出会い


(最悪だ…何でこんなところに)


アルフレッド・ヘイズは溜息をつきながら森の中を見つめていた。

視線の先には、野営をしている男たちが六人。全員体格が良く、野営慣れをしているのか、しっかりと見張りまで付けていた。


(そもそも、なんでこんな所にいるんだよ)


思わず舌打ちをしてしまう。


ここはルマイ王国とピベル王国の国境にあるこの森の中だ。

この森は常に霧が出ており入った者を迷わせる。そのため、この森には滅多に人が立ち入らない。


四六時中霧は出ているが、アルフレッドにとっては最高に住みやすい場所だ。


そんな森の中で、先程この男達を見かけた。

特に害のない者であれば放っておくのだが、縛られた女性を連れているのが見え嫌な予感がしたのだ。


男達の側に近づき耳を澄ませると、上手くいった、後は合流するだけだ、金がたんまりと入る、という話が聞こえてくる。


(やはり人攫いか)


アルフレッドの嫌な予感は当たってしまった。

思わず天を仰ぐ。面倒に巻き込まれたくは無いので、見なかった事にしたいのが本音だ。

しかし、アルフレッドの性格的に見なかった事にするのは難しい。


(はあ…仕方ない、やるか)


アルフレッドは腰に下げていた剣を手に持ち構え、相手との距離を測る。


男たちはまだ馬鹿笑いをしている。今から自分達に降りかかる悲劇にも気づかず、呑気なものだ。

まずは見張りの男からやろう。アルフレッドは音もなく見張りをしている男の後ろまで行った。そして、ゆっくりと腕を振り上げ男の首の後ろを叩く。


「!?」


後ろの首筋に一打をくらった男は脳震盪を起こす。アルフレッドは男が地面に倒れる前に受け止めると、音を立てないように気を付けながら男を草の影に隠した。

さて、あとは五人だ。どうやって怪我をさせずに倒そうか考えていると、男たちの輪から離れた所に繋がれている馬が目に入った。


(ちょっとだけ手伝ってくれ)


馬が騒がないよう優しく撫でながら、木に繋がる縄を外す。それが終わると手早く草木の影に隠れた。

そして、狙い通りの方向に向かってくれよ、と祈りながら馬に向かって小石を弾く。


「うわっ!?な、何だ!?」

「あ、危ねえ!暴れるな!!!」


小石を当てられビックリした馬は、狙い通り男たちが居るところへ走っていってくれた。

さあ後は一気に片付けよう。アルフレッドは混乱する男達の所へ音もなく近づく。


(まずは一人目)


アルフレッドは一番近いところにいた男の後ろに立ち、首の裏に鞘に入った剣を叩きつけた。男は叫ぶ暇もなく気を失う。すると、すぐ横にいた男がアルフレッドに気づき振り向く。だが、男は反応が遅すぎた。振り向いた瞬間に首の横を叩かれ気絶をする。


(二人目)


流石に残りの三人も異変に気づいたようだ。こちらをを指差し叫んでいる。

アルフレッドは騒ぐ男達に駆け寄り、目の前の男の鳩尾を強く殴る。横から剣を持った男が切りかかってきたが、足を払い体制を崩させてそのまま蹴り飛ばす。


(三人目、四人目)


あと一人足りない。周りを見渡すと縛っている女性を担ぎ、逃げようとしている男がいた。急いで男の方へ向かうと、男もこちらに気づいたようで慌てふためく。野営慣れはしているが、この男たちはどうも弱すぎるな、そう考えながら鞘に入った剣を男の鳩尾めがけて突き出す。男はうめき声を上げて気絶した。


(五人目)


特に大怪我をさせずに終えられた。気絶した男が担いでいた女性を受け止めながら、安堵のため息をつく。

男達も、まさかたった一人の男に一瞬で負けるなんて思ってもみなかっただろう。


「…おい、大丈夫か?」


女性を地面に下ろし声をかけるが、反応が無い。

息はしているので、睡眠薬か何かで眠らされているのだろう。


(はあ…面倒くさい)


面倒な事に首を突っ込みたくはないが、助けてそのまま森の中に放置するなんて非道な事はできない。

男達も気絶させただけなので、いずれ目を覚ますだろう。


アルフレッドは自分の隠れ家に女性を連れて帰る事にした。





◇◇◇





森の奥深く、大きな大木が連なり立ち並ぶ。


一見すると大木しかないその場所に、ひっそりと隠れるように建っている小屋がアルフレッドの隠れ家だ。


女性はまだ目覚めない。怪我をしている様子はないので、そのままベッドに寝かせている。


(目覚めたらさっさと村にでも送り届けよう。警備兵などに引き渡せばいい)


見捨てるということができない性分なので助けたが、さっさとこの女性とおさらばをしたい。

この女性は訳アリのような気がするのだ。


アルフレッドは寝ている女性をチラリと見る。

女性は柔らかそうな淡い金髪の髪をしていた。肌も色白で艶々しく、顔のパーツのバランスも整っていた。来ている服も上等な素材で、ふくよかな胸元からこれまた上等なレースが覗いていた。どこからどうみても、裕福な家庭のお嬢様である。


これだけの容姿と裕福そうな雰囲気を考えると、簡単に人攫いに合う環境では暮らしていないはずだ。なのに、なぜ攫われてしまったのだろうか。

そもそもあの男達の弱さも気になる。警備がしっかりしている裕福な家庭の女性を攫えるだけの実力ではない。きっとこの男達を雇った別の者が存在するはずだ。


(そもそも、なぜこんな国の外れにある森に男達は来たのだろうか)


王都からこの森までは馬を飛ばしても最低一週間はかかる。裕福なのであれば、この女性は王都に住んでたはずだ。


しかしアルフレッドはそこでハッとする。

なぜ自分はそんな事を考えているのだろうか。余計な事に首を突っ込むの辞めよう。


(これ以上面倒事に巻き込まれたくはない)


アルフレッドは静かに寝室を後にした。


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