事情


アルフレッドは現在、後悔をしていた。


(変なやつを助けてしまった…)


昨日、森の中で男達に捕らえられていた女性を助けた。

助けたはいいが、薬で眠らされているようなので隠れ家に連れて帰り、ベッドに寝かせて起きるのを待っていた。


一夜明け様子を見来ると女性は起きており、怪我もしていないというのでアルフレッドは安堵をした。


そこまでは良かった。問題はここからだった。


起きた女性は今の状況が分からず困惑しているようなので、アルフレッドは現在の状況を説明した。

すると、突然女性は顔を輝かせ、アルフレッドに根掘り葉掘り質問を始めたのだ。


(一体何なんだ…)


あまり自分のことを話したくないアルフレッドは、とりあえず名前は愛称の方の『アルフ』を伝える。年齢に関しては別に誤魔化す必要もないだろう。


すると、彼女は丁度いいと言ってきた。


(何が丁度いいんだ………?)


困惑していると、今度は告白され求婚された。展開が早すぎてついていけない。


(何だこいつ…おかしいんじゃないか…?)


もしかして、頭を打ったのではと思い確認するが、頭に目立った怪我はなかった。外傷がないだけで頭を打っているのかもしれない。


ジッと観察するように女性を見ていると、ぱっちりとした水色の瞳と目が合った。


(どこかで見たような)


そんなことを考えていると、何を勘違いしたのか今度は自分の体に自信があると言ってきた。アルフレッドは思わず頭を抱える。


いや待て、確かに胸元は豊かかもしれないが、別に俺は体で人を選ばない。思わずそう言いそうになるが、ぐっと堪える。


相手のペースに飲まれてはいけない。そもそも動揺していると悟られたくもない。


「お互いの事を知りもせず、簡単にそういう事を言うんじゃない」


何だか母親のようなセリフになってしまったが、まあ間違ってないだろう。女性はなるほど、という顔をしている。案外素直なようだ。


「私、エミーと言います!」

「…そうか。年は?」


見た目はアルフレッドと同じくらいに感じたが、発言から幼さを感じる。


「…二十歳です!」

「…」


(本当か…?)


少々信じ難い。しかし、女性の目は真剣そのものだった。疑うのも失礼だろう。どうせ貴族のお嬢様で、世間知らずなだけだと思いたい。


「結婚してくれますか?」

「…」


まだ諦めて無かったようだ。


「も、もしかして、恋人や婚約者や奥様が既にいるのですか!?」


アルフレッドが何も答えないので、様々な可能性について考え始めたようだ。


「恋人も婚約者も奥様もいない。ついでに知り合ってすぐ結婚するつもりもない」

「何でですか!?私のこと、好みではなかったでしょうか!?」

「……」


そういう話ではない。


もう疲れた、どう対応していいのか分からない。

今までこういうタイプの女性には会ったことが無かった。


(早く警備兵に突き出そう)


女性には関わらないのが一番だ。特にこのエミーという女性は、今までで一番扱いに困る。


「好みではない。それよりも、家族が心配しているだろうから早く家に帰れ。近くの街の憲兵の所まで送ってやる」

「!?」


なぜかショックを受けた顔をしている。

もしかしなくても、前半の好みではないという話しか聞いていないのではないだろうか。









エミリアは必死に考えていた。

アルフという青年は、どうやらエミリアが好みではないらしい。今まで王宮で沢山可愛いと言ってもらっていたが、やはりお世辞だったようだ。


(見た目がダメなら、中身で勝負よ!)


まだ知り合ったばかりだから、今から知っていけばいいの。


「今から知り合っていきましょう!」

「………」


何故か青年は怪訝な顔をしていた。どうしたのだろうか。キョトンとしながら、そういえば先程憲兵の所に送り届けると言われたような、と思い出す。しかたない、まずは知り合う時間を作らなければ。


「私、どうやら命を狙われているようなの。誰が敵なのか味方なのか、分からないわ。今回も信じたメイドに裏切られてしまったから…」

「命を…?ただの貴族の娘ではないのか?」


青年はやっとまともに話せると安堵した顔をしている。

どうしようか、ここで正直に王族だと伝えるのは、避けるべきだろう。しかし、普通の貴族の娘が命を狙われるというのもおかしな話だ。


どう伝えよう、そう悩んでいたら叔父の事を思い出した。叔父は母方の実家の当主だ。歴史ある貴族で、貿易関係の仕事を営んでいる。


「貿易関係関係の仕事をしている家なの。終戦してから、各国と関税問題で揉めることが増えて…娘の命を使って脅そうなんて人もいるみたい」

「そうか…」


(あら?)


青年の目が一瞬曇った。何か嫌な事でも思い出したのだろうか。


(聞きたいけど…今はまだそこまで踏み込むべきじゃないわよね)


今はまず、彼と知り合う時間を作るほうが先決だ。


「ずっと王都出生まれ育ったから、知らぬ村の憲兵を信じていいのか分からない。終戦からまだ四年しか経っていないから、王都から離れれば離れるほど治安が良くないと聞くわ」

「…」


以前乳母から、国の外れに行くにつれて治安が良くないと聞いた。どうやら青年の反応を見るに、その情報は正しかったようだ。これはあとひと押しかもしれない。エミリアは気合を入れ直す。


「人攫いから私を助けてくれたあなたしか、今は信じられない」


頑張れエミリア、うんと目を潤ませて弱々しい顔をしてみせるのだ。


「…」


青年は困惑をしているようだが、エミリアの事を心配してくれている。同情をしてもらえれば、助けてくれるかもしれない。


「王都の…近くまでだ」


どうやら根負けしてくれたようだ。心の中でガッツポーズをしておく。


これで王都につくまでに二人の時間がたっぷりとある。王都につくまでにお互いの事を知り合い、親しくなったらエミリアが王族である事を伝えよう。


(大丈夫、王族と結婚するには地位やお金が必要ということはないわ!)


特別な血を持つランドルフ一族は、地位やお金よりも優秀な遺伝子を次に繋ぐことが重要視されている。


エミリアは今後の展開に胸を躍らせていたので、アルフレッドがまた頭を抱えている事に気づかなかった。


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