第3章 ライフル 第4話

 「OK。大丈夫そうね。じゃ、もう一度ボルトを抜いて後ろから標的紙を見るころからやりましょう」


 松山は、言われたように、再度ボルトを抜くと後ろから銃身内を覗きこみ、銃口が標的紙方向を向いていることを確認した。


 次に、銃を大きく動かさないようにボルトを装着し、銃を構えてスコープを覗きこんだ。


 最初は、左上にレチクルの中心が左上にズレていたが、今回は左下にズレているように見えた。


「じゃ、マツ。中心を狙って撃って」

 松山は、オリバーの指示どおり、レチクルの十字を標的紙の中心にあわせて引き金を絞った。


 ドンという音とともに右肩には、これまでに感じたことのない軽い衝撃があった。


「どう、ライフルを撃った感想は」


「思いの外、反動が小さいので、驚きました」


「そうね。12ゲージのスラッグと比べたら、弾速は早いけれど、弾頭は小さいからね。じゃ、もう一発」


 2発目を撃ってみると、1発目とほぼ同じ位置に着弾した。標的紙の中心からは、左下方向にズレている。


「もう一発」

 オリバーの指示で3発目を撃つと、先の二発と正三角形を作るような位置に着弾した。


「うん、上手いわね。じゃ、これからレチクルを動かしてゼロインしていくからね」


 オリバーは、そう言うと、松山のライフルのスコープの中央部の上と右側に付いているキャップを回しながら外した。


 キャップを外すと、数字と目盛りが書かれた調整用のノブが現れた。上側がレチクルの上下を調整するエレベーション・ノブであり、右側が左右を調整するウィンテージ・ノブである。

 

 オリバーは、マツに銃を構えさせ、スコープのレチクルを標的紙の中心に合わせるように指示すると、


「その姿勢のまま。レチクルの中心を弾痕の方向へ動かすので、弾痕に近づいたらストップと言って。じゃ、まずは上下からね」


 松山がレチクルを標的紙の中心に合わせたところで、「OK」と声を掛けると、オリバーはエレベーション・ノブを回しはじめた。


 カチカチという音とともに、レチクルは、3発の弾痕の方向へと下がっていく。レチクルが、正三角形に散らばった弾痕の中心とほぼ同じ高さに来たところで、


「STOP」

と声を掛けた。


 続けて、今度はヴィンテージ・ノブを動かしてレチクルを弾痕の中央へと移動させた。


「うん、大丈夫そうだね。じゃ、もう一回中央を狙って撃ってみよう」


 松山は、新しい装弾を手にすると、最初の3発と同じように標的紙を狙って、呼吸を整えた。


 レチクルの動揺が小さくなったところで、引き金を絞った。

 

 今回の弾痕は、標的紙の中心から若干右にズレたが、高さはドンピシャだった。

 

 オリバーは、その着弾点を確認すると、ヴィンテージ・ノブをカチカチと2回音を聞きながら動かした。


「マツ、もう一発」

 松山は、更に1発を薬室に装填すると、呼吸を整えて引き金を絞った。


 今度は、標的紙のど真ん中に着弾した。それを見たオリバーは、


「Excellent!」

と、松山の肩を叩いて喜んでくれた。


「マツ、あなた上手いわ。5発撃ったけれど、みんな同じように引き金が引けている。ゼロインは完璧よ」

 そう言われて、松山はとても嬉しかった。


 初めてのライフル射撃で、わずか5発しか撃っていないが、弾は狙ったところへ正確に命中した。


 衝撃も、これまで撃っていた12番の散弾銃でのスラッグと比べると比較にならないほど軽かった。


 でも、この弾で200m先のシカが倒せるのだと思うと、ライフル銃の性能とその弾丸のパワーに驚かずにはいられなかった。

 

 職人である松山の父親から仕事道具については、いろいろと聞くことがあり、その扱い方で仕上がりが大きく異なることも知っていた。


 初心者ながら、専門学校やワイルドライフマネージメント社での経験から、ライフル銃についても勉強していたが、その知識のひとつひとつが、実際に経験することで理解へと繋がっていくことが実感できた。


 オリバーが、最後に2クリック動かして調整したけれど、最初のようにスコープを覗きながら動かさずにどうして、ピッタリに合わせられたのかが、最後の疑問として残ったので、彼女に質問した。

 

「マツ、なかなか良い質問ね。多くのスコープは、エレベーションもウィンデージ・ノブも1クリックすると、1/4M.O.Aの移動量になるように設計されているの。100ヤードだと4クリックで1インチ動くの。4発目を見て0.5インチ右にズレていたので、2クリック左に戻したので、調整できたの。あとは、マツが5発とも同じように撃てたから簡単に終わったわ」


 4クリック動かすと、100ヤードで1インチ動くということで、オリバーが用意した標的紙の格子模様であったことが納得できた。


 格子模様のマスの数を数えれば何クリック動かせばよいかわかるのだ。通常の同心円状に得点が表示されている標的紙を使うより、はるかに合理的である。


 次には、膝撃ちで5発、立射で5発、最後に伏射で5発の合計20発を撃ったところで、オリバーから、今日はここまでということで練習の終了が告げられた。


 得点とかは気にせず、各姿勢での撃ち方の基本を教えられただけであったが、その教え方は現場の様子を踏まえての実践的なものだった。

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