第9話 囚人×先生


 魔法使いになれる確率は、一万人に一人らしい。それは、身分など関係ない。

本当かな? えらく簡単に、魔法使いになったのだが? 


 私は魔法が使える事が、家族に知られると、とにかく盛大に、祝って貰った。


 祖父も含めて、皆一族は、涙を流して喜んだ。一族の繁栄が約束された様なものらしい。


 まず平民なら、魔法が使えるというだけで、冒険者では重宝されて、取り合いになる。


 そして貴族なら、もちろん当主の座に推され、花形の軍務関係の役職に就きやすくなり、重鎮になれるそうだ。




 しかし、いかんせん魔法使いは、人が少ないから、引っ張りだこであり、わざわざ教師になる人など、殆どいない。


 だから、魔法を教えてくれる教師が、なかなか現れないのだった。


 そんなある日、魔法を教えてくれる教師が、現れたとの報告が入る。


 厳密に言えば違うのだが...

その男は、キラと呼ばれており、囚人服を着ている。


 どうやら、罪を犯した魔法使いが、減刑を条件に、私の教師として来たのが、真相のようだった。


「本当にこんな餓鬼が、魔法使いなのかよ」


 どうやら、口が悪いらしい。礼儀作法もなってない。私の第一印象は、こいつで本当に、大丈夫なのかだった。


 私とキラは庭に出た。私はまず、魔法使いの証明かわりに、ネクタイを外しながら、セクシーに魔法を唱えた。


「エアロ」


 すると、小さな風が吹いた。


 キラは、ビックリした様子だった。


「この年齢で、自分の魔法適正を見抜くのは、素晴らしい。んで、限界まで使ったことあるのか?」


 ちゃんと敬語使えよ! こっちは貴族なんだぞ! とは思いながらも、その言葉は飲み込む。


「いえ、殆ど屋敷から出られない為に、危ない魔法は、使っていません」


 すると、キラは注意してきた。


「魔法使いが、己の限界値を知らなくて、どうするんだ? 基本だぞ! 更には、他の属性は試したか?」


「はい! 一様火、水、土、風、光は使えるみたいです。闇魔法は効果がわからない為に、使えるのかは不明です」


 すると、キラはビックリした表情になった。


「お前凄いなぁ! 俺でも、三種類しか出来ないんだぞ! よし今日から俺が教師だ! ビシバシ行くから、覚悟しろよ!」


「はい! 先生、よろしくお願いします」


 キラは先生という響きが、気に入った様子だった。


「ここじゃあ狭すぎるなぁ! 後で、練習場所をお願いしておくとして、セクシーはどれくらいなんだ?」


 はい? 何だその単位は? 

そんな世界共通認識みたいな、言い方をしないで貰いたい。


「すみません。先生! セクシーになるよう、努力はしておりますが、どれくらいかまでは、分かりません」


 すると、キラは何かを取り出した。

何とそれは、小麦粉であった。

パンでも作るのか? と思いながら見ていたが、どうやら違うらしい。


 何も言わずに、皿に盛られた小麦粉に向かい、キラは、セクシーなポーズをとり始める。


 ネクタイを脱ぎ捨て、第一ボタンは外し、唇にそっと右手を当てて、ポーズをとった。


 その結果、皿に乗った小麦粉の一部が変身して、拳大のボールになる。


「私で大体、千セクシー程だね」


「いや先生! そんな数値どうやってわかるんですか?」


「やってみればわかるよ」


 キラは私に、自分が思う最高のセクシーポーズをとれと、言ってきた。


 私はネクタイを脱ぎ捨て、第一、第二ボタンを外して、ポケットにあったバラの造花を口にして、一回転して、ウィンクをした。


 すると、皿に盛った小麦粉の一部が、ビー玉程の大きさになった。


 なんとなくだが、セクシー値が、百五十三あるのがわかった。

一五三って子供か!! 

しかも何か戦闘力みたいだな! 


