第14話 賢者

「出来ちゃたな……」


 僕は村長に手始めに五十ほどのベースキャンプを作ってくれと頼まれたものに手を付けた。

 予想では2日程度はかかるかと思ったが、意外にも2時間足らずで出来てしまい、現在困惑している。


 眼下に広がっているベースキャンプの群れは家屋と言っていい仕上がりになっていた。

 元々ベースキャンプというより家に近い見た目だった僕のベースキャンプは攻略を進むごとに従属スキルである城塞作成や砦作成などを取り込んでかなり建築物に近い形になっていた。

 特に意図せずに作成した場合でも周りに敷居壁を設けて地下付き二階建ての家が建つようになっていのでこんな様相になっている。


 砦のベースキャンプ(小)

 ……砦と化したベースキャンプの小型量産型。一定数配置し、コマンドの命令を掛けることで一国の軍隊にも引けを取らない火力を発揮する。

 効用:兵士作成

 コマンド:連結、攻撃


 鑑定を掛けるとデフォルトで攻撃的なものがついていたが特段ついていても困ることはないので、そのままにしておいた。


「ユウタ、あの子が起きたわよ」


「わかりました。すぐそっちに行きます」


 僕はリラさんが昨日の一昼夜で作った魔道具『通話器』から聞こえた彼女の声に簡潔にそう答えると今拠点にしている森の近くに有る空き地に走っていく。


 風を切って目的の場所を目指す。

 僕の後ろに送られた風が流れていき、すぐさま目的の場所にたどりついた。


「君たちは何者だ?」


 天使のベースキャンプの中をのぞいてみると大きな藍色の瞳と亜麻色の髪の少女が胡乱気な目でこちらを見ている。

 こちらが聞きたいことだ、それは。

 色々な魔術を使える上に、降霊術まで使える人間など見たことがない。

 居るとしたら万物の理を操ったと言われる賢者だけだ。


「僕はユウタ。宿屋だ。そういうそっちは何者なんだ」


 言葉に不思議な力が宿っているのか何かわからないが不思議と威厳のようなものを感じる。

 何かひどく高位の者であるということ以外わからない。


「私は賢者ローシャン。10,000年を天の果てで過ごし、ここに新たな居場所を見出したものだ」


 彼女はこちらの反応は見ると自分がこのベースキャンプをひどく気に入ったという意味の言葉と自分が賢者であるという意味の言葉を漏らした。

 この言葉を信じれば彼女は賢者本人であり、一度あのダンジョンから脱出して自伝を書いてあの場所に足を運び、引きこもっていたことになる。

 引きこもっていたことが本当であるとしても、1万年近くも年を取らずに生きる人外。

 それが僕のベースキャンプに住み着くとは。


「君には私へこの素晴らしい住居を献上した褒章として私に対して聞きたいことを質問することを許す権利を与えよう」


 魔法関連や秘術のことについて全く持って知識を持たない僕にそんなものを見る権利があっても宝の持ち腐れだ。

 こういうことは魔法に原材料の知識を持った人でないといけない。

 必然的にそういう知識を持ち合わせているのはリラさんなのリラさんの方が必要になるだろう。


「権利をくれるというのはリラさんの方が詳しいのでリラさんにくれるとうれしいです」


 そう進言すると賢者はどうしようかという感じで顎を擦ると口を開いた。


「そうか。中には君のように魔法の素養がまたっくないモノでも出来ることがあるのだが、もったいないなあ。だが魔法の素養があるものの方が格段に良い影響があることは確かだ。君の進言に従うことにすることにしよう」


「賢者様から直接ご教授賜らせてもらう何て魔法を扱うものでここまでの名誉はなかなかないわ」


 リラさんは晴れやかな表情でそう答えた。


「だけど君も私にこの住環境を保証することをゆめゆめ忘れないようにしてくれよ。欲求が満たされなくなった賢者は中々に恐ろしいものだということを身をもって教えられることになるからな」


 賢者は底冷えのするような笑顔を浮かべるとそうこちらに向けて言の葉を向けた。

 思わずぞわりと背中の奥と心の内側から怖気が走り始めるのを感じた。

 なんというかこの人だけは絶対に怒らせてはいけないと僕は直観で理解した。


「賢者として早速忠告させてもらうと君たちは軍備を整えても、索敵機能がひどく手薄だ。ちゃんとそこにも目を伸ばした方がいいよ。今現在のようにろくでもないものが自分の陣地の中に侵入してきてしまうことになる」


 いきなりの指摘に対してぎょっとしたが、彼女の意味するところを瞬時に理解した。

 敵意を持って――武装してこの村に入ってきた人間が居るのだ。



 僕はすぐに外に向けて飛び出すと、森とは反対側の王都につながる街道の方から何かがこちらに迫って来るのが見えた。

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