第22話 スキャンダル

「宗家橘の家元令嬢との交際やデザイナー相馬翠さんとのスキャンダルで話題を呼んでいるアリモトヒロヤに、また新しい恋のうわさが飛んでいる。相手はチリエージャのデザイナー杉本留美さん。関係者の証言によると、この女性は12年前話題を呼んだ文京区の無理心中事件の唯一の生存者であることが判明した。この事件は仕事に行きずまった杉本亮三が、毒薬を妻と娘に飲ませたあと自らも自殺したもので、当時少女だった留美さんは救助が早かったため、一命を取りとめた。無理心中とはいえ、杉本さんは殺人犯の娘に当たるわけで、アリモト家では当然猛反対が予想される・・・先生、この記事・・」

「外にマスコミが来てます」

「まずいわね」


自宅待機しているルビの携帯がなる。ヒロヤからだ。

「大丈夫?こんなことになって」

「私こそ、迷惑をかけて・・ごめんなさい」

「僕のことは、スキャンダルには慣れてるから心配しないでいいよ。」

「私は全然大丈夫だから心配しないで下さい。いつかはこの日が繰るような気がしてたから全てばれちゃって返ってさっぱりしたわ。」

「思ったより元気そうで安心したよ」

「大丈夫、それより。。」

「なに」

「ごめんなさい。迷惑掛けて本当にごめんなさい」

電話を切ったルビは、部屋の壁をみつめて何も考えられないで呆然としていた。


やがてチャイムがなった。

インターフォンを見るとエイタだ。

ドアをあけると、メロンパンを持ったエイタが作り笑顔でたっている。

「よっ」

何もなかったようないつものエイタだった。そんなエイタの様子を見て、ルビの涙が溢れ出た。エイタは遠慮がちに彼女を胸に受け止める。


「酷い。・・・・お父さんは殺人犯じゃない。」

ヒロヤには強がってみせたのに、エイタを見ると辛い気持ちが溢れでる。

今までは抑えていた涙が止まらない。


「お父さんは、世界のいろいろなものを仕入れて売る仕事をしてたの。だから子供のころ珍しい不思議なものがうちには沢山あって、私は外国から帰ってくるお父さんを楽しみに待ってた。お父さんは優しくていつもニコニコしてた。だけど、ある日怖い人が来て、家に差し押さえの札を沢山貼って、早く出て行けって言われた。お父さんはこわばった顔をして帰って来ると、みんなで最後の乾杯をしようって言った。ルビは子供だったから牛乳で、お父さんとお母さんはシャンパンだったけど・・。気がつと私は病院のベットにいた。外国で買ってきたなんかの薬が混ぜてあったって。だから今でも牛乳だけは飲めない。親戚もいたけど余りに怖い出来事だったから、みんな嫌がって引きとってくれなかった。でもお母さんも死ぬ気だったと思う。きっと私が一人残ったら可哀そうだと思ってお薬を入れたんだと思う。施設に引き取られて中学校まで出たけど、だれにも迷惑をかけないように、早くひとり立ちできるようにと思って、中学を出てから住み込みで就職した。商業高校を定時制を出て偶然おじさんの会社で働くことが出来た。優しくしてもらって、就職もできて私なんかには叶うはずのない夢に少しずつ近づけて、幸せを感じてた。お父さんも、信じて進めば必ず夢は叶えられるんだっていつも言ってた。でも、はじめっから無理だったのよ。ジュエリーデザイナーなんて。何の基盤もなくお金もないのに。みんな、お父さんは酷い、悪い人だって言うけど、思い出しても、いい思い出しか浮かばない。あんな怖いことをするお父さんだって思えない。いつもルビに笑ってくれた。優しかったし、病弱なお母さんをかばって、一生懸命がんばっていて、頭がその時だけ少しおかしくなっちゃったんだと思う。だから、本当のこと、何にも知らない人にお父さんを悪く書かれたくない・・」


初めて涙をみせたルビの小さな肩をエイタは受け止めていた

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