「百五十三ありました」


 すると、キラはやれやれといった、表情になる。


「紙に書いておくから、これを毎日やりなよ!」


 どうやら私のセクシーは、まだまだらしい。


 私はなんだか、恥ずかしい気持ちになりながら、ボタンを付け直し、ネクタイを締め直した。


「あの先生! どれだけの魔法が使えるのか、確かめる方法は、あるんでしょうか?」


 キラは首を傾げる。


「使えるものは使えるし、使えないものは使えない。ただそれだけだろ?」


「いえ、特殊魔法です」


 キラは納得した顔つきになる。


「ならば、自分の魔法使いとしての、潜在能力を、理解する為に、冒険者組合にある、水晶玉に触れなよ! どんな原理か知らないけど、魔法使いなら、特殊魔法についても、出てくるよ」


 キラはそう言うと、冒険者組合に行く、準備をし出した。


 当然ながら、囚人と貴族の子息二人で、街へ外出など許されない。


 執事や兵士が見張りながら、街へ繰り出す。

馬車に乗りながら、キラは指を、くねらせていた。


「先生! 何をしているのですか?」


 私はなんとなく、気になった。

すると、キラは教えてくれる。


「セクシーを鍛えているんだよ」


 私は、キラの頭がイカれているのかと思ったが、修行だったらしい。


「先生! では何故、収監されていたのですか?」


 やはりここは大事である。

凶悪犯なら、この外出が、命取りになりかねない! すると、キラは真剣な顔で答えた。


「それがサッパリ、わからないのだよ!」


「わからないのに、収監されたんですか?」


 キラは素直に答えた。

しかし、執事が突っ込む!! 


「キラ! 貴様は、言葉使いを改めよ! しかも、女湯を堂々と、覗いていただろうが!!」


 ただの覗き魔(覗き魔法使い)だったらしい。ダジャレじゃないよ! 

私は安心した。キラは悪党では、なかったからだ。


 女湯を覗くのが、男道だと私も思う。

やべー! 俺は気をつけよう。


 馬車は、冒険者組合へ辿り着いた。

一行は、冒険者組合へ入る。


 私は冒険者組合に、初めて入る。

どんな厳つい冒険者と可愛い受付がいるのか、胸が高なった。


 冒険者組合ーーモンスター退治、様々な問題、依頼を請負い、冒険者に斡旋する組合である。


 普段、貴族が来る場所ではない。

珍しい来客に、厳つい冒険者達は、目を光らせる。


「わーお!!」


 私は、冒険者達の冒険話を、聞いて回りたい衝動にかられたが、我慢した。


 今はそんな事よりも、大事なのは、特殊魔法についてである。


 期待を裏切らず、受付の女性は綺麗だった。


「ようこそ冒険者組合へ! 依頼でしょうか?」


 すると執事が対応する。


「ルミエール家御子息であらせられる、

フィン・マウル・ルミエール様が、魔法使いであり、特殊魔法を調べる為に、伺った次第である。水晶玉を、貸しては貰えないだろうか?」


 すると受付嬢は、机にある水晶玉を、見せてくれた。


 私は水晶玉に触れる。

すると、虹色の光に、輝き出した。


「すごい! まさか、レインボーマジシャンだったとは!」


 キラは、驚きを隠せない様子だ。


「先生! レインボーマジシャンとは?」


 すると、キラはゴホンと、咳払いをした後、答えた。


「レインボーマジシャンとは、火、水、風、土、闇、光、特殊魔法の七種類全てを扱える、魔法使いという意味さ! かなりレアだよ! 何なに? 転移魔法とランダム魔法が、特殊魔法で使えるみたいだね! フィンは、英雄になれるかもな」


「キラ! 貴様はまた、フィン様に対して、なんていう口の聞き方をするんだ!」


 どれだけ執事が、キラを注意しようが、

喋り方は治らない。どうやら先生という響きから、敬語を使いたくないらしい。


 転移魔法ーー以前行った場所なら、一瞬で行ける魔法。


 ランダム魔法ーーこれを唱えると、ランダムで、魔法が放たれるらしい。


 ランダム魔法は、私が選んだ。しかし、転移魔法まで、付けてくれるなんて、うさぎ仙人も、なかなか気が効くではないか! 


 さぁ本日から私、フィン・マウル・ルミエールの英雄伝説が、はじまるのだなと思うと、胸が高なって来たのであった。

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