灰とダイヤモンド

amalfi

第1話 ペニンシュラの出会い

 ぺニンシュラホテルのザグランドボールルームでは、煌びやかなファッションショーが催されている。東洋一と謳われるシャンデリアが眩く会場には、ゴールドと赤の絨毯が敷き詰められ、きらびやかなランウェイが作られていた。長身モデルがダイヤモンドの輝くネックレスとイヤリングを身にまとったドレス姿で登場しては、観客のため息を誘っていた。


「祝 ハリーウィンストン」

「祝 パロマ ピカソ」


 会場のエントランスには、多くの有名人たちからのスタンド花が飾られ、ヒロヤアリモト・デビューコレクション「五番街の誘惑」と書かれたポスターが大きく飾られている。


「大哉(ヒロヤ)さん、素晴らしいわねえ。とても新人とは思えないわ」

「アメリカ留学から帰ってきたばかりだそうよ。さすが、アリモトのご子息だけのことはあるわよね。才能が違うわ!」


 会場をうめつくした一目で上流階級とわかるる贅沢なファッションに身を包んだ婦人たちは、口々にヒロヤへの賞賛の言葉を口にしていた。


 銀座の老舗宝石店アリモトの社長の息子である有本大哉(ヒロヤ)は、サンタモニカのGIAで宝石の鑑定とデザインを学んで帰国したばかりだった。この5月、初めて自分の名前をブランドとしたHIROYA ARIMOTOコレクションを発表したのだったが、最高級の素材を使い最高のホテルで、政財界の大物の夫人などを招いてのデビュー発表会は、アリモトのバックもあって新人の発表会としては異例なほど豪華。近年に無いビッグイベントとして話題をさらっていた。


 やがてファッションショーはエンデイングとなり、ブラックダイヤモンドとゴールドのネックレスをつけた金髪のモデルとともに、、シックなグレイのスーツ姿でヒロヤが登場すると、会場内は女性たちの歓声と喝采に包まれた。彼は中央で観客に向かって立ちどまり、左胸に手を当て小さく会釈し微笑んで舞台裏に引っ込んだ。わずかな時間だったがヒロヤの育ちのよさとセンスをアピールするには十分だった。

 

「すいません、ジュエリーのショー会場ってここでしょうか?」

 小柄でショートカット、セーターにコットンパンツ姿の若い女子が、ヒロヤのポスターを見とれながら会場入り口の受付のところに現れたのは、そのショーのエンデイングが終わろうというところだった。


「ご招待状はお持ちですか」

 ちらりと受付嬢は、その女のコの、あまりに場違いな身なりを一瞥してから尋ねた。

「あの、私、森キャストから来ました。商品を急いでお届けするようにって言われています」

「森キャスト?・・アア、加工やさんね。どうぞ。入って良いわよ。」

「有難うございます」

 大きくお辞儀をしながら、まっすぐに入り口に向かった。

 「そっちじゃなくて。右側に裏口があるから。」

 女の子はきょろきょろしながら中に入るとやがて「関係者用通路」と書かれた張り紙が目にとまった。覗くと中では、通路で洋服を着替えるモデル、フィッテイングのアシスタント、スタイリスト、メイクなどが声をかける間もなく慌しく走り回っていた。


「君は誰?」

いきなり後ろから肩を叩かれ、振り向くと鼠色の制服を来た厳めしいいでたちのがっちりした男がたっている。ガードマンだった。

「サイズ直しが終わった指輪を届けるように言われて来ました。」

 「アア、私が受け取るわ。」

通りかかった白いスーツの女性が答えた。

 「それではここにサインをお願いします。

サインをもらいながら、女性は裏口のパ―パーテイションの隅から少し背伸びをして会場を覗きこんだ。丁度、華々しい喝采とともにモデルに肩を抱かれたヒロヤが、アンコールに答えて再びステージに登場したところだった。


 「わあ!」

 そこには見たことも無い華麗な衣装とジュエリーに包まれたモデル達に囲まれた、長身のヒロヤがまばゆいばかりに輝いていた。


うっとりと見とれながら思わずため息を漏らしたその時だった。ヒロヤがちらりとこちらを向き、そして軽く会釈をした。と、いうふうに彼女は感じた。

 「あー」

気持ちは舞い上がり熱がでて倒れそうになった。


 「何してるんですか、用が終わったらさっさと帰って下さい」

先ほどのガードマンだった。追い出されるように、ホテルを後にした女の子は、ぼーっと何も考えられないほど興奮して、銀座の駅を後にした。

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