いた。




ーーー10年後。

 少年には、日本で最年少での死刑を執行された。


 10年間の裁判で、唯一、少年が答えたのは、


『お母さんとお父さんの笑顔が見てみたかったです』


……だった。

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